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2012年10月

2012年10月31日 (水)

ITによって影響を受けた3つの労働態様の3つ目

3つ目は、長時間過密労働が一層促進されたことである。IT機器を使用する労働は、それ自体が軽負荷であるが故に、休息時間があったとしても、つい「区切りのいいところまで」と休息要求を無視しがちである。従ってITは、そもそも労働が過密になりやすい性質を孕んでいる。そんな職場では、パーティションで区切られた個人ブースでの仕事が多数を占めるから、必然的に集中力も上がる反面、それが一層休息要求を隠蔽せることになった。加えてITの深化がなされた労働は、セキュリティーも保証されているため、自宅においても仕事をすることが可能になり、長時間労働も助長された。自宅では、電車の時刻を気にすることがないため、ついつい就寝間際まで仕事を行いがちになり、その結果、睡眠時間が短くなり、睡眠を介して疲労が回復しにくくなったのである。これは、うつ病患者にソフトウェア会社の社員が多いことがよく知られていることの理由でもある。




2012年10月30日 (火)

ITによって影響を受けた3つの労働態様の2つ目

2つ目は、夜勤・交代勤務のまん延である。ITは、通信のネットワークの普及をもたらすことから、1日24時間のすべてを労働に費やすことが可能になった。その典型をグローバル化された企業に見ることができる。例えば海外にある本社と日本の支社のテレフォン会議は当然、本社時間に設定されることになる。時差の関係上、米国時刻が日本時刻より前進しているため、容易にわが国の労働者が長時間労働にさらしてしまう。また会議開始時刻が遅く設定されれば、わが国の睡眠時刻帯にかかってしまい、睡眠時間まで短縮されてしまう問題が出て来た。同時に、サービス労働の一環としても、24時間労働を助長する枠組みが整うことになる。その証拠に、もはや保守的なEU諸国にあっても、すでに9~17時のまともな時間帯に就労している労働者は、驚くべきことに全労働人口の15%に過ぎないとの報告がある。そのため、有史以来培ってきた昼間に労働して、夜間に休息するという睡眠一覚醒リズムが崩れることによって、睡眠を介して疲労が回復しにくくなったのである。そのような生体リズムが乱れた状態は、冬季うつ病の発症原因でもある。




2012年10月29日 (月)

ITによって影響を受けた3つの労働態様 その1つ目

ITによって影響を受けた労働態様の1つ目はサービス労働。ITのメリットは、これまで生じていた大企業ー中小企業、都市ー地方の垣根が無くなり、社会的労働弱者と言われた高齢者、障がい者、女性などの労働に対する敷居が低くなった。しかし、その一方その敷居の低さが、労働市場を急激に開放し、以前のようには商品が売れなくなった場合の次の労働の付加価値として、強めたものが顧客サービスの強化、サービス労働は、感情労働とも呼ばれるように、労働時には自らの疲労状態を表情に現すことが禁止され、その代わりに本人の意に介さない笑顔が強制されることから、身体的ストレスや精神的ストレスよりも疲労回復が遅い情動ストレスが生まれてきて、睡眠まで疲労が持ち越されることになってしまったのである。また、これまでコミュニケーションが不得手な、寡黙で真面目な労働者は、ひたすらモノづくりに専念することができた。しかし、もはや商品が売れない現在では、商品を自ら売りにいかなければならなくなった。その場合、サービス労働の一層の強化となるため、この種の労働者の情動ストレス解消不全が強まって、睡眠まで疲労が持ち越されていると見ることもできる。それは、ひいてはうつ病という病態に近づくことは想像に難くない。




2012年10月28日 (日)

睡眠衛生学的な立場から労働と疲労は

佐々木司(労働科学研究所 慢性疲労研究センター長)さんによると、: 現代労働者の疲労は、慢性疲労と呼ばれる。慢性疲労とは、疲労が睡眠まで持ち越され、数晩の睡眠によっても回復しない疲労のことである。この疲労時の睡眠の特徴を見ると、うつ病者の睡眠対策のヒントが見えてくる。そこで、まずそのような慢性疲労を生じさせている近年の顕著な3つの労働態様の変化、すなわちここ十数年来、労働過程に入ってきた急激なIT(Information Technology)によって労働がどう変わったのか、またそれによる睡眠構築の特徴とうつ病者の睡眠と対策について睡眠衛生学的な視点から解説。




2012年10月27日 (土)

見逃しを防ぐために

うつ病を見逃すことで患者は様々な苦痛を背負うことになるため、医療者がうつ病を的確に診断することは欠くことはできない。どうすれば、うつ病の見逃しが少なくなるであろうか。第一にうつ病は入院・外来を問わず約10%の患者には認められ、頻度の高い疾患であることを認識しておく必要有り。次に、うつ病発症の危険因子を知っておくこと。日常的に治療している慢性疾患そのものがうつ病の危険因子であることを覚えておきたい。痛み、ADLの低下している患者も日頃見受けるがこれらの症状も危険因子。高齢者では死別などのストレスの大きなイベントを経験することが多いが、これらがそういう因子であることを熟知しておく事。特に、高齢者は、死別がうつ病の最大ファクターなのだ。従って、診療の際には最近一大事がなかったのかが問診をすることによって確認。うつ病患者は身体症状を呈することが多いと述べたが、患者が身体の「どうこう」と訴えた場合に、身体面の原因を考えるだけでは不十分であって、うつ病をはじめとした精神症状を考えるべきだ。患者が精神症状を訴えないこともあり、中心的な病状の「抑うつ気分」、「興味・意欲の低下」等について患者に質問する習慣付けしておくことだ。興味、意欲低下等は、趣味や御稽古の中断が如何か、ペットに対して関心の薄れていく、孫と遊ぶことにどうでもよくなったなど、具体的な問題に関しての質問は大変大切なこと。次に、臨床の現場において再発がんで抗がん剤治療中の患者に、食べられない、だるいといった症状が出現した状況を例にとって、その診断と治療のプロセスについて考える。この状況ですぐに思い浮かぶのが、”進行がんで抗がん剤治療中”なので「がんの進行」、「抗がん剤治療中」といった条件の範囲のみの鑑別を考えることである。そうすれば、様々な原因を考えることができて、見落としを少なくすることが可能に。うつ病という病気は患者にとって非常に苦痛を伴う病態であることから早期発見治療は患者の苦痛から解放することが医療者に課せられた義務である。



