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2017年3月 7日 (火)

Science 歯磨剤の科学とフッ化物のメカニズム ⑤

第2章 F歯磨剤によるう蝕予防・再石灰化促進メカニズム

1. フルオロアパタイト説

 中嶋(筆者)が1970年代、F歯磨剤にう蝕予防効果があるとは考えられないとする風潮が日本にはあった。当時のF歯磨剤の市場占有率は10%以下だ。当時信じられていた予防メカニズムは、APFなど比較的高濃度のフッ化物を塗布することで、対酸性のフルオロアパタイト(FA)がエナメル質表層に形成され、これが酸による脱灰を防ぐというメカニズムが主流であった(FA説)。従っていくらF歯磨剤で歯を磨いても、その後、直ぐに水で口を嗽いでしまえば、大部分のFは口から吐き出されてしまいFAは十分形成されないから予防効果は微々たるものと考えられていた。最近でも中嶋がF歯磨剤のう蝕予防効果について歯科医師や歯科衛生士を相手に口演をした時も、このような質問をしばしば受けたことから、今でも多くの専門家がそのように考えているかもしれない。以下に、FA耐酸性説とは異なるメカニズムを紹介する。中嶋はこのメカニズムによりF歯磨剤の予防効果が科学的に説明出来ると考えている。

2. 低濃度Fの作用メカニズム

 1980年代の半ばになって上のFA上のFA説に一石を投ずる論文が、中嶋の留学先の研究グループから発表された。彼らは、プラーク内で酸が産生されている状態をビーカー内でモデル化した実験を行った。即ち、プラーク内に存在するミネラルイオン(Ca2+イオン、リン酸イオン)と同じ様な濃度のミネラルイオン濃度と乳酸を含むpH4.3の脱灰液を調製し、更に7種類の異なる濃度のF-イオン(0.004~1.004ppm) を添加し、そこにヒトエナメル質試料を3日間浸漬した。3日後、この試料から薄切片を作製してその断片を顕微鏡にて脱灰状態を観察。これらの結果は、非常に低い濃度のFでも、もし常時プラーク内に存在していれば、脱灰はその濃度に応じて抑制されることを示す。実際、F歯磨剤を使用した直後の唾液やプラーク内でのF濃度は数10ppmであるが、数時間後には0.1ppm前後まで低下してしまう。しかし、研究結果は、0.1ppm前後でもエナメル質脱灰をかなり抑制できることから、日々数回のF歯磨剤の使用により、う蝕予防効果が発揮できることを科学的に示している。通常、一般の人ではプラークを完全にブラッシングで除去することは困難である。(特に隣接面や咬合面の深い溝)。まして子供は特に難しい。F歯磨剤を使えば、磨き残しのプラーク内に0.1ppm前後の濃度のFは十分長く残存する。このようなことから、必ずしも完全なプラーク除去ができなくとも、F歯磨剤を毎日使用することで、一定のう蝕予防効果が達せられる。

 では、そのような低濃度でも脱灰抑制できるのか、それは、脱灰が起こるのは、エナメル質表面と接している液体(酸とミネラルイオンを含むプラークの液体部分)がエナメル質アパタイトに関して不飽和であるから。即ち、この液体はエナメル質のミネラルがまだ溶ける余地を残している。一方、Fが存在すると、このプラーク液はF濃度に応じてFAに関して過飽和状態に移行する。Fが微量であれば、不飽和だが、F濃度が増加するとともに、数値は上昇する。こんな状況下で、エナメル質アパタイトは溶解するが、他方では、」は、FAが沈着するという。「脱灰と再石灰化が同時進行」――現象が起こる。即ちF濃度かかわりなく、エナメル質アパタイトは溶解するが、F濃度に応じてFAの沈着量(再石灰化の程度)が増加。具体的には、F濃度が非常に低い場合は脱灰が優位となり「う蝕」となり、F濃度が中程度の場合は脱灰と再石灰化がやや拮抗し「表層下脱灰」となる。そしてF濃度が高い場合は再石灰化が優位となって、見かけ「脱灰を認めず」となる。我々がフッ化物による耐酸性効果と考えているのは、エナメル質アパタイトの脱灰によるミネラルの損失量とFによるFAの沈着量の”差”のことなのである。

 




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