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2017年8月11日 (金)

イギリス→日本 苦闘する賃貸世代の住宅問題 ②

続き:
1  「収縮する中間層」にのしかかる学費と家賃
 OECD(経済協力開発機構)の調査レポート「特集:格差と成長」(2014)は、「大半のOECD諸国では、過去30年で富裕層と貧困層の格差が最大になった」こと、さらに「(格差が及ぼす)悪影響は、最下位10%の所得層ばかりでなく、所得分布の下位40%までの全ての所得層まで及ぶ」と指摘していた。これを受けて2014年12月9日付の『ガーディアン』紙は「OECDレポートは所得格差による「かなり大きな、統計的悪影響」をあたえるトリクルダウン経済を拒絶した」とのサブタイトルのもと、「OECDは、ミリバンドに「収縮する中間層」とみなされた所得分布の下位40%の状況を改善するため、富裕層により高い課税を要請している」と紹介していた。
 2010年にイギリスの労働党の党首になったエド・ミリバンドは、同年11月、政権奪還にむけて「イギリスにおける「収縮する中間層」のために戦う」と宣言し、ブレア政権のもとで1998年に導入された大学授業料を見直すと提言、2015年の総選挙では、授業料の削減、民間賃貸への家賃統制、最低賃金の上昇など若者への支援策公約に掲げた。
 2014年1月21日付の『ガーディアン』紙は、「記録的な数に達した、親と同居する若者」というタイトルのもと、「新たな調査によれば、20~34歳の1/4以上がいまだに親と同居している。1996年以来最も高い割合である。なにが起きているのか?」と問いかけている。同紙に掲載された国家統計局の調査によれば、20~34歳で親と同居している若者は、1996年の270万人から2013年の330万人と上昇しており、この数字は、同世代の若者の26%に該当する(日本の20~34歳で親と同居している若者未婚者は2016年の時点で45.8%)。
 1970年代から80年代のイギリスにおける若者の独立は、大学進学や結婚という理由であれ、家庭内不和といった理由であれ、比較的に早い状況にあった。イギリスの大学への進学率は、1998年の教育改革法によるナショナル・カリキュラムの導入、1992年の教育法による旧来の大学と総合技術専門学校との統合により大幅に上昇した(2015年時点のUNESCO統計でイギリス56%、日本63%)。これに対して2000年代に生活費給付奨学金は給付金からローンへ変更され、授業料が導入されたこと(2012年度は年間900ポンド=約120万円程度まで上昇)により、卒業後の就職状況が良好でない時勢において増大する借金を抱えることになった学生は、両親の家にもどることを余儀なくされている。
 さらに、不安定な労働市場のもとで、多くの若者は家賃や住宅ローンへの頭金支払いが困難となり、フルタイムの雇用者と比較して、とくにパートタイムや有期雇用にある男性は、実家にとどまることになった。
 住居政策の後退も若者の独立を困難にしつつある。サッチャーは1980年に公営住宅購入権(RTB。公営住宅居住者が当該住宅を購入し、所有できる権利。イングランドは現在も有効)を導入、その後30年間に亘って、250万戸(持家ストックの10%)の公営住宅がディスカウントされた価格でその居住者に売却された。RTBの影響と新規供給の不足により、社会住宅(公営住宅を含め直接・間接の公的助成が組み込まれた住宅のことで、イギリスの場合、民間の非営利組織である住宅協会が建設した住宅も入る)を利用している世帯の比率は、子どもを持つ家族、妊娠している女性、ホームレス世帯が優先されている。
 また、若い世帯の持家取得が困難となるなかで民間賃貸への需要が高まっているが、「賃貸世代」は、高い家賃問題に直面している。2004年度には25~34歳までの世帯の24%が民間賃貸を利用していた。これが14年度には46%に上昇、同時期にローン支払中の持家世帯は54%から34%へ下降した(社会住宅における25~34歳の比率は30%以下で横ばい)。
 家賃上昇を大きく牽引しているのはロンドンである。2011年から15年までの5年間における、部屋タイプ別の月額家賃(中央値)とその上昇率を検討すると、イングランドを除く)では、四寝室以上が17.5%もの上昇を経ているけれども、それ以外では10%以下であり、全体では570~600ポンドと、5.26%の上昇率だ。一方、ロンドンでは、間貸し、一寝室、三寝室、四寝室以上は、いずれも20%以上、全体では1075~1350ポンドへと25.58%もの上昇率となっていた。
 以上の状況について、ホームレス問題への圧力団体である「シェルター」(イングランド)代表のキャンベル・ロブは、「われわれは、毎日、若い家庭から。貯蓄へのお金を残すことができないほど家主に搾り取られ、家賃の罠にからめ取られている。という苦情を聞いている」、「悪いことに、少なからぬ人々が危険で貧困な居住環境を余儀なくされ、民間賃貸の借家人が急速に増えるに従って家賃は上昇し、さらに悪化している」と『インターナショナル・ビジネス・タイムズ』で語っている。
 民間賃貸市場の規制緩和を意図したサッチャー政権による1989年住宅法により、新たな契約について保障短期賃貸借契約(ASTs、6カ月以上という居住存続期間保護のない定期借家契約)や市場家賃を適用できるようにした。こうして、市場価値に基づく高家賃や、短期間で追い出しが蔓延するようになった(それ以前の1965年家賃法では、借家人の居住権は擁護され、家賃は借家人と家主の合意事項となっていた)。
 この15年間に急成長している民間賃貸では、これまでのように学生など移行過程にある人だけでなく、持ち家取得が困難となっている情勢から、子どもをもつ世帯の利用が増大しつつある。1999年から2009年にかけて、60歳以上の高齢世帯とその年齢以下の単身世帯は減少し、代わって子どもをもつ世帯が22%~30%に上昇した。世帯構成と共に、借用期間も変化して、2009年には、5年以上の長期居住者が借家人の21%を占めていた。ただし、そのうち1989年以前の家賃法が適用されている借家人は僅かであり、大部分は最短6カ月で更新可能なASTs となっていた。




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