2012年10月26日 (金)

うつ病の見逃しによって患者にとって不利益なことは

うつ病患者に及ぼすマイナスの影響は、(1)精神症状そのものの苦痛 : 患者にとって、不安および抑うつは苦痛を伴う症状である。うつ病から回復した患者にうつ病だった時のことを回想してもらうと「もう2度と経験したくない症状」という患者も少なくない。(2)QOL低下 : 患者のQOLは精神的苦痛を有する場合、疾患に対する適応の悪い場合に低下する。(3)適切な意思決定障害 :意思決定し精神症状により影響を受ける乳がん患者で術後化学療法を受ける割合を対象群と抑うつ群とで比較すると、対象群では92%が術後化学療法を受けたのに対し、抑うつ群では50%であった。治療に対するアドヒアランスが悪化し、慢性疾患の悪化を招く。(4)自殺との関連 : がん患者を例にとると、自殺患者の調査では約80%が抑うつを呈していたとの報告がある。がん患者の自殺率は、一般に比較して約2倍であり、疼痛、絶望感、予後の悪さ、抑うつが危険因子である。(5)家族への影響 : 家族も精神的に苦悩し、抑うつの程度は患者と同等かそれ以上であることが知られている。



2012年10月25日 (木)

がん患者におけるうつ病と見逃し

(1) 有病率 : がんの診断を受けることは、人生における衝撃的なできごとであり、患者は、様々なストレスを受けるため、うつ病を発症することがまれではない。がん患者における部位別、病期別でのうつ病有病率調査研究によると、肺がん切除後1.7~8%、再発乳がん患者7%、切除不能肺がん5%、治療中がん患者6%、終末期12%であった。進行がん患者でのうつ病5~26%にみられることが知られている。 (2) うつ病発症に関連する危険因子 : 危険因子に関する調査では、初期治療時の抑うつ、社会的な支援欠如、痛みなどが関連していると言われている。 (3) がん患者におけるうつ病の見落としについて : がん患者では様々な原因によりうつ病が見逃されている。 ①身体症状と解釈する→がん患者は疾患そのものおよびがん治療により様々な身体症状を呈示する。進行がん患者の調査では、倦怠感84%、活動性低下81%、食欲低下57%、体重減少51%などである。しかし、これらはうつ病ではしばしば認められ、うつ病診断基準にも含まれる症状である。がんの症状とうつ病の症状が重なり合っているために、がんによる症状とみなされてしまうことが多い。実際、がん医療に従事する医師・看護師による評価は客観的な重症度と一致することは低く、重症例(うつ病の)ほど見落としが多い。 ②うつ病に対する知識欠如→患者、家族、医療スタッフも「がんだからうつ状態になるのは当然」とみなしていることも多いので、うつ病が見逃されてしまう原因となる。 ③適切な問診を行っていないこと→患者に対して現在抱えている感情に関して質問することは、患者に対して侵襲的であり、時間を要し、取り扱いが困難と思われているため、質問をちゅうちょする傾向があるが、感情の問題を表現することで患者は感情的に落ち着くことが知られている。いたがって、うつ病の診断をするためにも感情面で患者と話し合うことが望ましいのだ。 ④患者サイドの問題→うつ病に罹患している患者の10%はうつ病であることを自ら否定してしまうので、治療につながらないこともある。



2012年10月24日 (水)

高齢者におけるうつ病の特徴と見逃し

(1) 高齢者におけるうつ病の頻度 :うつ病は65歳以上の高齢者では2%に認められ閾値に満たさない subsyndromal depression は15~30%に上り、プライマリケア受診患者では10%がうつ病に罹患している。 (2) 危険因子 :高齢者のうつ病発症危険因子としては、●女性●慢性疾患の罹患●ストレスフルなライフイベント(死別など)●機能低下●社会的孤立 などがある。 (3) 高齢者におけるうつ病の特徴 :高齢者のうつ病は若年発症のうつ病と比較し、抑うつ、悲哀感、希死念慮に乏しく、体重減少、不安感、イライラ感が前面に出ることが多い。また、遂行能力の低下も多く認められる。抑うつ気分はうつ病の診断における重要な症状であるが、これに頼りすぎるとうつ病を見落としてしまうことがある。 (4) 見落としの原因、十分な治療がなされない原因 :うつ病はプライマリケアの領域でしばしば見落としがあり、また十分な治療がなされていないことが知られている。その原因としては、身体症状と解釈されることが原因の一つとして挙げられる。なぜなら、この疾患は感情障害圏に分類される精神疾患であるが、患者は様々な身体症状を訴えることが知られており、頻度としては70%近くに上るためである。十分な治療のされない要因としては、患者サイドのうつ病に対する stigma および抑うつは年のせいと考えてしまうこと、精神疾患に対する治療の必要性を感じないことがある。

     なお、http://masa71.com/ 新masahide ホームページもよろしく。



2012年10月23日 (火)

見落とされやすいうつ病

大西秀樹(埼玉医大国際医療センター教授)さんの文をコピー・ペー:うつ病は日常臨床で高頻度の疾患で、これが治療されないと、本人の苦痛だけでなく、QOLが低くなり、家族にも苦痛が、そして自殺なども起きる。しかし、治療ににより回復が望めることから、適切な診断と治療を欠かすことはできない。診断のための基準も作成されている。<◎ うつ病患者が呈する症状と診断基準 >  【精神症状】 ①抑うつ気分 ②興味・意欲の低下 ③自責感 ④希死念慮 【身体症状】 ⑤食欲不振 ⑥全身倦怠感 ⑦制止 ⑧不眠 ⑨集中困難、その中で<診断の要件>は A 必須要件: ①、② どちらか B ①~⑨項目のうち、5項目以上が2週間以上にわたって存在すること。しかしながら、精神科以外の医療従事者からうつ病を認識する割合は40%未満に過ぎない。そのことが、うつ病患者は適切な診断と治療を受けていない現状がある。





