« トランプのアメリカに住む<2>―② | トップページ | トランプのアメリカに住む<3>―② »

2018年2月22日 (木)

トランプのアメリカに住む<3>―①

続き:
 そしてこの偽物だらけの舞台の上で踊り続けるのが、トランプという人物である。大統領候補になる以前から、彼はイスラム教徒のアメリカへの入国禁止を提案し、撤回はしたもののテロ容疑者に対する拷問やテロリスト家族の殺害まで主張したことがあった。彼は、「メキシコは、麻薬密売人やレイプ犯を米国に送り込む」と発言し、移民、女性、退役軍人など弱い立場の者を誹謗して、外交政策の助言はTVの討論番組から得ると答えていた。
 それどころか彼は、オバマ前大統領の「市民権は本物かどうか疑惑がある」とTVで発言し、司会者が「ハワイ生まれで問題ない」と否定すると、「あなたは取り込まれている」と噛みついた前歴もある。おそらく彼は、「ハワイは米国でない」との観念を持っていたのかもしれない。このような言動を繰り返してきた人物だから、アメリカの主要メディアは彼を詐欺師と評し、海外の評者は「道化師で扇動者で人種差別主義者」とみなしてきた。
 普通なら大統領はもちろん、大統領候補にすらなるはずが無いこの人物を押し上げたのは、メディアが刹那的に増殖させる不安だった。トランプは投機性の強い不動産業で成功しただけでなく、人気TV番組の司会者をつとめ、出演者に「お前はクビだ」の決めゼリフを繰り返してきた。短い言葉と大げさな身ぶりで問題を単純化し、対立を演出する。
 彼は暴言を繰り返しながら、その効果も計算していた。視聴者からすれば、「暴言」はルールに縛られずに本音を語る人物との印象を生む。「難しいことはわからないが、実は俺もそう思っていた」との酒場の政治談議と同じである。当然、「暴言」は物議を醸し、批判が続出する。しかし彼は悪びれずに批判し返す。メディアが面白がって論争を連日追いかけるから、彼への注目度は上がる。―― 計算された狡猾な戦略であった。
 やがて、この人物への支持を拡大させる強力な補助装置として、地方ラジオ局とインターネットが加わった。アメリカ社会に根を張る地方ラジオ局には既成勢力への不満が渦巻いてきた。既成の権威に歯向かうトランプの態度は、地方局の保守系リスナーの鬱積した感情を刺激した。
 そしてインターネットでは、ユーザーの傾向に応じた情報回路の分断により、ひどい暴言でもトランプのつぶやきは瞬く間に全米に広がり、支持者を増殖させる回路が形成されていた。
 だからトランプとヒラリー・クリントンが対決したはずの計三回のTV討論会は、すでにこのように増殖を繰り返していたネット上の自己言及的な情報の流れからすれば、それ自体が格好の論評材料だったのではないか。あの時、トランプはクリントンが理路整然とアメリカの未来を語るのに対し、ヒステリックな金切り声で噛みつき、毒づき。脅かし続けた。
 トランプが繰り返したのは、アメリカが中国やメキシコに仕事を盗まれている、不法移民を排除し壁を築かなければ危ない、クリントン夫妻とオバマはアメリカに「大災害」をもたらした張本人だ、自分は空前の大減税を行うから豊かになるといった紋切型の主張で、新しさはほとんどなかった。
 彼は、TV討論で一貫して司会者の質問には答えず、都合が悪いことは露骨に話を逸らした。そして彼は、クリントンのメール問題は実は重大事件で、自分はあなたの秘密を握っている。だからきっと自分が政権を得たら「あなたは刑務所行き」になるだろうと脅しをかけた。
 過去の自分の誤りを認めず、相手の弱点は徹底的に攻撃する彼の言葉は、政治的な発言というよりも呪文に近く、彼が約束したのは、一種の「悪魔祓い」だった。第一の悪魔はアメリカから仕事を奪う外国勢力。第二の悪魔は長くそれらの勢力を防いでこなかったワシントンの指導者たち。さらに米国内の黒人やイスラム教徒に潜む「悪い人々」が第三の悪魔。これらはアメリカに「大災害」をもたらすが、「大減税」という魔術が悪魔を追い払い、幸福をもたらすというのが、彼の呪文の中身だった。




« トランプのアメリカに住む<2>―② | トップページ | トランプのアメリカに住む<3>―② »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/413185/72975523

この記事へのトラックバック一覧です: トランプのアメリカに住む<3>―①:

« トランプのアメリカに住む<2>―② | トップページ | トランプのアメリカに住む<3>―② »