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2016年12月13日 (火)

Science DNA分析による身元特定と犯罪捜査 ④

続き:
2. 鑑定事例
1) 犯罪捜査
(1) 毛髪鑑定
 ① 概要
   女児を虐待により死亡させたとされる事件。被疑者が女児の髪の毛をつかんで振り回すなどの目撃証言があった。虐待現場と思われる場所から採取された脱落毛100本のDNA鑑定を依頼された。
 ② 鑑定
   100本中99本が分析可能、86本が女児のものであった。女児の脱落毛が異常に多数存在したことから、目撃証言を裏付ける結果であると鑑定した。
 ③ 鑑定のポイント
   現場資料で最も多いのが毛髪である。毛髪の場合、科捜研の核DNA分析(STR)の検査採用基準は細胞成分の多い毛根鞘を肉眼で認める毛髪である。神奈川歯科大学に持ち込まれるのはほとんどが毛根鞘を含まず科捜研で検査不可能とされた毛髪だ。毛髪は1cm程度あればmtDNA分析は可能であるが毛髪は脱落後の経過時間がDNAの状態に大きく影響して、脱落後1週間以内ではSTRも可能である場合が多いが、1ヵ月を超えるとmtDNAでさえ分析不可能になることを経験する。
   この事例では、STR全ローカス検出可能な毛髪が10本あった。mtDNAは単一のDNAであるため情報量は少ないが、STR分析が可能であれば性別など多くの情報が得られ、より確実な異同識別が可能であるためmtDNA分析とSTR分析は並行して行うべきだある。
(2) 性犯罪
 ① 概要
   男性が女性の胸に触れたとされる性犯罪である。被害者の着衣(シャツ)と被害者と被疑者のスワブが資料として持ち込まれ、シャツから被疑者のDNAが検出されるか否かの鑑定依頼。
 ② 鑑定
   シャツの胸の部位の外表面を、湿らせた滅菌綿棒でふき取り、付着した表皮細胞を採取した。DNA抽出後STRを分析解析したところ、3つ以上の型が検出されたローカスがあり、2人以上のDNAが混合していることが判明した。被害者と被疑者の型を比較したところ両者のDNAが混合している可能性があると判断した。さらに男性を特定するためYSTRを分析したところ、シャツと被疑者の型が完全一致した。このYSTRのハプロタイプは日本人のデータベース1167人に2件であった。
  ③ 鑑定のポイント
   混合資料のDNA鑑定は困難である。STRで1ローカスに3つ以上の型が検出された場合、最低でも2人以上のヒトのDNAが混合していることは間違いが無く、何人のヒトDNAの混合かは決めようがない。ただし、この事例のように被害者女性と被疑者男性以外の型が検出されていない事例ではYSTRが有効。YSTRでは女性のDNAは検出されないので男性を特定できる。
   シャツ付着のDNAが被疑者由来である確率は下の通りである。
  1) 共通するハプロタイプの出現率はデータベースから2/1167=0.0017
  2) 出現率の逆数が尤度比(583)であり、そのヒト”らしさ”をあらわす。
  3) 尤度比/尤度比+1が確率である。
    尤度比が583であることから同じ型は583人いて1人出現することを意味し、同一人
   由来の確率は99.8%。
    STRは混合であるため確率計算は困難であるが、YSTRでは確率計算が可能。
(3) 精子について
   精子はスペルミンというタンパク質を多量に含み、精子からDNAを抽出する際、タン
  パク質分解酵素にDTT(ジチオトレイトール、タンパク質のSH結合を切断する)を加え
  る必要があるように強固なタンパク質で保護されている。この精子の耐久性について
  実験を行った。
(スカート付着実験)
 ① スカートに精液付着、直後にクリーニング、クリーニング直後に精液付着部位から
  綿棒にて採取・抽出したDNA 
 ② 精液付着、クリーニング後、2ヵ月間保管後に付着部位から採取・抽出したDNA
(生体付着実験)
 ③ 人体(女性)に精液付着、直後にシャワー、直後に付着した部位から綿棒にて採取
  、一晩保管後抽出
 ④ 精液付着、6時間後シャワー、直後に付着部位から採取、一晩保管後抽出
 どの状態でも鑑定に有効結果が得られた。この結果は性犯罪にあった被害者にとって
 、犯罪直後の混乱状態から解放された時点で落ち着いて対処すれば、犯人逮捕のた
 めの被疑者DNAを採取できることを証明している。   
 




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