2012年10月22日 (月)

疾患の背景にあるうつの治療 <2>

うつ→心理的アプローチ : ライフスタイルの偏りから生じるストレスが問題となる症例には、意識や行動の転換を図る、ストレス耐性を高める、感情のセルフコントロールを図るなどの、いわゆる自己成長モデルからのアプローチが必要。うつに陥りやすい几帳面、完全癖、自己犠牲、などの病前性格に影響を受けたライフスタイルの修正が重要な課題となる。時間を決めて休養をとる、決まった時間に就寝するように心がける、などの生活時間帯の調整、他人の仕事まで抱き込まない、感情表現を豊かにする、といった認知行動療法的治療が必要になってくる。また環境や状況の変化を積極的に受容、適応できるような柔軟性を養う。上司や同僚、友人、家族によるソーシャルサポートは、ストレス状態の緩和と葛藤の解決に役立つ。うつには個人的因子のかかわる部分も多いことから、患者教育も必要で、早期に専門家のコンサルテーションが受けられるシステム作りも考えるべきである。





2012年10月21日 (日)

疾患の背景にあるうつの治療 <1>

薬剤治療→症状の軽減 : 身体疾患の症状に加え、うつ加わると、食欲が失くなり、倦怠感、微熱などの愁訴や不眠、集中力、意欲、気力低下、不安、抑うつなどの精神状態も出てくる。こんな苦痛を解消させれば健全状態を回復させることにもなる。そんな考えで、一般臨床家のドクターも抗うつ剤使用に積極的に行動すべきである。しかし、うつが診断されても抗うつ剤の投与法に習塾してないと、うっつの治療が不十分になるので、十分な学習や経験を積むことが重要になる。抗うつ薬のうつそのものに対する効果は、経口投与の場合、血中濃度が十分に上昇するまでの数日~1週間が必要で、実際のところ、抗うつ剤の鎮静作用や抗不安作用、REM睡眠正常化作用の効果もあって、服用した初めから不眠や不定愁訴が劇的に改善するというような体験に良く有る。3環系抗うつ薬は高ヒスタミン作用があって、食欲増加、体重も増加してくることが容易で、代謝系に問題のある患者には避けて、選択的セロトニン再吸収阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再吸収阻害薬(SNRI)、などを処方する。症状安定するまでの数ヵ月は定期的な服用を実行させ、改善につれて徐々に減量、維持量に持ってゆくのが原則。症状が改善したからといって急激に服薬中止すると、多くは再発を発揮し、あらかじめ患者によく説明しておく必要有り。抗うつ薬は軽症のものでは少量で効果を発揮することが多いが、薬剤服用に対するコンプライアンスが良好ならば、さらに日中の投与(患者にとっては服用のこと)などで増量し、うつの十分な治療を行うようにする。



2012年10月19日 (金)

糖尿病・慢性疼痛・慢性疲労とうつ

糖尿病患者には高い頻度でうつが生じ、成人患者における頻度は約15%であり、一般人口有病率の約3倍であるとされる。うつ患者のインスリン感受性(SI)はうつの重症度にかかわらず低値で(高インスリン血圧になりやすい)、うつが回復するとSIも改善することにより、うつ病患者には耐糖能異常が生じやすいとされている。2型糖尿病患者の多くが、デキサメサソン抑制テストでCRHに対する反応が大きく、デキサメサソンでも抑制されにくいことから、視床下部・下垂体・副腎(HPA)系の活動亢進が存在し、これはうつ病に類似した反応であるところより、うつと糖尿病の親和性が示唆されている。●慢性疼痛 : 痛みの閾値の変化には、交感神経の緊張や興奮、痛みに対する精神的とらわれやこだわり、睡眠不足や心身の疲労度、など多くの要因が関与している。痛みが慢性化するに従い、自信喪失、意欲や集中力の低下、無力感、焦燥感などが増強し、不安や緊張、恐怖、抑うつなどの心理的反応が生じる。慢性疼痛では、身体的な外傷や疲労、筋関係のストレスにより、筋肉・血管系の攣縮、疼痛物質による刺激、二次的な血流障害、疼痛閾値の低下などの生理的変化が起こる。さらに、自律神経、内分泌、免疫系のシステムにも悪影響を及ぼし、激しい疲労感、慢性に続く倦怠感、食欲不振、微熱など多彩な全身性の愁訴に発展する。慢性頭痛患者において「身体症状を伴う」「頭痛が6ヵ月以上続く」などの場合、うつ病を有する頻度が高いとされており、上記のメカニズムが関与している良い例である。近年注目されている線維筋痛症(fibromyalgia)は、長期間持続する全身の筋肉や関節などの結合繊の疼痛や倦怠感、睡眠障害、精神症状などを特徴とした慢性疼痛の代表的疾患である。Hadsonらは線維筋痛症患者の71%にうつ病の既往があり(64%の患者が発生1年以上前にうつ病を経験)、関節リウマチ患者の13%に比較しても有意に高かったと報告など、うつとcomorbidityが論じられている。板橋病院心療内科の調査でも72.7%に(CMI領域Ⅲ以上の)神経症傾向、87.5%にSDS(自己評価式抑うつ尺度)で軽度以上の抑うつが認められている。うつは多彩な身体症状に加えて、痛みの閾値を低下させ、患者の苦痛を増幅させることより、線維筋痛症の疼痛を増強・修飾していることが分る。●慢性疲労 : うつは慢性疲労症候群(Chronic Fatigue Syndrome以下CFS)に多発する症状であり、米国のCDCの診断基準の小クライテリアには抑うつ存在が、わが国の厚労省研究班による診断基準にも、反応性うつ病の存在も認めている。しかし、うつの症状は単なる精神症状に止まらず、著しい倦怠感、微熱、睡眠異常、頭痛、筋肉痛などCTSの診断基準のほとんどを占めるほどの症状を呈してくるものであり、その異同を鑑別することの困難を感じることも少なくない。





2012年10月18日 (木)

