« トランプのアメリカに住む<6>―① | トップページ | メガ貿易協定の限界 ① »

2018年3月 1日 (木)

トランプのアメリカに住む<6>―②

続き;
 ここで思い起こしておくべきは、確かに2016年の大統領選では、ソーシャルメディアでのフェイクニュースの氾濫が致命的な問題だったが、今日のポスト真実状況をもたらしている責任は、決してソウシャルメディアだけにあるわけではないことだ。
 すでに触れたように、2016年の大統領選でフェイクニュースが大きな影響を与えた背景には、一方では既存ジャーナリズムに対する信頼の持続的な低下があり、他方ではFOXニュースに代表される右派メディアの著しい擡頭があった。
 すなわち一方で、既存のニュースメディアはインターネットによって環境が激変し、紙媒体の販売や広告収入が減少するなかで、これまで通りのコンテンツの質保証体制の維持できなくなってきている。
 そうしたなかで、政治的立場ごとにメディアの分極化が進み、読者や視聴者はこれまで以上に自分が読みたい記事、望む話だけをメディアに期待するようになった。だからフェイクニュースの受容を通じて人々が築き上げたのは、彼ら自身が願望した世界である。
 ロシアによる諜報的な介入は、プロパガンダというよりも、自己実現的なファンタジーの論理に従っているのだ。コンピュータのアルゴリズムにより仕分けられた人々は、それぞれが自分の「真実」の壁を補強する情報を求めていった。こうして対話は失われ、自画自賛する言葉しか持たないトランプ大統領が出現した。
 事の重大さは、こうした自己閉塞的な政治的ファンタジーへの回路が、高度なアルゴリズムによって精密に設計可能になっていることにある。そこで製造されるフェイクニュースは、今回の大統領選でマケドニアの若者たちが製造したような乱暴なものより、はるかに手のこんだものとなろう。
 ソーシャルメディアは、たとえ様々な法的規制を加えられたとしても、アクセスした個人の履歴をたどり、その有権者に応じたテーラーメイドのニュースを製造していくことができる。
 トランプの選挙戦をイデオロギー的に先導したスティーブ・バノンは、彼自身の右派メディアの運営だけでなく、データ分析会社ケンブリッジ・アナリティカと結んで有権者のそれぞれに対応した「オルタナティブな真実」を提供し、その投票行動を左右することを目論んでいた。
 こうしたビジョンの先にあるのは、決してあからさまに抑圧的な全体主義でも、粗製乱造のフェイクニュースで混乱に陥る社会でもなく、AIにより狡猾に編集された「ニュースらしきもの」が各個人に向けて提供されることで社会が計算ずくで分断され続ける「1984」的未来である。
 その際、そのビッグブラザーは突然、上から侵入して来るのではない。自己管理できなくなってしまった市民社会が、困り果ててビッグブラザーを自ら呼び寄せたのである。
 現在のアメリカは、20c.を通じて私たちが慣れ親しんできたアメリカとは別の何かに確実に変化しつつある。この変化は、遅くとも2001年9月11日の同時多発テロで始まっていたと言えるだろうし、早くはアメリカが福祉国家体制から新自由主義への舵を切ったレーガン政権から始まっていたのだとも言えるかもしれない。
 総じていうなら、トランプ政権を窮地に立たせるロシア疑惑は、今日のアメリカ社会が、かっての工業資本主義ともニューディール的な福祉国家とも異なり、むしろ寡頭制的な情報資本主義と化した中ロの権威主義的な体制と似てきていることの裏返しである。
 そしてこの変化には、新しい情報、経済、階級、人種、アイデンティティの体制構築が含まれている。それは多くの場合、暗澹たるディストピア的な未来の様相を帯びるが、しかしそれでも私たちの未来は、このアメリカの現実を見つめることによってしか開かれないのだ。
 今回、一年弱のアメリカ滞在を機会に、変化しつつあるアメリカ社会の現在と未来を、私(吉見)なりに見つめ直してみたい。




« トランプのアメリカに住む<6>―① | トップページ | メガ貿易協定の限界 ① »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/413185/73020003

この記事へのトラックバック一覧です: トランプのアメリカに住む<6>―②:

« トランプのアメリカに住む<6>―① | トップページ | メガ貿易協定の限界 ① »