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2017年8月14日 (月)

イギリス→日本 苦闘する賃貸世代の住宅問題 ⑤

続き:
4 「遅れた福祉国家」=住宅後進国・日本
 以上、「収縮する中間層」、経済成長による「トリクルダウン」から政治による「再配分」へ、という文脈のもとで、イギリスを中心に「賃貸世代」の伸長とその政治化の背景を探ってきた。冒頭で述べたように、こうした文脈による社会変革への期待は日本においても強まってきているが、ここで留意すべきは、「賃貸世代」への対応をめぐる政治状況は、当該国の住宅政策の様態によって大きく異なる、という点である。
 たとえばイギリスとアメリカのジニ係数(社会における所得分配の不平等さを示す指標)は2013年時点でもそう変わらない(アメリカ0.40、イギリス0.36)が、住宅手当の対GDP支出比率やその受給率において大きな差がある。住宅手当の対GDP比は、2013年度でイギリスが1.45%と他のOECD諸国と比べても高水準なのに対し、アメリカはわずか0.27%だ。少し古いデータ(2006年)になるが、総世帯に占める住宅手当の受給率は、イギリス16%なのに対し、アメリカは2%にとどまっている(ちなみに日本の住宅扶助の受給率は、2012年の2.7%である)。
 イギリスは、多くの貧困世帯に住宅セーフティネットを充足させようとしてきたため、幅広く住宅手当が受給されている。就労しているワーキングプア、求職者手当(JSA。日本で言えば、雇用保険と生活保護の間に位置する、第2のセーフティネット)の利用者、雇用・生活支援手当(障害または疾患のために就労できないか、就労能力が制限されている人に支給されるもの)の利用者、就労できず所得補助に依拠している利用者、年金クレジット(最低所得保障年金)の利用者などである。
 一方アメリカでは、貧困世帯が多いのにもかかわらず、住宅手当はエンタイトルメント・プログラム(あるニーズに対して受給資格をクリアすれば、予算の上限に制約されることなく受給しうる社会保障制度)になっていない。ちなみに、食料スタンプ(低所得者向けの食料費補助)やメディケイド(低所得者、障害者など向けの公的医療保険制度)はこれに該当する。
 住宅手当を国際比較する観点から長年研究しているピーター・ケンプは、「遅れた福祉国家」と呼称されている南ヨーロッパ諸国(ギリシャ、ポルトガル、スペイン、イタリア)について、国の制度としての住宅手当の不在を指摘している。その理由として、①広範囲な社会保障システムが未発達なこと、②そうしたシステムに代替する家族支援のネットワークに過度に依存していること、③かなりの若年者が30歳まで両親の家に居住していること、④自力による持家所有が支配的であること、を指摘している。南欧以外のヨーロッパ諸国においても、持家率が6割を超える国は少なくない。しかしそれらの諸国のほとんどは、いまなお10~20%程が公的な住宅に居住している。一方、ギリシャ、イタリア、ポルトガル、スペインの持家率は6~7割に達しているのに対し、公的な住宅の居住率は、それぞれ1%、5%、8%、2%と過少である。ちなみに日本の公的な住宅(公営、UR・公社)への居住率は、全ストックの5.4%(2013年)である。
 即ち、戦時中の家賃統制を戦後も継続しながら社会住宅建設を推し進め(第一ステップ)、社会住宅の家賃上昇とともに低所得者層を対象とした住宅手当を導入、この住宅手当は民間賃貸にも適用されていく(第二ステップ)という、「物への助成」から「人への助成」への転換の経路を、南欧や日本は経ていないことを、これは示唆している。
 




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