循環器疾患とうつ

交感神経の過剰緊張による心身反応は健康障害と密接な関係がある。日常的な怒りや敵意はこの交感神経を慢性的に緊張させ、疲弊がうつを招く。循環器系が標的となると虚血性心疾患や高血圧などの疾患を形成し、しばしば致命的な結果となる。① 高血圧 : 血圧は主に遺伝と環境に規定されるが、環境因子の一つとして社会的心理的環境の影響は常に考慮されるべきだ。高血圧患者の交感神経優位のライフスタイルは、さまざまな心身のストレス状態を招き、ノルアドレナリンなどの分泌が刺激血管の収縮、心拍出量の増加が生じ血圧が上がる。高血圧患者の15~20%程度にうつが見られ、うつが加わると夜間収縮期血圧や早朝収縮期血圧があがり、心不全の発症率が増加する。② 不整脈 : 発作性頻拍症(上室性、心室性不整脈など)や致死性不整脈(心室性頻拍、心房細動など)の誘因に、情動的特性として慢性の不安、強い敵意、敵意の不適当な表現、強迫傾向、抑うつ傾向が上げられており、精神的緊張(不安、立腹、緊張)や心理的ストレス(人間関係の葛藤、公的不面目、夫婦の別居、近親の死別、事業の失敗など)によって影響を受け、これらの心理的症状の背景にあるうつを評価して的確な治療に結び付けてゆく必要がある。③ 虚血性心疾患 : ストレスと冠動脈疾患との関係については、種々の危険因子を引き起こすライフスタイルや性格的な要因が問題となる。心身医学的にも興味深いテーマは Type A behaviour である。闘争的、攻撃的、野心的、強い敵意、性急、切迫感、完全性などの性格的特性に裏付けされる行動特性をもつ人は、そうでないタイプ B(Type B)よりも7倍の高率で冠動脈疾患が存在し、2倍以上の頻度で心筋梗塞が発症するという。これら一見うつとは無関係と思われるような人たちにうつの発症の頻度が高いことも指摘されている。冠動脈疾患を持つ患者にうつが加わると心血管イベントの頻度が上昇する、心筋梗塞患者の6ヵ月後の死亡率が5.7倍に増加する、などの報告があり、うつは虚血性心疾患の病態や予後を悪くする。④ 脳血管障害 : 脳血管障害後の患者の20~40%に抑うつが認められ post stroke depression と呼ばれている。脳血管障害発症後にうつを併存するとリハビリが遅れ、機能回復に時間がかかるため入院が長期にわたる。AOLが低下して日常生活に支障をきたすなどの悪影響も出てくる。また栄養や睡眠の障害、身体機能の低下などから10年後の生存率も悪くなる。こうしたことが分かっているから、発症早期からうつの対策が重要である。





2012年10月17日 (水)

呼吸器疾患とうつ <2>

④ 神経性咳嗽 : nervous coughーこれは何らかの心理的機制により、発作性、あるいは持続性に乾性咳嗽が生じるものである。炎症、気道過敏性やアレルギー要因などが認められないところより、除外的に診断されることが多い。上気道炎、気管支炎が契機になり発症することが多く、咳症状に注意集中やとらわれが生じる心理的機制の診断が重要になる。強迫的な神経症状態、うつ状態が関係することが多く、そこで抗不安薬、抗うつ薬の投与を行い、心理療法の適応が考えられる疾患である。 ⑤ 慢性呼吸不全 : 経過の長い慢性呼吸不全患者は、進行する肺機能の低下、活動性の障害などストレスの多い日常生活の中でさまざまな心理的問題を発生しやすい。COPD(慢性閉塞性肺疾患)の呼吸機能はうつが加わると低下する、COPDにうつが加わると3年後の死亡率が増加するなど報告有り、病態にも大きな影響を与える。HOT(在宅酸素療法)を受けている慢性呼吸不全患者は、自分に対する否定的な感情が強く、learned helplessness(獲得された無力状態)に陥るなどQOL低下の原因にもなっている。不安薬や抗うつ薬などの服用に危険性がある場合は、十分な心理的サポートを行って不安、抑うつ気分の緩和を図るなどが必要である。





2012年10月16日 (火)

呼吸器疾患とうつ <1>

人間は不安、恐怖、緊張、驚愕などの精神的負荷で息苦しい、呼吸が荒くなる、など呼吸器に象徴的な反応や症状が出現しやすく、うつが加わるとさらに病態が修飾されて複雑に変化する。 ① 風邪症候群とうつ :常に風邪をひきやすい、いつものどが痛い、などの訴えをする患者に自律神経失調状態やうつ状態が見られることが多い。板橋病院心療内科で調査しても、慢性ストレス状態にある人の方がより風邪をひきやすく、治りにくい。これらの患者に対して、抗不安薬や抗うつ薬の投与が風邪の治療に有効なことが多く、うつの治療を続けていると風邪をひきにくくなったという患者は多い。 ② 気管支喘息とうつ :アレルギー、気道過敏性の亢進、気道粘膜の炎症、粘稠な気道分泌の増加などに加え、遺伝的素因、自律神経異常、内分泌異常、さらには心理的ストレスの存在などが関与しているとされ、この修飾因子の多さが気管支喘息の病態を複雑にして難治させる原因である。気管支喘息患者の45%が抑うつ症状を訴え、うつは喘息のコントロールを悪くさせ、喫煙と同じく、喘息死の危険因子になるという報告がある。板橋病院心療内科の調査では、全体の87.5%に心理的病態が認められ、ストレス関与群が36.3%、神経症状態群が30.4%、うつ状態群が20.8%であった。うつは喘息の病態を修飾するばかりでなく、患者の治療に対する意欲を減退させ、コンプライアンスを悪くし症状に対する対応を遅らせる原因にもなる。 ③ hyperventilation syndrome(過換気症候群):これは、呼吸器系心身症の中では最も頻度の高い疾患で、近年ではパニック障害とのcomorbidityにも注目されるようになり、過換気発作がパニック障害の一症状として現れることもある。突然の胸痛、呼吸困難、四肢の痙攣やしびれ、めまい、失神感、極度の恐怖や不安感などの症状を訴える。本症は背景に不安、緊張、うつなどの心理的要因が大きくかかわっているため、一般的な対症療法ではなかなか改善されず、不安やうつが正確に診断されて、的確な処方がなされて初めて身体症状が改善されてくるものである。




