« Clinical 嚥下食の知識 ② | トップページ | Clinical 嚥下食の知識 ④ »

2017年11月10日 (金)

Clinical 嚥下食の知識 ③

続き:
5. 食形態選択のための嚥下食機能のメカニズム
1) 先行期(食べ物か否かを見極める)
 目の前の物が食べ物か否か、毒は入っていないか、腐敗していないかの判断は、ヒトを含む雑食性動物には欠かせない能力である。つまり食すべきは食し、排除すべきは排除する能力である。ヒトは飲食物を目前にして【覚醒】し、食物を【認識】、食べるか否かの【判断】を行い、食べるなら【食思惹起】させる。この先行期の食思惹起は、口腔準備期以降の咀嚼や食塊形成、嚥下反射などを促進させ、反対に摂食拒否しながらの半ば強制的な飲食はこれらの機能を鈍化させる。従って口の入る前の食器識や食思を惹起させる配慮を軽視してはいけない。
 高齢者になれば感覚能の低下があるため、メガネや補聴器などが対象者の能力に適合しているか否かなどを確認することは重要である。次に大脳は数千以上の感覚情報の中から、必要な情報だけを選択する能力(知覚)を持つが、これらができない患者の場合、脳に数千の情報が入り混乱に陥りその結果、食が進まないことがある。このような注意障害がある患者に対する環境設定(刺激の統制)は有効。
 続いて取捨選択された知覚情報は、当該者の記憶(既有知識)と照合することで目の前の物を食物と認識するに至る。ところが嚥下食は患者の既有知識にない。馴染みの薄い飲食物であることが多い。特に意味記憶や推理機能が障害された認知症患者は、目の前のミキサー食を「異物」ととらえ拒否することがある。
 嚥下食を拒否する患者に対しては、嚥下食をなるべく馴染みある見た目に調えたり、患者の目の前で嚥下食調理を行ったり、介助者が声掛けをして(飲食物の名称などの情報を知らせるなどの)食物認識を促す配慮を行うと良い。
2) 口腔準備期
 口腔準備期は飲食物を食塊(飲み込んでも安全な物性)に調える。世の飲食物の物性は多様であり、硬い物であれば咀嚼し、やわらかいプリンであれば舌と口蓋で押し潰し、とろみ状の液体であれば舌で移送させ、さらさらの水分であれば、頬と舌をうまく使うことでいずれも「食塊を形成」させる。このように我々は多様な飲食物の物性に合わせ、摂食嚥下機能を柔軟に対応させ、食塊を形成している。この際、食塊が形成されるまでは食物が咽頭に移送されないよう、飲食物を口に留めておく。これを「口腔内保持」という。
 口腔内保持および食塊形成には、口内の適切な感覚や運動が欠かせない。もし口腔感覚や運動が障害されていれば口腔内保持や食塊形成は行えず、不適切な物性のまま嚥下してしまうなど、危険を招く。例えば草加煎餅のような固い物をそのまま嚥下したなら、誤嚥や窒息を起こし易くなる。
 食塊形成ができない患者にはあらかじめ飲食物に手を加えることで誤嚥や窒息を防ぐ。このように患者の誤嚥を避けるために、適切な物性に調えた食形態を嚥下食という。
3) 口腔期 (~咽頭期)
 食塊形成から嚥下反射までの間が口腔期。口腔期は「食塊を集積」させ、その状態で嚥下誘発部位へと食塊を移送させる段階である。
 水分嚥下と咀嚼の自由嚥下とでは食塊の集積および嚥下反射惹起の位置が異なる。水分は比較的拡散し易く移送速度が速い。一方の咀嚼による粥状に調えられた食塊は比較的凝集性が高く移送速度は遅い。水分においては拡散させないよう口腔内を狭小化させながら後舌から舌根にかかる位置へ移送、そこで集積させ嚥下する(5期モデル)。一方の咀嚼自由嚥下の場合、喉頭蓋もしくは梨状窩のあたりの位置(咽頭)まで食塊を垂れ込ませ、そこで集積させて嚥下する(プロセスモデル)。このように口腔から咽頭期では、食塊の凝集性を保たせながら食塊移送させ、嚥下とのタイミングを絶妙に合わせている。
 ところが偽性球麻痺や神経筋疾患などに代表される口腔麻痺や機能低下がある患者例では、食塊は口腔や咽頭で拡散し易く、誤嚥を招き易い。従って、このような患者への嚥下食は、ゼリーやムース、とろみ付けなどの食物の凝集性を適度にあげた物性の嚥下食を提供することで口腔内拡散を防ぎ、嚥下をスムーズにさせるなどの配慮を行う。
4) 咽頭期
 嚥下反射惹起が号砲となり「アンカー機能(舌と口蓋の接触)」および「鼻咽腔閉鎖機能」、「舌根と中咽頭後壁の接触」による食塊の駆出、「喉頭の上前方移送」と「輪状咽頭筋の弛緩」による食道入口部の開大が起こる。これら一連の運動は、嚥下反射後、約0.5秒で完了され、呼吸再開時には、咽頭に食塊は残らない(咽頭クリアランス)。
 ところが嚥下反射惹起遅延や、咽頭での食塊拡散や残渣などがある患者では、誤嚥のリスクが高まる。このような患者への嚥下食は、増粘剤などで移送速度を統制する。ゼリーやプリンのように凝集性を高める、咽頭残渣を防ぐために食物の付着性を下げるなどを行う。その他、異なる物性の嚥下食を交互に摂取させる「交互嚥下」を行うことで咽頭クリアランスを図る。
 咽頭期は嚥下評価や支援の最重要ポイントである。しかし咽頭は外から観察できない。臨床においては、「頸部聴診法」や「音声評価」などを駆使して咽頭機能を推測する。とくに咽頭期の障害がある患者の評価や対応においてはより慎重を期して、嚥下造影検査(VF)や嚥下内視鏡検査(VE)などを用いた判断を行うことが推奨されている。




« Clinical 嚥下食の知識 ② | トップページ | Clinical 嚥下食の知識 ④ »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: Clinical 嚥下食の知識 ③:

« Clinical 嚥下食の知識 ② | トップページ | Clinical 嚥下食の知識 ④ »