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2017年11月22日 (水)

トランプ VS.  メディア ⑦

続き:

 まず、ルイス教授に、今の米メディアのトランプ大統領報道についてどう思うか聞いてみた。

 「よく頑張っていると私は高く評価している。特に、ニューヨーク・タイムズ紙とワシントン・ポスト紙の報道は素晴らしいと思う」

 ルイス教授自身は、政権に食い込んだ情報を取るような取材ではなく、公文書を入手してそれを読み込んで事実を掘り起こす取材を行ってきた。それは、情報公開制度を利用して公文書を入手して読み込むという作業をで、『The Buying of The President』も連邦選挙委員会などに提出された資料を入手して分析したものだ。政権に食い込む取材は、逆に政権に取り込まれる危険性が高いことは日本のメディアに顕著だが、米国でもその懸念は常に指摘されている。そこでルイス教授は、公開されている情報分析することで社会にとって有益な情報を得ることができると考え、それを実践。

 そのルイス教授に、匿名の情報源に頼る報道について尋ねてみると、意外な回答が戻ってきた。

 「情報公開制度は私も多用してきたし、今も、調査報道を行う全米のジャーナリストが利用する。この制度は設立された当初よりは随分使い易くなっているが、その当初から変わらない問題がある」

 日本とは比べ物にならないくらい使い勝手の良い米国の情報公開制度は、筆者(立岩)も何度か利用している。トランプ大統領が候補者時代に提出した資産報告書などは、申請から数日で閲覧・謄写が可能になった。その制度のどこに不備があるのだろうか。

 「実はこの国の情報公開制度は、ホワイトハウスと議会が対象から外されている。これは情報公開制度ができる時に外されて、そのままになっている。だから、大統領に対する情報公開請求というのは不可能だ。候補者としての資料は連邦選挙委員会から入手できるが、大統領の情報入手は政権内部の人脈を使うしかない。

 匿名情報を用いることによる「フェイク・ニュース」との批判やそのトランプ支持者への影響という点についてはどう考えるのだろうか。

 「トランプ大統領は自分に都合の悪いニュースを『フェイク・ニュース』と言っているのであって、それが匿名の情報源かどうかは関係ないだろう。それに、仮に、トランプ支持者に届かなくても、報道は十分に価値がある。なぜなら、米国は大統領だけが権力を持っているわけではないからだ。議会がある。司法がある。そしてもちろん、メディアもある。トランプ支持者への影響を考えるよりも、正しい報道が議会を動かし、司法を動かすということを考えてもよいのではないだろうか。実際に、メディアが関心を持つ中で、コミ―前FBI長官の議会証言も早々と行われた」

 ルイス教授は、トランプ大統領をめぐる報道は、一つの幕が閉じ、次の幕が開こうとしていると語った。

 「私がCBSを辞めた後に作ったNPOメディアのThe Center for Public Integrity (CPI)や、私が大学でやっている調査報道ワークショップ等、これまでの調査報道で成果を出してきたところが、トランプ大統領の報道でなかなか成果を出せなかったのは、情報公開制度の問題もあるが、大量の情報がリークという形でメディアに流れ、そのスピード感についていけなかった面がある。しかし、これからは、そう簡単に政権内部から情報は出てこないだろう」

 ルイス教授が指摘するのには理由がある。「リーク」と言う言葉で語られる政権内からの情報漏洩に、トランプ大統領が厳しい犯人捜しを指示しているからだ。ただ、それだけではないという。捜査が本格化すると「リーク」減ると予想されるからだ。

 「これから特別検察官の捜査が本格化するが、その際、問われるのがジャーナリストの力だ。それは捜査とは異なる観点から、この事件を掘り下げていく取材力だ。それには政権内部からのリークに頼らない調査報道しかない。今、私が知っているだけでも数十人規模で調査報道に携わるジャーナリストが様々な資料を読み込んでいる。私が作ったCPIも、トランプ大統領を追及する取材を進めており、暫くすれば報道を始めるだろう」

 それが捜査と結びつくこともあるとルイス教授は話した。

 「モラー特別検察官はその能力、意識の高さから多くの人の尊敬を集めている。彼は本気で大統領の犯罪を暴こうとしているように見える。しかし、捜査機関には捜査機関なりの弱点がある。例えば、私は過去に、連邦政府の高官が退官後、すぐに外国政府のロビイストになっている実態に気づき、それを報じたことがある。その結果、クリントン政権でそれに制限が設けられた。このようにジャーナリストは法律とは関係のない部分で問題を発掘できるが、捜査機関はそれができない。その結果、捜査が行き詰ることもある。ところが、異なる角度から問題をつく調査報道は、その捜査の行き詰りに光をもたらすこともある」

 捜査が本格化する中で、情報が外に漏れにくくなるということは日本の事件取材でもある。そうなると政権内部から匿名を条件に情報を得てきた主要メディアもニュースが出しにくくなるというのがルイス教授の指摘だ。その時、捜査機関とも異なる観点から調査報道を続けてきたジャーナリストがその成果を示す時期が来るという。それをルイス教授は「第二幕」と表現した。そして笑顔を見せながら言った。

 「調査報道が捜査を前に動かすこともある。これから求められるのはそこだろう。そういう意味では、本当の意味でジャーナリズムがトランプ大統領を監視、追及するのはこれからだろう」



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