2012年10月15日 (月)

消化器疾患とうつ

① 過敏性腸シンドローム:IBSは大腸を中心とした腸管の機能異常性疾患で下部消化器疾患の中では最も高い頻度とされる疾患だ。日本では一般人の14~22%が症状を持つとされるが、実際は有症状者の20%しか受診をしていない。20歳~40歳の年齢に多く、男性1:女性1.6の割合である。腸管の運動分泌亢進が主な変化であり、排便の異常を示す。発症に心理社会的要因のか関わりがあり、多彩な自律神経失調症状や不安、緊張、抑うつ、焦燥、不眠などの精神症状も伴う。IBS患者はパニック障害の有病率も高く、不安や抑うつとの関連も議論されている。② 機能性ディスぺプシア:これは、上腹部もしくは胸骨下部の痛みまたは不快感、むねやけ、悪心、嘔吐その他、上部消化管に由来すると考えられる症状が続くのである。本症の患者は、しばしば不定愁訴を訴え、倦怠感、肩凝り、冷え、立ちくらみ、背部痛などの愁訴が多く見られる。うつのかかわりが強ければ症状はいろいろ修飾され、遷延、慢性化の傾向を示す。内視鏡的に異常所見の認められない症候性GERD患者は不安・抑うつ度合が高いという報告もある。




2012年10月14日 (日)

身体疾患とうつの関係

うつの初期は典型的な精神症状を伴わないことも多く、むしろうつそのものは軽症の段階である。しかしうつが軽症だからといって患者の症状が決して軽症というわけじゃない。軽症のうつは精神症状よりもむしろ多彩な身体症状を呈してくるので患者の苦悩は非常に大きく、日常生活に与える影響は健康人が考える以上に大きい。しかし、現実の臨床ではあらゆる検査をしても、この抑うつが診断されないために、症状の改善が見られないまま患者のドクターショッピングを招いていることが多い。(1)消化器疾患とうつー過敏性腸症候群、機能性ディスぺプシア(2)呼吸器疾患とうつー風邪症候群、気管支喘息、過換気症候群、神経性咳嗽、慢性呼吸不全(3)循環器疾患とうつー高血圧、不整脈、虚血性心疾患、脳血管障害(4)糖尿病(5)慢性疼痛(6)慢性疲労などとの関わりは、診断基準のほとんどを占めるほどの症状からその異同を鑑別することの困難を感じる程度までもある。




2012年10月12日 (金)

現代人の健康をおびやかす「うつ」

村上正人(板橋病院心療内科部長)さんは次の様に述べている。(1) 健康阻害因子ーうつ:近年、人間を取り巻く健康環境は著しい変化を見せており、現代人の病気は人間の内部から発生する悪性新生物、生活習慣病、ストレス関連の病気が主となる。WHO報告によると、世界における健康な生活を阻害要因を障害調整生存率(DAY:Disabilty Adjusted Life Years)により算出しているが、特に日本、米国、英国などを含む高所得国50ヵ国では、その第1位がうつ病であり、2位以降、虚血性心疾患、脳血管障害、アルコール関連依存症などが続き、10位以内にはCOPDや糖尿病などの生活習慣と密接関係のある病気が続いている。(2) 生活習慣病ーうつ:癌、虚血性心疾患、脳卒中、糖尿病などの疾患に罹患すると、その心理的負担、健康観の喪失からうつに陥るリスクが大。またうつは自律神経系、内分泌系、免疫系の生理的機能のシステム障害を招き虚血性心疾患、高血圧、糖尿病などの身体疾患の遷延化、慢性化など病態を悪化させる。これらの生活習慣病の発症と経過には、加齢、食生活や喫煙、飲酒、運動、睡眠、休養などの生活習慣やライフスタイルが大きく関係する、しかし、この生活習慣の乱れやゆがみの背景にある心理社会的ストレス要因への配慮も重要である。特にうつに陥ると、集中力、意欲や気力、忍耐力が低下し、生活への細かい注意や配慮が欠落し、食生活や服薬が乱れがちになり、時には自棄的になった過度の飲酒や喫煙に走ってしまう。ひきこもりから運動不足に陥る。不眠が重なりさらに生活習慣が乱れる。こんな悪循環を招きやすくする。(3) メタボリックシンドロームーうつ:抑うつやストレスフルなライフイベントがメタボリックシンドローム発症のリスクを高めるとされ、うつとメタボリックシンドロームの関係が注目されている。メタボリックシンドロームとは、内臓脂肪型肥満に加えて高血糖、血圧高値、血清脂質異常のうち2つ以上を合わせ持った状態のこと、これらの因子(高血圧、腹部肥満、中性脂肪高値、空腹時血糖高値、HDLコレステロール低値)が多いほど抑うつの頻度が高いとされる。当然、動脈硬化の進行は心筋梗塞や脳梗塞を発症するリスクを高めることになる。メタボリックシンドローム患者は抑うつ症状を伴う頻度が高いが、逆にメタボリックシンドロームの予防はうつ発症の予防にもなるという報告もある。




2012年10月10日 (水)

うつ病の正しい理解と診断

うつ病の正しい理解と診断を促進するために、精神疾患の原因として外因、内因、心因の区別をし、内因性うつ病と心因性うつ病の見分け、従来型うつ病と新型うつ病の解説や、双極スペクトラムの説明を行った。表面的には同じようなうつ病に見えても、さまざまな切り口から探りを入れていくと異同が明らかになることを理解してください。そのような異同に注目して、薬物療法や精神療法を組み立てていくことになる。





2012年10月 9日 (火)

