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2018年3月29日 (木)

「賃貸世代」の低賃金化と家賃上昇――ニューヨーク

小玉 徹(大阪市立大学大学院創造都市研究科教授)さんの小論文より、―― :コピー・ペー。
 反貧困運動として最近、注目を浴びている団体に、最低賃金1500円をかかげ活動する「エキタス」がある。
 その関係者による座談会で今野晴貴氏(POSSE代表)は、「アメリカの最低賃金引き上げ要求が広い支持を受けている話には、ハッとさせられるものがある。……以前の企業ごとに分断された利害関係を超えて、社会運動によって国の政策を変える以外に生き残る術はない。という方向に結集することは、本当に大きな転換です。そうなると、労働運動は市民運動的になります」などと語っている。他方で雨宮処凛氏(作家、活動家)は「エキタスが出てきた後、若者たちによって今度は住宅問題改善を訴える団体( Coll for Housing Democracy)が結成され」、「公的な支援で家賃負担を下げろ!」と、多くの市民に訴えたデモについて、「それって、すごい面白いなと思ったんです」と感想をもらしている(『エキタス――生活苦しいヤツ声をあげろ』かもがわ出版、2017年)。
 「反貧困運動」が労働運動から市民も係わる都市社会運動へと「大きな転換」を遂げつつある背景には、どのような社会活動の変化が関係しているのか。この小論では、民間賃貸を利用する「賃貸世代」に着目し、アメリカ、イギリスを中心に、その動向を簡単に紹介してみたい。
 工業からポスト工業化=サービス経済化に伴う所得分布の二極化、中間層の収縮に伴う郊外持家の凋落と富裕層の都心回帰(ジェントリフィケーション)という状況下で、都市における「賃貸世代」の生活は、賃金と家賃をめぐる問題が交錯する結節点となっている。「賃貸世代」が、地域からの労働運動、地域からの住宅運動の拠点となり、より広範な社会運動を活性化させる主体となりうる可能性が出てきている。
 2008年前後の住宅バブルとその破綻による大不況は、アメリカの歴史上、前例のない長期にわたる低迷をもたらし、持家率は2004年の69.0%をピークに2015年には63.7%と5%以上も下降した。2015年での持家世帯数は7470万と2005年以降、ほぼ横ばいとなっている。
 底をうった持家の2011年から上昇傾向にあるが、中古住宅で22万2400ドル(2015年)、新築で29万6400ドルにとどまっており、さらに住宅ローンの利率は30年間の固定金利で2015年の4%から2016年には3.6%に下降している。このように持家価格は概してアフォーダブル(手に届く価格)となっているものの、特に若者の住宅取得はを阻害しているのは、減少する所得と拡大する学生ローン負債である。
 他方、この10年間の借家需要の急激な拡大により、2015年には4300万の家族と個人が民間の賃貸住宅に生活し、2005年と比較して900万近い増加になっている。このためアメリカにおける賃貸世帯の比率は31%から37%へと上昇、1960年代の中頃以来もっとも高い状況になっている。
 賃貸世代」について、その特性を世帯主の年齢と世帯タイプからみると、2005年から2015年にかけてミレニアム世代(1985年から2004年までに出生)といわれる30歳未満は約100万人増加、これに30代と40代が続いている。他方、世帯タイプでは単身が一般的であり、2005年と比較して290万世帯が増加、第2に結婚したカップルまたはひとり親世帯からなる子どものいる家族であり、220万世帯の増加となっている。
 アメリカにおける住宅政策の動向を検証しているハーバート大学・住宅研究センターは、増大する賃貸世帯について、「20代に達したミレニアム世代にとって賃貸は一般的であり、さらに彼らは前の世代より結婚と子どもをもつことが遅く、したがってまた持家への移行を遅延させている。実際、大不況により多くの若者が彼らの親の家に滞留しなければ、賃貸世帯数はもっと高くなったであろう」と述べている。
 以上のように持家の低迷と借家需要の拡大には、2008年以降の大不況が関係していた。しかしながら、より長期的にみると、その要因は都市における工業からポスト工業化=サービス経済への移行、それにともなう中間層の収縮と所得分布の二極化に由来していた。
 たとえばニューヨーク市は、2013年に「ミドルクラスの収縮」(The Middle Class Squeeze)というレポートを公表、そこでは、2001年から2011年までの同市における産業セクター別の雇用数の変化が調査されている。2001年以降、増大した業種は、健康関係、小売業、レジャーなどで、これらは低所得層ないし下層中間所得層に該当する。これに対して中間所得層にあたる工業部門は8万人もの減少となっていた。
 郊外における持家は、それまで分厚い都市中間層を形成していたブルーカラーと工業に付随する管理経営、事務職を担うホワイトカラーの需要に依拠していた。その条件が徐々に失われつつある。
 レポートは、低所得層の増大要因として、就業構造の変化とともに、労働組合の弱体化をあげている。第二次大戦後から1980年まで、アメリカの中位賃金(全標本の中央値となる賃金)は、労働生産性の上昇とともに増大したのに対し、1980年以降、前者は後者の上昇に比例しなくなった。その要因は労働組合の組織率の低下にあり、全米の民間セクター組織率は、1979年の23%から1985年の16%にまで低下した。ニューヨーク市は、全米と比較すると組織率が高く、2012年で民間セクターは12.8%(全国6.8%)、公共セクターは73%(全国38%)という状況にある。しかしながら市全体の組織率は、1990年代初頭の不況のもとで大幅に低下、その後も逓減しつつある。
 なお、2012年での家賃別の住宅戸数の分布について2000年と比較した増減を検討すると、月額家賃1000ドル以下の借家は、全体(210万4601戸)の49.4%(2,000年)を占めていたが、この12年間で40万130戸も減少、とくに家賃601ドル~800ドルまでの借家は、24万1160戸ものマイナスとなった。他方、家賃1200ドル~1800ドルまでの借家は、24万8986戸も増大、家賃2201ドル~2401ドル以上の高額物件も拡大傾向にある。
 以上のように低所得層が増加したにもかかわらず、低家賃の借家が大幅に減少したことで、かれらの家賃負担は過重となった。ニューヨーク市における所得に対する家賃負担の比率は、2012年時点で年収2万ドル以下で68.0%にも達することになった。
 低家賃の借家の大幅な減少と高額物件の拡大の背景には、富裕層の都心回帰=ジェントフィケーションの浸透があり、これにより既存の借家人を追い出しは増加した。
 留意すべきは、レポートの時期と重なるブルームバーグ前市長(2002年1月~2013年12月)は、不動産市場を活性化させる立場からジェントフィケーションを容認、追い出し問題への適切な介入を(家賃規制等)を怠ったことである。前市長のもとで追い出しを余儀なくされた借家人の数は、2006年の2万3669人から年々増大し、2013年には2万8849人拡大、2002年に約3万人であったシェルター利用のホームレスは、2014年1月に5万3615人へと大幅に増加した。




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