可視化されたベーシックインカムの可能性 ⑨

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コロナ危機の経済システム

 古代ギリシアのアテネでは、世襲制と富裕層の支配がはびこり、土地が少数者の手に集中したことによって多くの人々が債務奴隷となった。民衆は貴族に反旗を翻した。そこへソロンが現れ、改革を行った。その中身は、債務の帳消しと債務奴隷の禁止だ。彼は、経済格差と貧困問題の責任を貴族に帰す次のような詩句を残している。

 「多くの財宝に満ち飽きたる汝ら、胸のうちなる激しき情けを鎮めて、大いなる心を適度に保てよ。我らとても従うまじく、汝らもすべてを得ることは能わじ」

 ギリシアの人々は、このときの債務の帳消しを「重荷おろし」(seisachtheia) と呼んだ。では、我々の時代の「重荷おろし」とはどういったものか。

 1つには、これまでの不必要に肥大化し低迷した大量生産消費の土台にバブルを載せたような社会経済をそのまま復活させるのではなく、経済をもっと「断捨離」(家の片づけ)してスリムにし、消費の規模を自然環境に相ふさわしい程度まで削減し、労働時間を短縮する合理的な経済システムに向かうことである。

 このことがコロナ危機のなかで問われている。アメリカでも日本でも経済再開を急ぐ人たちがいる。感染症拡大のリスクを冒しても、仕事をしなければ生きていけないという意味ではこの主張は理解できる。しかしその背景には、みんなが働いて所得を得るべきであるという完全雇用圧力に促進された就労観念が強く働いているといえる。そしてそれを根底で突き動かしているのは、資本と労働のこれまでの基本関係を維持しようとする、企業サイドの強い衝動だ。

 2つ目には、長期化が予想される。コロナ不況のもとでの生活の保障である。みてきたように、コロナ危機に対して各国で家計対策として取られている経済対策は「直接給付」が目立って多かった。いずれの国においても政策の中心は「雇用救済」ではない。これは感染症対策のうえからも当然である。しかし感染症が収束しても経済的なマイナスのインパクトが続くことが予想され、直接救済=無条件的な所得保障の必要性は高まるであろう。

 人々の行動様式の変容に伴って、適切な規模への経済の収縮が続くなら、所得保障の継続は必然的でさえである。また、同時に、政府は事業者に対して、雇用維持を条件に、各種の債務・手形を政府が中央銀行を通じていったん買い取ることなどが緊急に必要。

 大きな経済的ショックのあとに、古い経済関係がそのまま居座りつづけることはありえない。新しい経済関係がどのようなものであるかは常に不透明であり、その帰趨はアイデアのせめぎあいと社会各層の闘いいかんである。

 いま必要なのは、感染症対策の面で検査を強め、収縮した経済活動のなかで経済社会の基本的なニーズを精査し、それを満たす最小限の生産と労働のあり方を考え、すべての人々がそれを享受できるだけの所得が保障されるミニマムな経済に向かうことである。所得保障は、非自発的な労働領域を削減するためにも必要である。そうした経済に踏み出すためにも、伝統的な雇用と社会保障の観念にもとづく経済システムの不合理さをあらためて検討する必要がある。

2020年10月18日 (日)

可視化されたベーシックインカムの可能性 ⑧

続き: ベーシックインカムの役割  ベーシックインカムは、こうした 20c. 型の雇用と社会保障制度にどのように関わるであろうか。  第1 に、戦後の資本主義は完全雇用と社会保障を両輪として成長を遂げ...

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2020年10月17日 (土)

可視化されたベーシックインカムの可能性 ⑦

続き: □「包摂の危機」  第二次世界大戦後、先進諸国で形成された社会保障制度は、いわば常に全力で走り続ける経済からこぼれ落ちた場合の受け皿として制度設計されたものであった。それは職域によって分断的に...

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2020年10月16日 (金)

可視化されたベーシックインカムの可能性 ⑥

続き:  技術革新やAIが労働需要を削減し、失業を生み出すかどうかという問題があるが、答えはケースバイケースである。すべての人が雇用を通じて生活の糧を得ねばならないというシステムは、つねに労働供給のプ...

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2020年10月15日 (木)

可視化されたベーシックインカムの可能性 ⑤

続き:  1930年代の大失業時代、すべての労働可能な人々に雇用を与えようとしたアメリカのニューディール政策はたしかに大きな意味をもった。その後、第二次世界大戦中にアメリカ経済は年率12%で成長し、戦...

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2020年10月14日 (水)

可視化されたベーシックインカムの可能性 ④

続き:  イギリスでは、ボリス・ジョンソン首相が3月、ベーシックインカムを導入する可能性を、議会で労働党に次ぐ第3政党であるスコットランド国民党から問われ、「それは考慮すべきアイデアのひとつ」と答えた...

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2020年10月13日 (火)

可視化されたベーシックインカムの可能性 ③

続き: (2) ヨーロッパ諸国  ヨーロッパ諸国のコロナ対策は直接給付よりも休業補償が中心であるが、その規模はアメリカよりも大きく、日本より迅速である。  イギリスは休業した企業の労働者900万人に月...

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2020年10月12日 (月)

可視化されたベーシックインカムの可能性 ②

続き:  ベーシックインカムに対する共感が、コロナ危機の中で急速に広がりつつある。フェイスブックの共同創設者であり、2016年にベーシックインカムの実施と反独占(企業規制強化)を求める団体「エコノミッ...

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2020年10月11日 (日)

可視化されたべーシックインカムの可能性 ①

本田浩邦(独協大学経済学部教授)さんは「世界 9」に小論文を載せています。コピーペー:  現在、多くの国々でコロナ不況対策として休業補償や家計に対する直接給付が大規模に行われている。これらは2007~...

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2020年10月10日 (土)

Clinical 抗血栓薬多用時代に歯科医師が知っておくべきこと ⑨

続き: 6. 特に歯科医師の方に   歯科治療の際に、多くの患者が抗血栓薬を内服していることが予想される。まずは、アスピリンおよびワルファリン投与以外にも多くの抗血栓薬があるので、お薬手帳などで確認し...

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