双極性スぺクトラムと双極性うつ病

1899年にクレぺリンというドイツの精神医学者が提唱した躁うつ病は、躁病エピソードやうつ病エピソードのいずれかが1種類のみを繰り返す単極性のものと、躁病エピソードもうつ病エピソードも生じる双極性のものを区別しておらず、現在用いられている気分障害という言葉とほぼ同義であった。このような立場を躁うつ病一元論と呼ぶが、これはあまり広すぎるという批判もあった。そこで、1960年代には、気分障害の経過、発症率の性差、遺伝歴、病前性格などを検討した結果、双極性障害と単極性うつ病の2つに分けるべきという意見(二元論)が強くなった。この時期を境に、躁うつ病を双極性障害と単極性うつ病に分離する動きが出てきた。その後、1980年にDSM-Ⅲという米国精神医学会が作成した診断基準に双極性障害という名称が登場し、1992年のICD-10というWHOの作成した診断基準にも双極性障害が明記された。1995年にバルプロ酸が双極性障害の治療薬として米国で承認されると、躁うつ病という名称よりも双極性障害という名称をタイトルに入れた論文が急速に増加したことも知られている。この時期には、バルプロ酸のような気分安定薬を投与する対象が双極性障害という認識が深まったと考えられる。ところが、双極性障害と単極性うつ病がまったく別物かというとそうではなく、アキスカールという米国の精神医学者は両者の移行を重視して双極スぺクトラムという概念を提唱した。これには、単極性うつ病の患者に抗うつ薬を投与中に躁転すれば、双極Ⅲ型障害と診断するとか、循環気質の患者うつ病になった場合には(軽躁エピソードや躁病エピソードがなくとも)双極Ⅲ/2障害と診断するとか、あるいは発揚気質の患者がうつ病になった場合には(軽躁エピソードや躁病エピソードがなくとも)双極Ⅳ障害と診断するとか、いろんな工夫が見られるが、要は、単極性うつ病の中に躁的因子を見出して双極スぺクトラムという広い意味での双極性障害に診断変更しようという試みである。この意義としては、動機づけを与えてくれるということになり、実際に気分安定薬によって改善する(双極スぺクトラムの)うつ病患者も少なくない。単極性うつ病から双極スぺクトラムを抽出する躁的因子としては、現在の特徴として過眠、過食、不安症状の合併、精神運動制止、気分変動性、精神病症状、自殺念慮、などがあり、過去の特徴として若年発症、うつ病エピソードの再発が多いこと、うつ病の罹患期間が長いこと、症状の急速悪化と急速改善、繰り返しの離婚や転職などがある。また、抗うつ薬への反応の特徴は、何種類もの抗うつ薬に反応なし、逆に抗うつ薬によって急速反応有り、抗うつ薬によって不眠、焦燥感、不安感など賦活症状が生じること、児童・思春期のうつ病では抗うつ薬により自殺念慮が生じることがある。



2012年10月 8日 (月)

新型うつ病の台頭

日本では、うつ病の病前性格つぃて、執着気質(まじめで几帳面)やメランコリー親和型性格(規則・規律を重んじ順守することで安心でき、他人に貢献することが幸せと感じることができる)が強調され過ぎたせいで、「まじめで几帳面な人が過労に陥って疲れ果ててうつになる」というストーリーが過度に浸透した。実は、このような傾向は日本とドイツだけであって、他の国では認められていない。せいぜい神経質傾向の人がうつ病になりやすいと報告されるぐらい。周知のごとく、両国は第二次世界大戦の敗戦国だ。語弊があるかもしれないが、戦争ですべて失った「おかげ」で高度成長期を迎えることができたとも言える。高度成長期では、終身雇用制や年功序列、右肩上がりの昇給が保障され、努力すれば、するほど評価や報酬を得る。勤勉性が大きく評価される時代を経験できた。そのため、「まじめで几帳面な人が過労に陥って疲れ果てうつになる」ストーリーに該当する勤労者が多かった。しかも、「まじめで几帳面な人が過労に陥って疲れ果て」という部分がわかりやすいあまりに強調され過ぎた反面、「疲れ果てうつになる」という部分があまり吟味されずにうのみにされたきらいがある。実際には、「疲れ果ててもうつにならない」人も多いにもかかわらず、「疲れ果てるとうつになる」のが当然のように誤解されてしまったという問題点もある。つまり、ここでも病気としての認識が希薄になったのであるが、従来型うつ病の本態としては内因性うつ病も心因性うつ病もありうる。さて近年、日本ではいわゆる新型うつ病の台頭が注目されているが、これは先ほどの「まじめで几帳面な人が過労に陥って疲れ果てうつになる」ストーリーでカバーできない患者のこと。高度成長期の恩恵にあずかれなかった人たち、-長期にわたる不景気や、年功序列や終身雇用制度崩壊の影響を受けて、努力しても報われない社会に育ち、不条理な解雇やリストラを目の当たりにし、何らかの大きな組織に帰属するよりも個人の即物的な考えに従おうとする人たちである。これらの人々は、組織に対する協調や貢献といった考えを持つことがなかなかできないために職場に適応できず、上司や同僚への他責的・被害的になり、実際には過労するほどの仕事はいないにもかかわらず、抑うつ状態を呈する。本人はそれなりに悩んでいるが、深い内省は伴えず、医師から「うつ病」というレッテルを貼られることで、あるいは、自らそのレッテルを貼ることでその中で安住してしまうような危険性をはらんでいる。新型うつ病の本態としても、心因性うつ病も内因性うつ病も両方あり得る。しかし、新型うつ病には抗うつ薬の投与がある程度の効果を示すことはあっても十分でない。結局のところ、人間的な成長が不可欠とされている。これが長期的な精神療法が必要とされるゆえんである。

2012年10月 6日 (土)

