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2017年3月22日 (水)

債務超過の悪夢 ④

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 びっくりするかもしれないが、WECによるS&W社の買収価格は0ドルである。0ドルでS&Wを売ったということは、CB&Iは、S&Wが生まれるどころか、赤字の垂れ流しであることをしっかり認識し、だから、タダでもいいからこれを売って将来の財政負担から逃れたいと思っていたとということになる。現に、CB&Iは決算会見で、「原子力ビジネスの売却で事業計画が立てやすくなり株主の満足にもつながる」(『日経新聞』1月10日朝刊)などと言って、この0ドル売却を喜んでいる。
 これをWECの立場から見ると、WECは、S&Wが利益を生むどころか追加原価で収益見通しが立たないことをしっかり認識し、それでもいいからどうしてもこれを買わざるを得なかったということを意味するのだ。現にWECは、買収契約書の中で、「追加原価の発生に起因する顕在化した、あるいは潜在的な全てのS&Wの負債を引き受ける旨」を約束している(デラウエア州立仲裁裁判所2016/12/05付メモランダム・オピニオン)。簿外債務まで引き受けるというのであるから、WECは、何でもいからS&Wを買いたかったのだ。
 S&W社は買収価格が0ドルであることを指摘したが、この買収価額には正味運転資本調整が加減される。この正味運転資本調整は、S&W社の基準正味運転資本額を11億7400万ドルとし、買収時の実際の正味運転資本額が基準正味運転資本額超過した場合、あるいはこれに不足した場合、その差額を買収価格に加減して調整する買収契約書上の条項である。
 本件のような子会社買収の場合、子会社の資金繰りが親会社に完全に依存していることが多いので、正味運転資本調整として、一定の運転資本を買収子会社に維持する項目を入れて置かないと、親会社は、買収の決まった子会社から運転資金を回収して自己のキャッシュポジションを自由に高めることができてしまう。正味運転資本調整とは、本件のような子会社買収の際に一般的に行われる買収価格の調整項目である。
 そこで、WEC(買手)とCB&I(売手)は、それぞれがS&W社の買収時正味運転資本額計算を行うのであるが、その結果、CB&Iは買収時正味運転資本をプラス16億180万5000ドルと計算し、一方WECはマイナス9億7650万ドルと計算した。両者の差額は25億7830万5000ドル(約3836億円)になる。
 CB&Iの計算が正しいとすれば、買収時の実際の正味運転資本は16億180万5000ドルなので、これは目標正味運転資本11億7400万ドルに対して4億2780万5000ドル多く、CB&Iとすれば約束した以上にS&W社に運転資本を残しすぎたということで、差額の4億2780万5000ドルを(買収価格の追加分として)WECから返してもらわなければならない。
 WECの計算が正しいとすれば、買収時の正味運転資本は目標正味運転資本の11億7650万ドルだったのだから、約束通りの正味運転資本とするために、差額の21億5050万ドルはCB&Iに補填してもらわなくてはならない。
 両社の差額は巨額となり、当然のことながら、両社は正味運転資金計算を巡って争うことになった。両社の交わした買収契約書によれば、正味運転資金計算の違いについて両者の意見が一致しない場合には、第三者の会計事務所がこれを調整するという条項が入っている。WECはこの条項に基づき、正味運転資本額を第三者会計事務所の調停に出そうとしたところ、CB&Iがこれを不服として調停の差し止めをデラウエア州立仲裁裁判所に訴えたのである。




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