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2017年8月15日 (火)

イギリス→日本 苦闘する賃貸世代の住宅問題 ⑥

続き:
5 イギリスと日本は何が違うのか
 「収縮する中間層」が持家取得でゆきづまっている点で、程度の差はあれイギリスと日本は共通している。ここで留意すべきは、イギリスの場合、トリクルダウンの住宅政策(公営住宅の売却、民間賃貸市場の規制緩和)からボトムアップのそれへの転換には、新たな財政支出を必要としないことである。
 上昇する家賃(特に民間賃貸)と停滞する賃金という状況が継続するならば、その差額を補填しようとする住宅手当は拡大し、財政支出を大きく圧迫することになる。2013年1月に雇用・年金省(DWP) が公表したイギリスに於ける福祉関連支出予算(2012年度)の全額1669億8000ポンドのなかで、年金は742億2000ポンドと突出しているが、住宅手当は急速拡大し、169億4000ポンドと第二位を占有するに至った。
 先にミリバンドが、2015年の総選挙公約で民間賃貸への家賃統制を最低賃金の上昇を掲げていたのは、この住宅手当の財政問題に関連してのことだが、政権を奪還できなかった。一方、保守党によるこの問題への対策は、民間賃貸への住宅手当の給付制限であったが、住宅手当の受給は500万件に達し、キャメロン前政権のもとで2009年度から2013年度までに47万8000件も増加、2017年度における住宅手当への支出は、250億ポンドにまでなると予想されるに至った。
 コービンから労働党の影の住宅大臣に任命されたジョン・ヒーリーは、「かれ(キャメロン)の失敗の理由は明らかだ。低賃金と高い家賃に適切に介入しなかったため、賃金は住宅のコストに追いつかず、多くの人々が家賃支払いに苦闘している。これが住宅手当を受給する勤労者世帯の急増となって表れている」と批判していた。現状では今後5年間における住宅手当への政府支出は累計1200億ポンドにのぼり、そのうち500億ポンドは民間家主に費消されるが、一方で今後5年間での新たなアフォーダブル住宅建設に必要な投資額は50億ポンド以下にとどまる、とヒーリーは推計している。さらに、こうした状況を改革する労働党の抜本的な住宅政策について、「低家賃住宅建設への公的投資は、住宅手当の支出を減少させ、長い目で納税者に利益をもたらす。労働党は2020年までに毎年10万戸の新たな公営と住宅協会の住宅を建設し、その投資は住宅手当を節約することで十分に補填できる」との考えを説明している。
 一方、「物への助成」から「人への助成」への経路を経ていない日本では、ボトムアップの住宅投資への転換(公的な住宅の拡大、住宅手当の導入、民営借家の居住水準向上)をしようとすると、新たな財政支出を伴う。パラサイト問題、民営借家への若年単独世帯の滞留という退行現象を放置すれば、かれらの多くは単身のまま貧困世帯へと移行、そのツケは生活保護費のさらなる拡大へと繋がっていかざるをえない。若年層も入居できる社会住宅、ワーキングプアなどが社会手当として利用できる住宅手当の導入は、政府の財政負担を増大させるとしても、未婚若年層のカップル形成を容易にし、かれらが共稼ぎによる税の納入者になることで住宅への投資は回収され、結果として実質的な財政負担を軽減することになる。
 しかしながら、政府当局は、こうした閉塞社会の打開にむけたボトムアップの住宅改革のもつ意義とその緊急性を理解していない。
 国交省の2017年度概算要求項目として掲げられていた「新たな住宅のセーフティネット制度の創設」(空き家に入居する子育て世帯や高齢者に最大で月4万円家賃補助する。受け入れる住宅の持ち主には住宅改修費として最大100万円配る)について、宮本徹議員(日本共産党)は、衆院決算行政監視委員会(2016年1月24日)で、「家賃対策3億円、居住支援4億円にすぎず、きわめて少ない」と批判し、「住宅をめぐる若者の状況についてどのように認識しているのか、住宅に困窮する若者の数はつかんでいるのか、お伺いしたいと思います」と質問、石井啓一国交相は以下のように答弁していた。
 低所得の若者については、民間賃貸住宅に入居しようといたしましても、費用負担が大きいため親から独立できないことや、家賃滞納等のおそれから大家に入居の拒否感があることなどの問題があると認識している。現に住宅に困窮する若者の数を把握することは困難でありますが、新たな住宅セーフティネット制度においては、低所得の若年単身世帯を対象といたしまして、住宅の確保に資する制度となるよう検討を進めているところである。
 以上の対策は、高齢者や子育て世代、低所得者など住宅確保要配慮者の住宅確保に関する「住宅セーフティネット法」の改正法(2017年)として、この4月19日に可決された。しかし、この改正法では、①施策の対象となる住宅確保要配慮者から、ワーキングプアなど狭小・高家賃に苦闘している若者は排除され、②住宅手当の導入にむけた住宅扶助の単給化について、厚労省との政策調整は回避され、③公的な住宅(公営、UR・公社)の「社会住宅」としての再編=拡充についても、まったく言及されていない。
 2016年の6月、「住宅手当で家賃を下げろ」、「住宅保障に税金つかえ」とのスローガンのもと若者(Call for Housing Democracy の主催)を中心に「家賃を下げろデモ」が新宿で実施された。こうした活動は今後も増幅されていくであろう。日本の若者が直面している問題状況は、イギリスのそれと類似しており、その活動は、住宅政策の再構築を要求する欧州の社会運動と共鳴しているからである。




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