内因性うつ病と心因性うつ病の違い <2>

さらに、心因性うつ病では「なぜうつ病になったのか」という問いに対して患者自身が振り返って答えを出すことができる。「上司との葛藤で疲れ果てた時に(うつ病になった)」などというストーリーである。しかし、内因性うつ病の場合には、「なぜかよくわからないが気分がすぐれず、おっくうになった。考えがまとまらず、夜も眠れず、体重も減った」などと訴える。また、初回のうつ病エピソードにいろんなストレスが重なっていても、2回目以降の再発では「特に思い当たるふしがないにもかかわらず、再発した」と訴える患者も少なくない。このことは、うつ病の発症ないしは再発に、ストレスが関与していない場合がしばしばあり、特にそのような時には、心理学的理解(なぜうつになったかという原因探し)が追いつかないことを意味しており、われわれの理解を超えた深刻な事態が脳の中で生じていることを暗示している。また、たとえ心理学的理解が可能な心因性うつ病が生じていたとしても、いったん内因性うつ病へ移行すると、そこには後戻りできない不可逆性の事態が生まれる。職場のストレスが明らかにかかわっていたとしても、休職させてストレスを軽くしてもなかなか良くならないのは、後戻りできない不可逆性の事態になったと言い換えられる。これらの了解不能性や不可逆性は、先ほどの自律性や再発性と通底している。今まで、心因性うつ病と内因性うつ病の異同について述べてきた。心因性うつ病になくて内因性うつ病にある属性は、自律性、再発性、了解不能性、そして不可逆性である。さらに、便宜上「心因性うつ病が内因性うつ病に移行する」という表現をとったが、そもそも心因性うつ病の中には、真の心因性うつ病と、心因性うつ病の姿をしながら、実のところ内因性うつ病であるものが潜んでいることも注意するべきである。言い換えれば、内因性うつ病に移ったという心因性うつ病は、そもそも内因性うつ病であった可能性が高いということだ。この鑑別診断はなかなか難しいのだ。なお、心因性うつ病の一部を適応障害として捉えることもできる。DSM-Ⅳ-TRでは、適応障害の診断基準を、以下のように規定している。A.はっきりと確認できるストレス因子に反応して、そのストレス因子の始まりから3ヵ月以内に情緒面または行動面の症状が出現。B.これらの症状や行動は臨床的に著しく、それは以下のどちらかによって裏付けられている。①そのストレス因子に暴露されたときに予測されるものをはるかに超えた苦痛②社会的または職業的(学業上の)機能の著しい障害ー。C.ストレス関連性障害は他の特定のⅠ軸障害の基準を満たしていないし、既に存在しているⅠ軸障害またはⅡ軸障害の単なる悪化でもない。D.症状は、死別反応を示すものでもない。E.そのストレス因子(またはその結果)がひとたび終結すると、症状がその後さらに6ヵ月以上持続することはない。さて、内因性うつ病は「メランコリー型の特徴」(註:後述するメランコリー親和型性格とはまったく関係なし)とも関連していると考えられる。因みに、「メランコリー型の特徴」とは米国精神医学会のDSM-Ⅳ-TRという診断基準では次のように定義されているので、参考にしてください。A.現在のエピソードの最も重症な時期に、以下のどちらかが起こる。①すべての活動における喜びの消失(何をやっても楽しくない)②普段快適である刺激に対する反応の消失(良いことがあってもうれしくない)ー。B.以下の3つ以上①はっきりと他と区別できる性質の抑うつ気分②抑うつは決まって朝に悪化する。③早朝覚醒④著しい精神運動制止または焦燥⑤明らかな食欲不振または体重減少⑥過度または不適切な罪責感ー。




2012年10月 5日 (金)

内因性うつ病と心因性うつ病の違い <1>

まず、うつ病は単なる気分の落ち込みではない。精神科臨床で汎用される診断基準に、米国精神医学会のDSM-IV-TRがあるが、うつ病のひとつの病相(大うつ病エピソード)の診断基準は以下のとおりである。A.以下の症状のうち5つ以上が同じ2週間の間に存在し、病前の機能から変化を起こしている。これらの症状のうち、少なくとも1つは抑うつ気分あるいは興味または喜びの喪失である。①ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分②ほとんど1日中、ほとんど毎日の、ほとんどすべての活動における興味、喜びの喪失③食餌療法をしていないのに、著しい体重減少あるいは増加、またはほとんど毎日の食欲の減退あるいは増加④ほとんど毎日の不眠または過眠⑤ほとんど毎日の焦燥または制止⑥ほとんど毎日の易疲労性または気力の減退⑦ほとんど毎日の無価値観または過剰であるか不適切な罪責感⑧ほとんど毎日の思考力や集中力の減退または決断困難⑨死について反復思考、反復的な自殺念慮または自殺企図ー。B.症状は混合性エピソードの基準を満たさない。C.症状に臨床的に著しい苦痛、または社会的、職業的、あるいは他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。D.症状は、物質(乱用薬物、投薬など)の直接的な生理学的作用、または一般身体疾患(甲状腺機能低下症など)によるものではない。E.症状は死別反応ではうまくせつめいされない。すなわち、愛するものを失った後、症状が2ヵ月を超えて続くか、または著明な機能不全、無価値観への病的なとらわれ、自殺念慮、精神病性の症状、精神運動制止があることで特徴づけられる。すぐにわかることは、うつ病が正常範囲の落ち込みの延長線上にはなく、「病気」に発展したものということである。さて、心因性うつ病は、人間関係や過労などのさまざまなストレスが原因でうつ病が生じるものである。あくまでもストレスが原因なので、理屈としては、原因であるストレスが除去されれば速やかにうつ病が改善することが要請される。実際に、うつ病の患者を過酷な職場から回避させる目的で自宅静養させたり、入院させたりするだけで、数日以内にうつ病が改善することがある。このような場合には、後から振り返って、その患者が心因性うつ病に罹っていたと確認する。しかし、その一方で、いくら回避させても、一向に良くならないことがある。その時には、もはや心因性うつ病ではない、内因性うつ病に移行したのだ。この質的変化の主なものは、自律性と再発性だ。自律性とは、うつ病の経過を支配しているのはもはやストレスではなく、うつ病そのもの。自律的な経過では、徐々に悪くなり、底ついた後に、軽快していく。このような内因性うつ病には、休息だけでは不十分で、抗うつ薬を中心とする薬物療法や支持的な精神療法が必要。これらは、うつ病の重篤さを軽減し、期間短縮効果が期待できる。また、再発性とは、いったんうつ病エピソードから回復しても、また再発する可能性がある。したがって、再発予防する治療も必要ということ。


