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2018年4月14日 (土)

トランプのアメリカに住む パート3 ハーバードで教える ②

続き:
 米国生活が長い人々には、おそらくこのメタファーがぴったりくるのだろう、とにかくアメリカは社会契約によって成り立っている社会である。しかし、「学生との契約」という観念がそもそもない日本の大学教師にとって、この解釈は今一つピンと来ない。正直、教師と学生の関係は社会契約的なものではなく、もっと共同体的なものではないかと思いたくもなってしまう。
逆に言えば、アメリカ人的な感覚からすれば、共同体を形成することと社会契約を結ぶことは、一体なのである。大学は、そのような社会契約によって形成される教師と学生の共同体だから、シラバスは正しくこの共同体設立の根幹をなす契約書なのだ。
 ここでは日米文化比較をしても仕方がないが、「契約書」のメタファーだけでは納得できなかった吉見は、もう一つの、誰にでも受け入れやすそうなメタファーを考えてみることにした。それは、シラバスは授業というドラマの上演に際し、「教師と学生が共有するシナリオ」だというものだ。日本の大学のシラバスがその授業を売り込む商品カタログ程度のものでしかないとすれば、アメリカの大学のシラバスははるかに詳細に授業の内容を規定している。それぞれの週がどんな場面か、教師の役割は何で、学生に期待される役割は何かを最初から書き込んでいる。それは、演劇の上演に際して最初に渡されるシナリオに近い。もちろんアドリブは許されるが、シナリオに教師と学生とTAの役割が明確に示されているからこそ、授業を教師から学生への一方通行ではなく、各々がその役割に応じて参加するドラマができるのだ。
 では、そのシラバスとはどのようなものなのか。吉見の春学期授業「日本の中のアメリカ」を例に示しておこう。シラバス冒頭には、この授業が月曜と水曜、午後1時から2時までの1時間実施されることが実施場所とともに示され、それ以外に金曜日にTAとの復習のための討論クラス、火曜日午後には教授のオフィスアワーがあることも示されている。
 つまり、この科目だけで講義は週2回、TAとの演習が1回、必要に応じての教師との面談がさらに、1回あることになる。この基本事項の後に、科目の狙いや取り上げる内容、受講に日本語や日本史についての特別な知識を前提としないこと、毎週、講義内容に関連した映像を見せていくことなどを書いた講義概要が続く。このへんまでは、形式的には日本のシラバスと大差ない。
 これに続くのは、この科目で学生に要求される諸事項の記述だ。この授業の場合、毎週のリーディング・アサインメント(課題文献)を読んだ上、月曜の講義に真っ向から挑戦する批判的なコメントを400語以内にまとめ、火曜の午後6時までにウェブサイトに投稿することが要求されている(成績評価の20%)。授業への批判を奨励するどころか要求すらするのは、私(吉見)自身がずっとしてきた授業実践だが、ここでは課題文献の読了が加わっている。
 目の前にいる教師を攻撃しろという要求に応じるのは学生にとって容易なことではないし、さらに課題文献への言及が加わるのだから、かなり高いハードルだ。授業の目論見としては、課題文献と月曜の授業に対する批判を火曜の晩までに学生に書かせ、火曜深夜から私(吉見)がそれらを読破し、水曜午後に予定されている授業の議論に反映させようとしている。日本の大学の授業の常識からは想像もつかない忙しさである。
 さらに、週2回の授業とTAによる演習に出席すること(同10%)、授業開始から約1.5月後に中間レポートを提出すること(同15%)、このレポートに対する教師からの指摘を受けて書きなおすこと(同10%)、授業開始から2カ月後に最終レポートの提案書を提出すること(同5%)、授業の最終回で最終レポートの発表をすること(同10%)、最終レポートを学期末に提出すること(同30%)と、細かく課題が決められている。
 注目すべきは、各要求事項が科目の成績評価でどれだけの割合を占めるかが明示されていることだ。この方式は、私(吉見)が今回の授業で開発したことでは全然なく、あくまでルーティンで実施されている方式に従ったにすぎない。
 ここまで細かく決められていれば、成績評価はいたって透明である。前述の「契約書」の比喩にも説得力が出てくる。





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