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2017年3月23日 (木)

債務超過の悪夢 ⑤

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 それにしても、同じS&W社の買収正味運転資本を計算しながら、WECとCB&Iで3000億円近い差が出るというのには度肝を抜かれるが、デラウエア州立仲裁裁判所2016/12/05付メモランダム・オピニオンでは、この理由として次の4点を挙げている。
① クレーム原価未収金の三割減
 WECは、S&W社の貸借対照表に計上されているクレーム原価未収金に対して30%の評価減を主張。CB&Iは、クレーム原価未収金は、会社が支払った追加原価のうち契約書に基づき顧客あるいは施主より回収できるもの、あるいは、追加原価のうち、その原価超過の原因が会社側には無いものを計上していると主張しているが、このような追加原価が全額回収出来るというのはあり得ないと主張。
② デザイン変更引当金の計上
 S&Wの貸借対照表には、規制当局により強制された設計変更のための原価がクレーム原価未収金に計上されているが、WECは、これに対してデザイン変更引当金の計上を主張。
③ プロジェクト原価の三割増
 WECは、S&Wの原発プロジェクトの完了には、現行の会社見積原価に対して30%の追加原価が発生するものと見積もっている。これは、会社の計上しているプロジェクト原価に対して32億ドル(約3520億円)上乗せしているのだ。
④ 買収簿外債務の計上
 WECは、CB&IがS&W社を買収した時の買収経費4億3200万ドルが運転資本額より控除されていないとして、この金額を正味運転資本より減算していたのだ。
 問題となっている2基の原発プロジェクトは、日本円にして1兆円を超すプロジェクトだ。両社の運転資本計算の差が3000億円といっても、そのほとんどは、プロジェクト原価に追加原価をどれだけ見込むかという見積の差に過ぎず、そこでWECのように30%の追加原価を見込んでしまえば、それだけ3000億円程度の差は簡単に出てしまう。要は、プロジェクト原価に対する追加原価をどの程度保守的に見るかという見解の相違であり、WECは、原発規制の強化を織り込んでこれを保守的に見たが、だからと言って、その主張する30%に特段の根拠があるわけでもないのだ。
 WEC対CB&Iの裁判記録を読むにつけ、東日本大震災後の原発プロジェクトにおける追加原価の重要性を深く納得するのであるが、ここで唖然とするのは、それを強く主張しているのが、ほかの誰でもない東芝子会社のWECだということにある。
 原発事業は、東日本大震災後、それ以前の薔薇色のビジネスモデルが崩壊していること、そこでは追加原価が際限なくプロジェクトを圧迫し、収益性を大きく毀損させていること、従って、その中で、原発事業に超過収益があることを前提とするWECののれんは資産性が認められず、即時全額減損の必要があることを主張してきたのは、細野を初めとする日本のマスコミである。これに対して、東芝は、一貫してその主張の聞く耳を持たず、WECの収益性を強弁して、のれんの毀損を行わなかった。その東芝が、WECの収益性が問題とされていた丁度その時に、米国の裁判所で原発プロジェクトにおける際限なき追加原価の存在を強く主張していたと言うのである。この人たち(東芝のトップ等)は、「時」と「場合」と「相手」によって、まったく「正反対の事」を平然と主張してしまうのである。
 WEC対CB&Iの仲裁裁判は、結局、WECの主張が認められて、問題の正味運転資本は、第三者会計事務所の調停に決すべきということになった。この仲裁裁判の判決及び仲裁裁判における両社の主張を見る限り、事態はWECに有利に推移しているように見え、それならばWECは、第三者会計事務所の調停を経て、S&Wの正味運転資本不足額をCB&Iから回収すればいいだけの事で、東芝=WECにとってめでたい限りという事になるのであるが、そうは問屋が卸さないのである。
 なぜならば、想定される第三者会計事務所の調停は、必ずしもWECの主張に有利ではなく、むしろCB&I側に有利な面が多いからであり、何よりもCB&I自身が、運転資本調整であろうがなんであろうが、S&Wの売却に関してWECに金を支払う気などさらさらない。そもそも第三者会計事務所による調停には強制執行力が無いし、CB&Iは21億ドルの金など持っていない。即ち、WECに認識された正味運転資本不足に対する対CB&I債権の回収可能性は極めて低いのである。この悲惨なほど痛々しい現実が、まわりまわって、今回の東芝の数千億円の「のれん」の減損につながる。
 WECがS&Wを買収したのは2015/10/27、その1年後の四半期末(2016/12/31)までには、東芝は米国会計基準に従って、S&Wの買収による会計処理を終結させなければならない。東芝のプレス・リリースでいう取得価格配分手続がこれであり、東芝は、既に受入処理が終わった非事務資産負債(2016年3月期の有価証券報告書で開示済)に加えて、2016/12/31までに、S&Wの原発プロジェクト受入資産負債の会計処理を行わなければならないのだ。
 今回の取得価格配分手続の対象になっているのは、受入資産負債の中の原発プロジェクトに関するものに限定されているので、ということは、対象受入資産と対象受入負債の差額たる対象受入純資産というのは、とりもなおさず原発プロジェクトの正味運転資本に他ならない。
 「この人たち」は、買収対象プロジェクトの資産と負債の査定を買収前ではなく、買収後に、それも買収終了後1年もかけてやっているのである。WECがいかに大急ぎでS&Wを買ったかが、このことで良く分かるのである。
 東芝は、当初、原発プロジェクトに関する受入資産は受入負債をおそらく若干下回るであろうと想定して、その差額を8700万ドルと見積もって開示した。しかし、実際に査定を終えてみると、その差額は21億5000万米ドルになったというのである。しかも、本来であれば、その差額は買収契約に基づく正味運転資本調整に従い、CB&Iに対する未収金として処理すれば済むものの、こんな未収金を建てたところで回収可能性は皆無に近く、未収金は資産性は持たない。ならば、買収会計の基本に従い、21億5000万米ドルはその全額をのれんとして処理せざるを得ない。しかも、こののれん資産性はS&Wの原発事業の収益性をに依存しており、その収益性は、巨額の追加原価により大きく毀損している。
 こうしてWEC自身が提起した21億5000万米ドルの正味運転資本不足は、その全額が「のれん」となり、さらにそれが即時毀損として自身に跳ね返り、東芝に瀕死の重傷を負わせているのだ。想起すれば、2015年夏以降、東芝は、WECの減損批判に苦しみ、その毀損を惜しむばかりに、悪いと知りつつS&Wに手を出していったのだ。東芝は、巨額毀損の墓穴を掘ってしまった。
 




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