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2017年9月11日 (月)

Science i PS細胞研究の現況と将来 ⑧

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5. 新技術の開発
  iPS細胞を使うことで、これまでできなかった新技術の開発もできるようになってきている。例えば疾患特異的iPS細胞とゲノム編集の組み合わせがよく用いられている。疾患の細胞と健康な細胞とを比較することで、疾患の特徴を調べるのだが、遺伝子は細胞ごとに個性があり、なかなか比較するのが難しかった。ところが、ゲノム編集技術を用いて、疾患特異的iPS細胞で疾患の原因となる遺伝子を修復し、修復する前の細胞と比較をすると、問題となる遺伝子以外は全く遺伝子の同じ細胞が得られ、よりクリアに結果を比較することができる。
  また、iPS細胞を使った再生医療を進める際には増殖性を持ったiPS細胞そのものや、目的の細胞へと分化しなかった細胞が混入することを防ぐ必要がある。CiRAの斉藤博英教授らのグループは、RNAを用いて細胞内の状態を検知し、目的の細胞のみを得る手法を開発している。
  こうした基盤的な技術を開発し、医療応用をより促進する研究も同時に進めている。
6. iPS細胞の倫理的課題
  iPS細胞はES細胞で問題となった受精卵から作製するという点について、倫理的課題を解決したと評価されたが、iPS細胞にもまだ倫理的課題は残されている。よく取り上げられる項目としては「動物体内でのヒトの臓器作製」や「生殖細胞の作製」が挙げられる。
  iPS細胞技術は日々進歩しているものの、まだ立体的な臓器を作るのは難しいのが現状である。こうした課題をクリアする一つの方法として、大型動物の体内で臓器を作製させるという方法が考えられている。例えば、遺伝子改変によりすい臓をなくしたブタの発生初期に、ヒトiPS細胞を注入すると、生まれてきたブタの体内にはヒトの細胞のみで作られたすい臓ができ上がることになる。しかし、注入したヒトの細胞がすい臓以外の臓器(特に脳など)に含まれてしまった場合にその動物が、ヒト化しないのかといった懸念をする人もいる。
  また、iPS細胞から生殖器を作る研究を進めることで、これまで難しかった不妊症の原因を調べることなどができる。しかし、生殖細胞の機能が正常かどうかを調べるためには、受精させて発生が正しく進むかどうかを調べる必要があるが、ヒトの受精卵を研究目的で作ることが果たして許されるのかという懸念がある。
  こうした様々な倫理的課題をあらかじめ調査し、解決するためにCiRAには上廣倫理研究部門という研究部門も設置した。iPS細胞に関する研究者だけではなく、倫理の専門家や一般の方々も含めて、十分な議論をして、適切に研究を進めていかなければならない。
  多くの方々に期待されているiPS細胞ではあるが、まだ1人の患者さんも救えていない。臨床研究が始まったプロジェクトもあるが、多くの患者さんにとって手の届く医療となるまでにはまだ時間がかかる。また様々な疾患を対象とするにあたっては我々だけではなく、その疾患について詳しい専門の医師や研究者の協力も不可欠である。これまでの皆さんからのご支援・ご協力に感謝するとともに、今後もiPS細胞が患者さんの元へと届らるよう、継続的なご支援・ご協力をいただけるようお願いしたい。




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