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2017年3月21日 (火)

債務超過の悪夢 ③

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 今回の巨額減損の原因になったのは、2015年10月のWECによるS&W社の不可解な買収にあり、この買収の背景には、原子力発電所建設に対する全世界的な規制強化の流れである。2011年3月の東日本大震災により、原発建設に対する全世界的な規制強化の流れが引き起こされたのである。S&Wの買収は、規制強化という原子力行政の転換期の中で行われたのであり、その経緯は、CB&IとWEC間で争われた係争事件に対するデラウエア州立仲裁裁判所のメモランダム・オピニオンに詳しい。以下、翻訳引用する。
 2008年に、WECとCB&Iは、米国内二基の原子力発電所の設計・建設に携わることになったが、規制当局の査閲の結果、WECは当初設計に対する設計変更を余儀なくされた。この結果、この原発建設プロジェクトは、往時の遅延と深刻な原価超過を被ることになったが、だれがこの工事遅延と原価超過の責任を取るかということに就いて、当事者間に意見の相違が発生した。2012年~2015年にかけて、この問題について、本件プロジェクト参加企業間で、お互いがお互いを訴えるという訴訟合戦が行われた。2015年夏、CB&IとWECは、WECがCB&Iの子会社であるS&Wを買収することにより、お互いの訴訟を取り下げることで合意し、この合意を記載した買収契約書を2015/10/27付で締結した。(デラウエア州立仲裁裁判所2016/12/05付メモランダム・オピニオン)
 そもそも東芝がWECを買収したのは2006年10月のことで、買収価格は総額54億ドル(6467億円)、買収時に計上された「のれん」等は4011億円であった。これ以前東芝は、「WEC社株式取得による原子力事業の強化について」と題するプレス・リリースを公表し、その中で、「WEC社が東芝グループの一員となることにより、東芝原子力事業の規模は、相乗効果を合わせると、2015年までに、現在の4倍に拡大するものと予想しています」などと薔薇色の事業見通しを立てていた。
 WECがCB&Iと米国内原子力発電所二基のコンソーシアム事業を始めたのは、東芝によるWEC買収の2年後で、東日本大震災の2年前のことだ。従って、このコンソーシアム事業の当初の事業計画は薔薇色だったに違いはない。ところが2011年3月の東日本大震災が、米国のコンソーシアム事業の収益性にさえ壊滅的な影響を与えることになる。震災時の東京電力福島原発の惨状を見た以上、社会は原発建設に強度の警戒感を持つ。行政当局もこれを受けて、新設原発の厳格化に踏み切らざるを得ない。本件WECの設計変更は、このような規制強化の中で余儀なくされた。
 設計変更は当然に工期の遅延と追加原価の発生をもたらすが、WECとCB&Iは、その負担を巡って、相互に相手を訴えるという訴訟合戦を争っていた。訴訟は、東日本大震災の翌2012年から3年間行われてきたが、2015年夏、その判決が出る前に、「CB&IとWECは、WECがCB&Iの子会社であるS&W社を買収することにより、お互いの訴訟を取り下げることで合意し、この合意を記載した」というのである。2015年夏といえば、『世界』9月号が発売され、東芝粉飾決算の本命がWECの原発事業の減損隠蔽にあるとマスコミが騒ぎだした時期とピッタシ重なる。
 2015年夏には、もう裁判も3年にわたり行われてきたのだから、東芝=WECとしても、ある程度の判決の見通しは立っていたことであろう。東芝=WECとしても、勝つ気でこの裁判を争ってきたのであろうが、マスコミが、WECの原子力事業の収益性を問題にし始めたからである。
 東芝=WECとすれば、この裁判に勝っても負けても都合が悪くなった。負ければ勿論大きな財務負担が出るので困るし、勝っても、勝ったからには内容をディスクローズしなくてはならない。WECの原発事業が、設計変更による追加原価の発生で巨額の負担が発生しているという本当のことを言わざるを得ないではないか。東芝は、WECの原子力事業の収益性批判に対して、一貫して、追加原価の発生を無視してその高収益性を強弁してきた。それで、WECの「のれん」の減損を否定し続けていたのだ。
 WEC対CB&I裁判の結審は、WECの4011億円に上る巨額のれんの減損を引き起こしかねず、のれんの減損をやってしまうと、この時の財務内容では、東芝は債務超過に陥り、倒産してしまいかねなかったのである。「WECがCB&Iの子会社であるS&W社を買収することにより、お互いの訴訟を取り下げることで合意」するのであれば、すべては丸く収まるではないか。こうして東芝=WECはS&Wの買収に突進していった。



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