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2017年11月29日 (水)

ファクトチェックの現在 ⑥

続き:

 日本でも、ファクトチェックの取り組みは始まっている。大手メディアでは朝日新聞が最も精力的に取り組んでいる。

 最初に記事を掲載したのは2016/10/24、であった。その年の9月29日の安倍総理の発言を検証したものだった。ここで、安倍総理は、「参議院選挙において街頭演説などで、私は必ず必ず、平和安全法制についてお話をさせていただきました」と発言していた。しかし、朝日新聞が確認した64ヵ所の街頭演説で20カ所でしか「平和安全法制」という言葉は出しておらず、ファクトチェックの結果として「誇張」と判定している。また、2017年1月に憲法改正について安倍総理が、「どのような条文をどう変えていくかということについて、私の考えは述べていないはずであります」と発言した点について、過去の国会からの議事録を検証して「誤り」と指摘している。議事録で確認したところ、憲法96条について「1/3 をちょっと超える国会議員が反対すれば指一本触れることができないということはおかしいだろうという常識があります。まずここから変えていくべきではないかというのが私の考え方だ」と答弁していたことがわかったからだ。

 ただ、朝日新聞の場合は、ワシントン・ポスト紙のようにファクトチェック専属の記者を置いているわけではない。政治部の記者が本業の政治取材をしながらファクトチェックを行うという状況が続いている。

 こうした中で、弁護士、研究者、メディア関係者、ジャーナリストの有志が発起人となってファクトチェックを広く日本で普及させる取り組みも始まった。今年6月に発足した「ファクトチェック・イニシアティブ・ジャパン」(FIJ)がそれだ。筆者(立岩)発起人の末席に名を連ねている。

 呼びかけ人は大手メディアの誤報のチェックを行ってきた弁護士の楊井人文氏だ。

 「これだけ情報があふれている中で、その情報を精査する取り組みが情報量に追いついていません。また、意図的に嘘の情報を流すフェイクニュースの問題も出されている。世界はそうした状況に対応するファクトチェックを本格的に始めており、日本だけが取り残されているというのが現状です。それを変えないといけない」

 楊井氏が指摘するように、日本でもすでにフェイクニュースは社会的な問題となっている。俳優の西田敏行さんについて違法薬物を使って暴力をふるっているとの嘘の情報を流した男女が摘発されるなど、刑事事件にもなっている。

 被害者は、いわゆる著名人だけではない。TBS「サンデーモーニング」のプロデューサーについて、在日朝鮮人であり、それゆえに偏向した番組をつくっているとの情報がネット上で流されたが、このプロデューサーは在日朝鮮人では無い。フェイクニュースだったのだ。これが特に深刻なのは、フェイクニュースと、人々の憎悪を煽ろうとするヘイトニュースが融合した形になっている点で、TBSの関係者は、「被害にあったプロデューサーは、自分が在日朝鮮人で無いと主張することが人種差別に与することになるとして問題を指摘することをためらっていた」と明白にした。

 被害にあった当事者がフェイクニュースだと主張しても、火に油を注ぐ結果になる危険性もある。ここに、欧米でファクトチェックの専門団体が次々に設立された理由の一つがある。当事者では対処が難しく、第三者的な立場でのファクトチェックが必要ということになるのだ。

 日本でもファクトチェッカーが活動すべき時期はすでに来ている。



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