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2018年2月20日 (火)

トランプのアメリカに住む<2>― ①

続き:
 これは陰謀説が跋扈する冷戦時代が再来しつつあることを意味するだろうか――そうではない、と吉見は思う。たしかに2016年の米大統領選に対するロシアの諜報機関の関与は疑いようがないとしても、このロシアの関与が米大統領選の勝敗を決めた決定的な要因だったという証拠はまだない。
 それどころか、ロシアの陰謀的ともいえる動きが、同年の米大統領選に向けて全世界に広がっていったフェイクニュースの中心だったことも必ずしも確かではないのだ。
 すでに知られているように、フェイクニュースの最大の発信源の一つは、マケドニア中部の小都市ヴェレスの貧しい若者たちだった。ユーゴスラヴィア時代には工業都市として活気があったこの小都市は、ユーゴ崩壊とグローバル化の中で廃れ、街角には失業者が溢れていた。
 すでに2016年以前から、産業衰退の中で活路を求めた人々の一部がネット産業に目をつけ、怪しげなサイトの運営で広告収入を稼ぐ術を身に着けていたようである。そして2016年、この街では失業中の多くの若者がフェイクニュース製造による金儲けに飛びつき、わずか人口55000の街から100以上ものトランプ支持サイトが発信されていった。ジャーナリストのサマンス・スブラマニアンはヴェレスでフェイクニュースを製造していた若者たちへの興味深いインタビューを重ねている。スブラマニアンによれば、若者たちは「トランプが当選するか落選するかなどにまったく関係がない。ただ最新のクルマや時計や携帯電話を買い、バーでもう二、三杯おかわりできるだけのポケットマネーが手に入ればそれでいい」(『WIRED』日本版28号)。つまりはビデオゲームの延長線上で、手当たり次第の盗用で大量のフェイクニュースが製造され、そんなサイトでも閲覧者が増えれば自動的に大きな広告収入が得られるから参入者は雪だるま式に拡がった。職にあぶれ、ある程度はIT操作能力のある若者たちにとって、こんなに楽な金儲けはなかった。
 ロシアの諜報活動とマケドニアの若者たちの怪しげな金儲けの間に、何らかの関係があったかどうかはわからない。少なくとも論理的には、仮にロシアの諜報活動とは何ら関係がなくても、ヴェレスで失業中の多くの若者たちがフェイクニュース製造に手を染めていく十分な蓋然性はあった。かっての工業都市が衰退してしまった先で、そうした周縁地域のポスト工業化は、問題含みの灰色の情報産業を含んで進行する。
 「この町ではまともに働いていてもカネなんか稼げっこない。つまり、この仕事はまともじゃないってことさ」との住民の発言にあるように、彼らは自分たちのしていることが、貧困地域に拡がる麻薬取引のような「まともじゃない」仕事なのを知っていた。
 それでも産業が去り、雇用が生まれず、未来が閉ざされるなかで、世界がどうなろうとまずは自分のために金を稼ぐのである。だから彼らの心理は、産業が失われて絶望のなかでトランプに投票した米国内のラストベルトの人々と似ていなくもない。「トランプ大統領」というそれ自体がフェイクのような現実を生んでいったのは、積極的に何かを信じる力というよりも、置き去りにされた人々の、自分を超えた世界と関わることを拒否するマイナスの力なのだ。




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