« Clinical 嚥下食の知識 ⑤ | トップページ | トランプ VS.  メディア  ① »

2017年11月15日 (水)

Clinical 嚥下食の知識 ⑥

続き:
9. 食形態のランクダウン
 神経筋疾患に代表されるような機能が低下していく患者に対しては、患者の摂食嚥下機能の上限を超えないような食形態のランクを下げる(以下、ランクダウン)。但し過剰なランクダウンは機能低下を助長するばかりか、患者の気力をを喪失させ易い。ランクダウンは可能な限りゆっくり一段階ずつ落とさせていきたい。一方で、筋委縮性側索硬化症(ALS)のような急速に進行する疾患の場合には、ランクダウンの判断の遅れが致命的になることがあるため、必要に応じて2段階以上の大幅なランクダウンを行うことがある。
 また筋ジストロフィーのような緩徐に低下する疾患の場合や、パーキンソン病のような日内変動がある場合の食形態設定の判断は難しい。
10. フードスタディ(嚥下食の確認会)
 嚥下食の妥当性を維持させていくためには、調理した嚥下食が基準に沿っているかどうかを定期的にチェックしなければならない。そのためには患者の食べ方で嚥下食の妥当性をチェックすると良い。患者の食べ方の真似をして食べられない食物は当該患者には食べられない。この確認会を「フードスタディ」という。
 健常者が忠実に患者の口の動きを再現するこては難しいが、このフードスタディは、調理した嚥下食が適切かどうかの大体の見当を付けることが可能だ。さらにフードスタディは不適切な食の提供を是正することに加え、どのように調理を加えたら良いかの示唆を与えてくれる。嚥下機能は個体差が有るため、フードスタディは老若男女のグループで行うと良い。筆者(牧野)は医療法人社団聖仁会(広島県庄原市)に於いて、このフードスタディを2週間~1ヵ月に一度の頻度ですでに14年間実施している。我々の経験上フードスタディを続けることで、嚥下食の味見をしなくても(目で見ただけで)大体の見当がつくように進化する。それでもフードスタディは永遠に続けなければならない。何故なら、嚥下食が嚥下機能に合わせた分類である以上、嚥下障害者の食べ方を演じて食事することが重要であり、フードスタディをやめれば嚥下食は次第に摂食嚥下機能との間に誤差を生じさせるからである。
 このフードスタディは「質的評価」である。今のところはこれが最良の嚥下食のチェック方法と思われる。いずれ本領域が進化して、患者の嚥下機能と嚥下食が数値化され、より妥当性の高い嚥下食提供が出来るようになることを期待する。
11. 歯科医師の役割
 歯科医師は本領域の責任者である。歯科医師は、本領域の日進月歩で進む研究に常に耳を傾け、適宜自身の知識や技術をアップグレードさせなくてはいけない。さらにスタッフたちの職務を深く理解して、厳しさと優しさをもってチームを育て、牽引していく度量が求められている。
 近年、摂食嚥下支援者が急増した。摂食嚥下支援には、エビデンス(科学的根拠)と患者や家族の人生観への寄り添い(ナラティブ)の両視点が重要である。急速に広がった「最期まで食べる支援」は、ナラティブに偏重し、あたたかい思いだけが独り歩きする危険な行為の横行を危惧させる。歯科医師の存在は今を苦しむ患者や家族、支援者たちの希望である。歯科医師が、摂食嚥下機能と食形態の対応にいっそう関わることで、この領域は更なる飛躍を遂げるに違いない。




« Clinical 嚥下食の知識 ⑤ | トップページ | トランプ VS.  メディア  ① »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: Clinical 嚥下食の知識 ⑥:

« Clinical 嚥下食の知識 ⑤ | トップページ | トランプ VS.  メディア  ① »