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2016年9月27日 (火)

長寿時代の臨床死生学

会田薫子(東京大学大学院人文社会系研究科 特任准教授)さんの講演概説文 コピー・ペー:
 平和と豊かさと長命は人類の希求するところであり、医学・医療が目指してきた生存期間の延長は寿命革命につながった。一方、さまざまな加齢変性を抱えながら長時間をかけて最期へ向かう過程において、医療行為がかえって苦痛を増し尊厳を損なう場面もみられるようになった。多くの人にとって人生は長くなったが、要介護期間も長くなり、老衰の進んだ超高齢者に負担となる医療が行われることも多くなった。このジレンマにどのように対応すべきか。これは臨床現場において生き終わりのあり方を考察する臨床死生学の中核のテーマである。
 こうした講義の基礎には、適切な医学的・科学的理解が必要となる。老年学分野では近年、フレイル(frailty)に関する研究が盛んに進められている。フレイルは疾患ではなく、加齢によって心身機能・生理的予備能が低下し、ストレッサーに脆弱となった状態を意味する。現在、日本では、介護予防と健康寿命の延伸の観点から、適切な栄養摂取や運動および社会的活動性の維持によって、フレイルになる時期を遅らせる研究と教育啓発に主眼がおかれている。
 一方、フレイルが重度に進行した高齢者においては、手術等の侵襲性の高い医療行為はもちろん投薬などもストレッサーとなるため、医療行為によって益よりも害を及ぼすことが無いよう慎重に判断することが求められるが、この点についての国内での研究はまだ低調である。フレイルの科学の進展を臨床に活かし、過剰医療と過少医療を回避しつつ、本人の価値や死生観を尊重し人生の集大成を支援する医療とケアが必要とされている。
 そのために、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)を行うことが推奨されている。ACPは本人・家族側が医療者側と相談しながら医療に関して意思決定を進めるプロセスのことである。ACPでは本人の価値・死生観・信仰・人生の目的等を本人・家族側が医療者側と共有し、診断と治療の選択肢・予後の情報も共有し、本人の治療計画を共同で作成して、その後も話し合いに沿って必要な見直しを行う。ACPの要諦は両者のコミュニケーションにある。高齢者の意思決定支援に関しては、ACPにフレイルの評価を組み込むことが重要である。
 ACPのプロセスにおいて、どのように生き、どのように生き終わるべきかという死生学の問いを本人・家族とともに考えることが、医療専門職を含め医療とケアのプロフェッショナルに求められている。




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