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2017年3月 6日 (月)

Science 歯磨剤の科学とフッ化物のメカニズム ④

2. 薬用成分(特にフッ化物)

 日本では市販歯磨剤に配合されているフッ化物はNaFとモノフルオロリン酸ナトリウム(MFP)である。デンタルクリニックではフッ化第1スズ(SnF2)を配合した歯磨剤(ジェルタイプ)も見受けられる。これらのフッ化物の特徴を説明する。

1)NaF

 NaFは水や唾液にすばやく溶けてNa+イオンとF-イオンに解離。しかしCaを含む研磨剤と一緒に歯磨剤に配合されて時間がたつと、Caと反応して水に溶けにくいフッ化カルシウム(CaF)が形成。するとイオンとして存在しているF-イオン濃度が極端に減少してフッ化物の効果を損ねる。同様なことは水酸化アルミニウムの場合でも起こりうる(フッ化アルミニウムの形成)。これまでの数多くの研究からフッ化物の効果は、水に溶存しているF-イオン濃度に依ると考えられている。NaFの場合、F-イオン濃度が高く維持される研磨剤を相溶性のある研磨剤という。改良された無水ケイ酸はF-イオンとはほとんど反応しないので、NaFの場合は無水ケイ酸が選ばれる。

2)MFP

MFPも水や唾液にすばやく溶けて、Na+イオンとモノフルオロリン酸イオンに解離。しかし同イオンに含まれるFはリン(P)と共有結合をしているので、MFP自身はF-イオンをイオン解離しない。従ってNaFの場合と異なり、どんな研磨剤とも反応することなく、MFPとして歯磨剤の中で溶けている。即ち、MFPは相溶性がある。F-イオン解離しなくてもう蝕予防効果が発現する理由は、唾液やプラークに存在する酵素(フォスファターゼ)によってMFPはすみやかにリン酸イオンとF-イオンに加水分解されて(PとFの共有結合の分断)F-イオンを放出するからである。放出されたF-イオンは、同様な臨床効果を発揮したと報告されている。

3)SnF2

 SnF2も水や唾液にすばやく溶けてF-イオンを解離。このフッ化物はNaFやMFPと違って、スズイオン(Sn2+)による生化学効果を有している。即ち、酸を産生する細菌の膜や酵素に作用して、酸の産生を抑制してNaFやMFPより高いう蝕予防効果が期待されていた。また歯肉炎に関連する細菌にも作用して、歯肉炎予防効果も期待されていた。このような理由からSnF2はF歯磨剤の歴史上、最初に使用されたフッ化物(1950年代の米国のこと)。

 しかし水を含む歯磨剤では、水と加水分解して難溶性のスズ化合物(SnO、Sn(OH)2等)を形成してスズの効果が減少すること、歯磨剤のpHが低下して味覚が悪くなること、またやや不快な金属臭を呈することなどの理由であまり使用されなくなり、その後はNaFやMFPが主流となった。しかし10年ほど前になって、米国の業者らは、SnF2が熱したグリセリンなどの糖アルコールに変質することなく溶ける性質を利用して、水を含まない安定な歯磨剤を製造し、う蝕予防と歯肉炎予防の両機能を持った歯磨剤として大々的に市販を開始した。日本では、ジェルタイプに近く過敏症防止剤としてデンタルクリニックで入手できる。これは、Sn2+イオンと歯質または唾液由来のリン酸イオンと反応して難溶性のリン酸スズが象牙細管の開口部に沈着して刺激を遮断すると考えられる。なおSnF2には歯面着色の問題が指摘される。

 以上のように歯磨剤の製造には薬用成分と種々の原料を混ぜ合わせ、使用感に優れ、かつ有効性が損なわれることなく、長期間にわたって変質や変色しない組成物をつくることが求められる。そのため業者は数10(場合によっては100以上)の候補組成を作製し、これをさまざまな温度条件で長期に保存した後、使用感と有効性の評価を行い、社内基準に合格した組成を商品化している。




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