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2017年9月10日 (日)

Science i PS細胞研究の現況と将来 ⑦

続き:
4. 創薬研究
  再生医療が注目されがちなiPS細胞ではあるが、実は創薬研究の方が活躍できる疾患は多いと考えている。薬の開発において、iPS細胞は大きく分けて2つ活躍の場所がある。一つは毒性試験で、もう一つは創薬スクリーニング・疾患メカニズム解明。
  最終的に患者さんに投与できる薬になる前には、候補物質の有効性だけではなく、毒性も評価される。動物実験や培養細胞等で毒性評価が行われているが、ヒトと他の動物とでは薬の作用機序が異なる場合や、培養細胞はがん細胞を元にしていたり、セルライン化する過程で性質が少し変わってしまったり、体内の細胞と性質が異なる場合もあった。iPS細胞を使うと大量に体内の細胞により近いヒトの細胞を得ることができ、その細胞を使うことでより精度の高い毒性評価ができると考えられる。ヒトiPS細胞から肝臓や心臓の細胞が作られ、毒性評価用の細胞として既に販売されている。
  またiPS細胞の特徴の一つとして、誰からでも作ることができ、作られた細胞の中には細胞を提供した人の遺伝子情報が残されていることがある。患者さんから細胞を採取し、iPS細胞に変化させたものを疾患特異的iPS細胞と呼んでいる。この細胞は患者さんの細胞の中にある病気の原因となる情報を持ったままにになるため、うまく培養すれば病気の性質は維持され、治療薬の開発や疾患メカニズムの研究ができる。
  これまでにCiRAのプロジェクトだけでも、231疾患410症例に該当する疾患特異的iPS細胞が作製され、理化学研究所のバイオリソースセンターに寄託されており、世界中の研究者がこの疾患特異的iPS細胞を使って研究をすることができる。今後こうした細胞を使って、まだ治療法のない難病の発症メカニズムを調べたり、治療薬開発を目指した研究が行われたりすることが期待されている。
  例えば、ALSという運動神経の機能低下や死滅により体が動かせなくなる疾患に対して、CiRAは井上治久教授らの研究グループは、慢性骨髄性白血病の治療薬として使用されているボスチニブがALSの進行や発症を遅らせる効果があると報告した。家族性・孤発性を含む様々なタイプのALS患者さんからiPS細胞を作製し、運動神経細胞へと分化させ、薬の効果を調べるためのスクリーニング系を構築した。この系を用いて1400種類以上の候補化合物を調べ、最終的にボスチニブが異常タンパク質の蓄積を抑制し、運動神経の死滅を防ぐ効果があることが分かった。既存薬ではあるが、ALS患者さんにどの程度の量で効果があるか等の課題が残っており、今後さらなる研究が必要である。
  また、アルツハイマー病の疾患特異的iPS細胞を用いて、同じアルツハイマー病という病気の患者さんでも、細胞レベルで見ると様々なタイプの症状があることが分かった。ある患者さんは細胞の中に疾患の原因であるアミロイドβの蓄積が見られたのに対し、別のある患者さんでは細胞内には蓄積が見られなかった。つまり、ある患者さんには高い効果が見られる薬であっても、別のタイプの患者さんには効果がない可能性も考えられる。こうした患者さんによる薬の効果の違いを見つけるためにもiPS細胞が活躍できると考えている。
  




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