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2017年12月 7日 (木)

Clinical 口腔感染制御が医科歯科と社会を結ぶ ②

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 筆者(西田)は大学在籍時代に数多くの糖尿病患者を診療してきたが、その中で、口腔疾患が原因で命を落としかけた症例群に遭遇した。口腔感染症の恐ろしさを伝える、象徴的な症例を紹介する。
症例1
 29歳の女性。28歳時に1型糖尿病を発症し、インスリン治療を行っていたが、通院は不定期であり HbA 1cは18%と、血糖コントロールは極めて不良であった。ある時発熱し、食事摂取不能になったため、自己判断でインスリン注射を中止していた。その後、著しい高血糖から糖尿病ケトアシドーシスを併発し、昏睡状態に陥ったため、救急車で搬送された。
 胸部X線写真で両側性の肺炎、胸部CTで多数の空洞性病変を認め、肺化膿症と診断された。入院直後、ARDS(急性呼吸窮迫シンドローム)に陥ったが、奇跡的に一命を取り留めることが出来た。
 いくら血糖コントロール不良であったとはいえ、29歳の女性が致死的な多発性肺化膿症併発することは、通常では考え難い。何らかの感染源があったはずだが、それは本症例が回復し、集中治療室を退室した後に判明した。この患者は筆者(西田)と同じく、長期間にわたり歯科受診しておらず、う蝕と歯周病を放置していたのである。血行性に両肺へ播種した口腔内嫌気性菌による感染が契機となり、多発性肺化膿症に至ったのではないかと考えられた。
 本症例は、29歳という若い患者であっても、悪条件が重なれば”ごく軽微な口腔感染症”から、命取りになるほどの重症感染症を併発し得ることを教えている。
症例2
 71歳の女性。左人工股関節再置換術のため、整形外科に入院した。糖尿病の既往歴があり内服治療中であったため、術前に糖尿病内科へ紹介された。筆者(西田)がその際の外来主治医であったが、血糖コントロールは極めて良好( HbA 1c 5.8%)であったため「全く問題がない」旨を返信した。
 ところがこの時、筆者(西田)を含め整形外科および麻酔科のスタッフ全員が「60歳時に下顎インプラント埋入」という重要な”既往歴”を見逃していたのである。
 手術そのものは成功したにのかかわらず、術後より発熱が続き、血糖値が急激に上昇。抗菌薬投与とインスリン治療が行われたが、2週間後には手術部位の化膿性骨髄炎による敗血症に至った。奇跡的に本例も一命を取り留めたものの、なぜこのような事態に至ったのか、誰一人として説明できなかった。
 原因は、6か月後に判明した。11年前に埋入された下顎インプラントに、重度のインプラント周囲炎が認められたのである。インプラントは直ちに撤去され、整形外科入院の上、左人工股関節置換術が再施行された。2回目の手術後は、発熱や高血糖を一切認めることなく、極めて順調な経過をたどっている。以上より、インプラント周囲炎の細菌が術後に血行性転移を来し、骨髄炎を発症する契機になったと考えられた。
 本症例は、術前の血糖値は正常レベルであり、常識的にリスクは存在しなかった。しかし、ひとたび手術などのストレスが生体に加わると、それまでインプラント周囲の細菌と拮抗していた感染防御が崩れ、そこから全身播種を通じて、化膿性骨髄炎を併発し得るのである。
 このように、インプラント手術がその場では成功したとしても、将来周囲炎が発生すれば、10年以上の後に致死的感染症を引き起こすこともある。日常的な歯科医療が、”時を超えて人々の命に関わる”ことを教える、貴重なケースといえるだろう。





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