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2017年6月20日 (火)

TOPICS: 発症予防・重症化予防をめざして ⑤

続き:
6. デンティストの役割
 このように、う蝕・歯周病・不正咬合と様々な生活習慣病の発生原因が食文化であり、その食文化をもとの旧石器時代の食事に戻すことが難しいのだから、人類は身体が農耕を始めた新しい環境に適応できるように進化するまでの間、それはおそらく数十年や数百年の単位ではなく、数万年あるいは数十万年の間、三大口腔疾患と様々な生活習慣病を次世代の若者に継承させることになる。勿論、疾患原因である時代の食文化に何も対処せず、疾患を引き起こす環境要因をそのまま次世代に伝えて良い理由(わけ)がない。
 そこで、デンティストは口腔疾患に歯科治療で臨床対応する傍らで、健康づくりの6要因― 栄養・運動・休養・禁煙・飲酒・歯の健康― を管理し、食文化と人類進化のミスマッチによる生活習慣病が発症している人も重症化しないように適切な指導をすることが求められる。生活習慣病が発症しないような健康生活をEubiotics(養生法、摂生法)という。生活習慣病の発症を予防し、健康を創り出す歯科医療へ進化させることが次世代の若者に対するデンティストの責任と義務である。
 厚労省は2000年から始めた「21c. における国民健康づくり運動(健康日本21)」の中で、栄養・運動・休養・禁煙・飲酒・歯の健康」が、その発症・進行に関与する疾患群である。つまり、6要因をライフコース(個人が一生の間にたどる道筋)で管理することが、食文化と人類進化のミスマッチを克服する生活習慣病の根本療法である。
 2013年から始まった健康日本21(第二次)では「健康を支え、守るための社会環境(インフラ)の整備」の重要性が述べられている。健康づくりのインフラとして真っ先に期待されているのが薬局である。日本薬剤師会は健康サポート薬局のコンセプトを強く打ち出している。薬局と同様に健康情報を提供することが出来る医療提供施設として歯科医院がある。歯科医院では妊婦を含めて子供から老人まで全ての年齢層の患者が定期的に訪れ、歯・口腔の健康を中心に、栄養・運動・休養・禁煙・節酒の指導をする環境が整っている。また、歯は口腔細菌が血流に入る菌血症の原因器官として健康を阻害する危険要因なので、食文化と人類進化のミスマッチ病を克服する場として歯科医院が最適だといえる。
7. ミスマッチを克服する健康生成論
 口腔は、菌血症の原因器官として健康を阻害する危険要因として働く一方で、味覚や栄養あるいは言語を通して健康要因として機能する。健康要因の探求を行っている学問「健康生成論(サルートジェネシス)」は、医療社会学者アーロン・アントノフスキー博士が提唱した健康理論だ。博士はポーランドの強制収容所の生き残りの人たちのその後の健康状態を調査した際に、過酷なストレッサーにさらされながら、健康を保持し続けている人たちに着目し、その人たちに共通する要因や条件を分析して、「元気になる因子」の存在を見つけ出した。それを「健康要因(Salutary factor)」と名付けている。「元気になる因子」の存在は数ある動物集団の中で人類独自の健康要因であろう。歯・口腔には、栄養摂取だけでなく感覚、呼吸、言語、免疫器官など多彩な役割があり、生きる力の源となる。「元気になる因子」を非常に多く含んでいる。
 健康要因の対極にあるのが「危険要因(Risk Factor)」だ。危険要因(Risk Factor)の研究をするのが、疾病生成論(パソジェネシス)で、病理学を基礎とする従来の医学なのだ。進化の過程で生じた食文化と人類進化のミスマッチを克服するためには、疾病生成論(パソジェネシス)と健康生成論(サルートジェネシス)の両輪の管理が必要であるのだ。
 三大口腔疾患であるう蝕・歯周病・不正咬合と様々な生活習慣病が、食文化の変化に人類進化に追い付かないことに起因するミスマッチ病であることを述べてきた。この概念は、ハーバート大学の人類学者ダニエルEリーバーマン教授が提唱した世界的に有名なミスマッチ病の学説に基づくものである。ところが疾病原因を明らかにしても、おいしさを追求する食文化を過去の食文化に戻すことは、経済的にも本能的にも難しく、三大口腔疾患の発症リスクを人類が抱え続けると思われる。
 歯・口腔の健康指導は、食べてしゃべることから元気で健康になる因子の活性化に繋がるので、危険要因の除去とは全く違う価値がある。歯科医院が、口腔に止まらず、全身的な健康を創り出す医療を診療目標に掲げて、胎児から始めるライフコースヘルスケアを実現できれば、様々な生活習慣病の発症予防と重症化予防を制御できると考えられる。そのような時代を実現してこそ、デンティストが社会から真の口腔専門医だと認識されるようになるだろう。





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