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2018年4月15日 (日)

トランプのアメリカに住む パート3 ハーバードで教える ③

 以上で、ようやく、1ページ目が終わった。まだまだシラバスの9割近くが残っている。2ページ目からは、各週の授業の詳細な説明だ。第1週は「日本の中のアメリカ、その150年」、第2週は「黒船と宣教師」、第3週は「モダンガールとアメリカン・ライフ」、第4週は「東京空爆」、第5週は「マッカーサーと天皇」、第6週は「米軍基地と若者文化」、第7週は「ゴジラと力道山」、第8週は「皇太子成婚と東京オリンピック」、第9週は「メイド・イン・ジャパン」、第10週は「沖縄返還」、第11週は「東京ディズニーランド」、第12週は「3・11以後」、第13週は「日本の中のアメリカはいつまで続くか」という構成だ。

 黒船から空爆や米軍基地を経て沖縄、そして東京ディズニーランドまで、多様な話題を扱いながら私(吉見)が論じようとしているのは、「日本の中のアメリカ」を、アメリカから日本に輸入されたものと見るのではなく、不均衡なグローバル地政学のなかで日本社会が構築してきた「他者」の姿として理解することである。この反響を子細に見ることで、クラインの壺のように内と外が裏返しになった近現代日本の振る舞いが捉えられる。

 この講義は、元来、『親米と反米』(岩波新書)等々で書いてきたことが材料となっているが、受講生は日本語がわからないアメリカの大学生たちである。講義の中身を英語にするだけでなく、学生たちには日本の歴史的文脈にについて理解を深めてもらう必要がある。

 そこで各回のテーマに関連する映像クリップを上映することにした。例えばモダンガールを主題した回は片淵須直監督の『この世界の片隅に』、米軍基地と若者文化を主題にした回には中平康監督の『狂った果実』の1部を紹介するといった具合だ。

 選択で苦労したのは、日本語が出来ない学生を前提としているため、いくら映像が授業の主題にぴったりでも、英語字幕のない映像は使えないことだった。例えば雪村いづみやフランキー堺、高島忠夫が熱演した須川栄三監督の『君も出世ができる』等は、1950~60年代の「日本の中のアメリカ」を考えるのに格好の映像だが英語字幕がないために断念した。

 以上は1月末から開講する春学期のシラバスの例だが、秋学期に実施した大学院授業の「日本のメディア研究」はもう終わっている。その経験からいうと、シラバス作成から、授業の前週に提出される課題文献についてのレポートを読むことまで、授業の前にしなければならない作業は多いのだが、意外にも授業そのものの大変さは日本より少ない。

 TAが優秀であれば、TAと学生の間でどんどん議論を進めてくれるし、教師から投げかけた問いに対し、学生たちは自分たちの間で議論を始める。この「自分たちの間で」というのがポイント。日本の大学では、大学院のレベルですら、教師と学生が相互に質問と答えをキャッチボールすることはあっても、学生間で議論が深められていくことはめったにない。

 ところがハーバードで授業がうまくいったときには、学生相互が問題関心を共有し、教師などまるでいないかのように自分たちで議論を続けていくのだ。

 こうしたことが可能なのは、一方では学生たちが中学高校段階から議論することをトレーニングされているからだろうが、もう一方では参加者がシラバスに示された課題文献を事前に読み、授業のための問題意識を共有している「からでもある。日本の大学には、このどちらも欠けているのである。

 中学高校段階から議論する習慣を育成するのは教育行政全般にかかわることで、大学だけの力でどうにかできるものではないが、課題文献の予習を通じた問題関心の共有化は、大学自身の努力で改善可能な事項である。いくら優秀で討議力のある学生たちでも、事前に共通の文献を読んでおくという作業なしに集まっただけでは、教師そっちのけで自分たちで議論を深めていくことなどできない。

 換言するなら、授業は、教師が「語り」、学生が「聴く」以前に、学生が文献を「読み」、感想を「書く」ことから始まる。それによって問題意識が共有されるのだ。この「読む」「書く」行為が行われるのは、狭い意味での教室ではない。それはむしろ図書館やICTのシステムに支えられている。

 実際、ハーバードにはワイドナー図書館という世界最大規模の大学図書館があり、東アジア関連の文献ではイエンチン図書館がある。いずれも蔵書が膨大であるのみならず使い勝手がきわめて良い。

 9月、初めてワイドナー図書館を訪れたとき、あまりに広いので吉見は書庫で道に迷った。うろうろしていると、通りかかった職員が心配して声をかけてくれ、目当ての本があるところまで案内してくれた。

 そんなこんなで10冊近い本を出納係まで持っていき、何冊まで借りられるかと聞くと、「何冊でも」という答え。いつまで借りられるかを聞くと、「来年2月まで(半年間)」という答えだった。この寛容さに、大学が本気で本を読ませようとしている姿勢を感じた。

   http://masa71.com/     更新したから宜しく。






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