2012年10月 4日 (木)

外因性、内因性、心因性の鑑別

うつ病に限らず、様々な精神疾患は、いろんな原因から生じる。その原因を大きく3分類すると、外因性、内因性、心因性となる。外因性とは、脳に影響を及ぼす明らかな原因による場合を指し、脳梗塞や脳腫瘍など脳自体の損傷で精神疾患が生じたり、脳以外の身体疾患、例えば甲状腺機能低下やクッシング病、インフルエンザなどにより精神疾患が生じたり、ステロイドやインターフェロンなど薬物や毒物などにより精神疾患が生じる場合を含む。心因性とは、ストレスにより精神疾患が生じる場合である。内因性とは、外因性でも、心因性でもない場合であるが、脳の機能異常を想定しており、それを内因(エンドン)と呼ぶ。歴史的に、統合失調症と躁うつ病が内因性として考えられてきた。これらは、何らかの遺伝的背景とそれに伴う内因を想定している。例えば、向こうからよろよろと車がやってくる場面を想像していただきたい。タイヤのパンクやハンドルのゆがみなど車自体の問題でよろよろする場合は外因性と呼び、そもそも運転手の技量が下手でよろよろする場合を内因性と呼び、車も運転手の技量も問題ないが、運転手が失恋したばかりでそのショックでよろよろする場合には心因性と呼ぶのである。精神科の日常診療においては、何らかの精神症状を持つ患者に対し、外因性、内因性、心因性の順序で鑑別診断を行うことが、適切な治療につなげるためにも重要である。例えば、夫との不仲で抑うつ的になった患者に対し、すぐに心因性うつ病を疑って精神療法をしても一向に良くならなかった。念のため、脳画像検査をしたら脳腫瘍が見つかり、手術したら鬱も一緒に良くなったということがある。実は、脳腫瘍に由来する外因性のうつ病であったという話である。うつ病を含めすべての精神疾患は、外因性、内因性、心因性のいづれの可能性もありえるため、まずは身体的診察や血液検査、脳波検査、画像検査により外因性の可能性がないかどうか精査する必要がある。次に内因性うつ病から心因性うつ病に鑑別していくが、実はこれは容易でないのだ。



2012年10月 3日 (水)

一般人に「うつ病」について比喩の必要性はいるのか

寺尾岳(大分大医学部教授)さんのコピー・ペー:うつ病の関して、さまざまなところで啓発が進んでいる。しかし残念ながら適切な啓発がされているとは、なかなか言えない。例えば、うつ病は、一時期「心の風邪」にたとえられたことがあった。この比喩の長所は、誰でもうつ病にかかる可能性があることを説明した点で、その偏見を軽減し、精神科への敷居を下げる効果をもたらしたかもしれない。しかし短所もあった。それは、うつ病を深刻な病気として受け入れる必要性や、しっかりとした継続的な治療の必要性を内包できなかったことである。風邪薬を数日間飲めばたいてい熱も下がり咳もおさまるので、患者の判断で勝手にやめてしまうことが多いだろう。そのイメージで抗うつ薬治療が導入されると、中途半端な治療が終わり、うつ病の遷延化につながることもありえる。そこでうつ病は数年前から精神科の学会などでは「肺炎」にたとえられるようになった。しかし実のところ、うつ病に対して正しい理解が進めば、このような比喩の必要性もなくなるはずである。





2012年10月 2日 (火)

富士山はいつ、どうして噴火するか ②

専門家(火山学)は、「火山学的には富士山は100%噴火する」と説明するが、それがいつなのかを前もって言うことは不可能である。噴火予知は地震予知と比べると実用化に近い段階まで進歩したが、残念ながら一般市民が知りたい「何月何日に噴火するのか」に答えることは困難である。噴火は直下型地震と違い、ある日突然襲ってくるということはない。現在の観測態勢は完壁ではないが、数ヵ月前からでる前兆現象を現在の予知技術は見逃さない。24時間態勢で観測機器から届けられる情報をもとに、富士山を見張っている。今の状態は直ちに噴火につながるものではない。自然災害では、何知らずに不意打ちを食らったときに被害が一番大きくなる。したがって、富士山の噴火に対しても、前もって最新の情報を得ておくことが重要だ。火山灰が降ってきたからでは遅い。平時のうちに準備するというのが防災の鉄則である。日本は火山国といっても、実際に噴火を見た人はそう多くはない。人は経験のないことに直面した時にパニックに陥りやすい。富士山に限らず、前もって自分が住んでいる地域の近くにある活火山について知っておくことが重要だ。遠回りなようでいても、知識を持っていることがいざという時に役立つのだから。




2012年10月 1日 (月)

富士山いつ、どうして噴火するか ①

現在、富士山の地下20kmには、高温のマグマがたまった、即ち、「マグマだまり」がある。ここには、摂氏1000℃に熱せられたマグマが大量に存在し、これが地表まで上がってくると噴火が始まる。噴火の前には必ず前触れとなる現象が始まる。ますマグマだまり上部で「低周波地震」と呼ばれるユラユラ揺れる地震が地下深度15kmの位置に起きる。これは人体に感じられないような小さな地震である。しかし、しばらく休んでいたマグマの活動が始まったときに起きる。次に、マグマが上昇してくると、通路(火道と呼ぶ)の途中でガタガタ揺れるタイプの地震が起きる。人が感じられるような「有感地震」である。地震の起きる深さは、マグマの上昇に伴い次第に浅くなって動くので、マグマがどこまで上がってきたかが分かる。その後、噴火が近づくと「火山性微動」という細かい揺れが発生する。これはマグマが地表に噴出する直前で起きるのだが、噴火スタンバイの状態になったことである。富士山ではもう一度言うが、地下15kmという深部でときどき低周波地震が起きているが、マグマが無理やり地面を割って上昇してくる様子はまだない。富士山では噴火のおよそ1ヵ月前にはこうした現象が起き始めるので、事前に必ず把握できる。日本の火山学は世界トップレベルなので、直前予知は十分可能なのだ。




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