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2018年2月24日 (土)

トランプのアメリカに住む<4>―①

続き:
 オバマからトランプへ――。政治の振り子は正反対に振れたが、それが振れている地平は同一である。ネット社会がもたらすリアリティの政治とは何なのか。オバマとトランプは、ケネディやニクソンが生きたTV時代とは異なるリアリティの地平に登場し、アメリカを正反対の方向に導いてきた。
 この揺らぎのなかでアメリカは分裂しているが、この分裂の地平そのものが、TV全盛の時代とは異なる困難さを抱えている。インターネットの大衆化と日常化は、それまでニュースペーパーをはじめとするジャーナリズムが前提としてきた「事実」に対する見方を突き崩してしまった。
 匿名的で誰もが発信者になれるネット空間の中で増殖していくのは、「巷の噂」というレベルの「ニュース」なのだ。事の真偽は確認されず、それぞれのユーザーが、自分の興味や価値観、感情に適合する情報を「ニュース」として受けとめ、増殖させる。
 ― 結果、本当に事実かどうかは曖昧な情報が、あたかも「ニュース」としてネット社会の中で氾濫し、次第に人々はそうした情報が本当か嘘かがそれほど重要なことに思えなくなってくる。
 インターネットの融通無碍な自由さは、このメディア的なリアリティの極度な不安定性と表裏をなしている。
 これまでソーシャルメディアは、マスコミのニュースはその社「固有の視点から編集されているので偏向しているが、インターネットは編集なしでそれぞれの個人の声がそのまま表出されているのでより真実に近い」と主張し、マスコミ報道に不満を抱くフォロワーを集めてきた。
 しかし、ソーシャルメディアのニュースが編集なしだと言うのは正しくない。ニュースペーパーのニュースがデスクなどの立場にいるジャーナリストの視点で編集されるのに対し、ネットのニュースは見えないアルゴリズムによって構造化され、それぞれのユーザーの関心や嗜好にあわせて出現するように編成されているのだ。
 イーライ・パリサーは、インターネットの検索サイトのアルゴリズムが、ユーザーの過去のクリック履歴や検索履歴に基づいて情報を構造化しており、ユーザーが見たいであろう情報を推定し、それが優先的に出てくる仕組みを実現していることを指摘し、これを「フィルターバブル (Filter Bubble ) 」と呼んだ。
 私たちはこの種のアルゴリズムを、たとえばアマゾンがメールで本を推薦してくる際に頻繁に経験している。フィルターバブルのアルゴリズムが支配する環境では、ユーザーは自分の関心に合うニュースや記事だけ接すればよく、気に入らない記事や関心のないニュースからはますます隔離されるのである。
 膨大な情報が溢れるネットの世界で、個人それぞれの狭い関心や立場の被膜=バブルの中に孤立していくのだ(『フィルターバブル』 早川書房、2016年)。
 フィルターバブルは、異なる立場の対話の可能性を開くという初期のインターネットの時空を反転させる。今やインターネットは対話のメディアではなく、諸個人が自分の世界に閉じこもり、意見の異なる他者を排除するための装置となったのだ。




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