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2018年3月 5日 (月)

メガ貿易協定の限界 ③

続き:
 TPP 11をめぐる動きの中で、日本政府は突出して強固に妥結を目指してきた。
 安倍晋三首相は米国大統領誕生直後に、「米国抜きではTPPの意味がない」と明言し、トランプ政権に翻意を促していくことを基本方針とした。その後、TPP 11を本格的に主導し始めた後、政府はその根拠を「TPP 11を先に妥結させ、米国に復帰を説得する」「TPP 11が歯止めになって米国からの2国間FTAの要求をかわすことができる」等と説明してきた。
 しかし果たしてそれが真意であり、そして現実的で妥当な方向性なのだろうか? 答えはいずれもノーであろう。米国がTPPに復帰する可能性は、少なくともトランプ政権下では限りなくゼロに近い。
 それどころか、TPP 11が発効すれば、米国は今まで以上に強硬に日米FTAを要求してくる危険性の方が高い。その際には当然、TPPで妥結した中身以上のものが求められるだろう。
 仮に米国がTPPに復帰するとなった際に、現状のTPP協定で米国が納得しない場合はどうするのかという問題もある。米国は2016年2月、TPP協定に署名したが、トランプ政権誕生はその後だ。
 米国の製薬企業はバイオ医薬品保護データ期間について米国が譲歩したことに強い不満を抱き続けてきた。この条項は今回凍結されたが、米国復帰の際に再交渉を求めてくる可能性は十分にある。
 繰り返すが、TPPとは「米国のつくった協定」であり、復帰の際に交渉の蓋を再び開ける権限(どこにも明文化されていないが)を米国は今も持っている。このことを日本政府はどこまで想定できているのだろうか。
 仮にTPP 11交渉を進めるのだとしたら、その経済効果をあらためて国民に示し、その意味とリスクを国会で審議すべきほどの重大な決断であったはずだ。しかし情報開示も説明もなされず、国会議員も蚊帳の外に置かれてきた。
 また、交渉に際して、日本政府は何らかの項目の「凍結」を要求したのだろうか。例えば日本は、主に米国への譲歩として、脱脂粉乳とバターで低関税輸入枠を設定した。米国離脱後に、これを修正・凍結しなければ、オーストラリアやニュージーランド、カナダなどの農産物輸出国が輸入枠をすべて使えることになる。
 牛肉・豚肉等のセーフガード(緊急輸入制限)の発動基準数量も変更しないため、TPP 11参加国は米国抜きでほぼ制限なく日本に輸出できる。本来であれば、これらの再交渉や凍結を求めることが国益にかなった選択であっただろう。
 実際、自民党の農林水産議員からも農業への打撃を押さえるためこれら項目の再交渉や凍結を要求する声も上がっていた。
 しかし、「調整役に徹する」とした日本は、関税はもちろんルール分野での再交渉や凍結は何も要求していないのではないか。茂木大臣は関税について「新協定の中で、TPP 12の発効が見通せない場合には内容を見直すこと(=再協議)ができる」と説明しているが、米国の復帰ないと判断するタイミングは特定しづらく、再協議も義務づけられているわけでもない。
 しかも先にTPP 11が発効し輸入が増加した場合、後で再協議したとしても時すでに遅しとなる危険も大なることを覚悟しなければならない。
 つまりこの見直し規定の実効性は極めて疑わしいものだ。
 医薬品特許や著作権保護期間の70年への延長、ISDS等のルールについては、日本も凍結を主張すべき項目である。例えば医薬品の特許に関して、米国製薬企業が求めてきた「特許を与える当局の不合理な遅延についての特許期間の調整」という項目は、1年でも長く企業が特許薬を販売できるよう規定された内容だ。もしこの条項が生きていれば、国内法が改正され日本でもジェネリック医薬品の販売が先送りされ、医薬品の高止まりが起こりうる。
 まさに私たちの生活にも関わる条項であるわけだが、これを凍結すべきだと主張したのは日本ではなくベトナムなど途上国政府であった。他国政府のおかげで日本の私たちが救われたということ。
 勿論、米国がTPPに復帰すればこの有害条項は再び生き返り、すべての参加国の人々に悪影響を及ぼすことになる。その意味では、完全に削除されなければ意味がないという見方もできるだろう。
 しかし他国政府が時々の状況の中で必死に自国民の生命や暮らしを守る努力をしたことは確かだ。
 翻って、日本政府はどうなのだろうか。自国民にとって有害な条項を、わずかな程度であっても止める努力をしたのだろうか。それすらせずに妥協をめざし他国に対して「要求を断念しろ」と迫っていたのだとしたら、それは日本政府の役割の放棄であると言うべきだ。





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