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2018年4月16日 (月)

トランプのアメリカに住む パート3 ハーバードで教える ④

 

 さらにハーバードでは、「ハーバード・キー」というICTシステムに教務、図書、メール等すべての情報が一元的に統合されており、たった一つのパスワードで大学が提供するすべての情報にアクセスできる。東大同様、この大学には多数の附属図書館があるが、すべての図書・雑誌情報、、データベース、映像コンテンツが一覧的に検索できるようになっている。ちなみに朝日新聞や読売新聞のデータベースにもここから自在にアクセスできるから、ボストンにいても日本の新聞情報に困ることはない。

 学生たちは、前述の授業のウェブサイトにこのハーバード・キーを通じてアクセスし、そこで各回の課題文献をダウンロードし、それらを読んでコメントも同じサイトにアップロードする。全学的に統一された簡便な情報インフラは、討論型の授業の前提である。

 課題文献を読み、それについて討論する。そうした実践を中核に織り込んだハーバードの授業を進める中で、、私(吉見)は、「授業がうまくいく」とはどういうことか、再考させられることとなった。一般には「授業がうまくいく」とは、教師の講義がスムーズに展開され、学生たちの理解が進んだときのことを指すとされる。しかし実際には、こちらが饒舌に説明しすぎると、学生たちの議論は活発化しない。むしろ、課題文献の選択が適切で、学生たちが興味をもってその文献を読んでいれば、論議自体の出来栄えは不十分でも議論は活発化する。そしてその議論をリードするのは教授ではなくTAなのである。しかもこうした授業のほうが、学生たちの発想の転換や考え方の深化を進ませるのだ。従って「授業が上手くいく」とは、実は担当講師の出番が少なく、むしろまるで黒子のようになって、TAと学生たちとの議論の聞き手に回れたときのことを指す。

 実際には、ハーバードでもそんなことは頻繁には起こらないし、そういう流れになっていても、教師がついでしゃばって発言し、学生相互の議論の流れを壊してしまうこともある。これは自戒を込めて書いているのだが、大学教授はおしゃべりなので、つい黙っていられなくなってしまうのだ。私(吉見)の科目でもそうしたことが何度か起き、吉見は後から反省した。

 秋学期の大学院科目では、前半のほうが、学生たちは私(吉見)の存在など気にすることなく、課題文献の問題点について学生相互に議論をしていた気がする。後半に向かい吉見の講義の流れが出来上がってくると、むしろ学生間の議論が最初ほど活発でなくなり、多くの学生が吉見に対して問いを投げかけたり、意見を表明したりすることが増えたようだ。これは、授業としては失敗である。その責任は私(吉見)自身の講義の饒舌さや発言の多さにある。実に困ったもの。

 ハーバードと東大で学んだ経験のあるベンジャミン・トバクマンの『カルチャーショック ハーバードVS東大』(大学教育出版、2008年)を読むと、東大の授業で吉見よりもひどい例が登場する。それによると、彼が自分の発表でマイケル・サンデルのハーバードでの授業映像を使いながら教室の学生たちに質問を投げかけると、学生たちが考えるより前に教授が正解を答えてしまった。

 しかもそれが何度も続いたので、彼は「先生は自分がこのディスカッションをどれだけ独占しているのか、さっぱり理解していなかった。そして学生の発想は、自分の発想ほど重要ではないという偏見があったのだろう」と書いている(71p)。対話式の授業を実施しても、教師は正解を常に持っているという前提を崩さない限り、創造的な対話は生まれない。

 ではどうすればいいのか―― 。勿論授業というのは教師の講義や助言なしには成立しないから、最初~最期まで学生たちの自由な議論に任せるのも正しい解決策ではない。学生たちの議論を放っておくと、しばしば煩繁に発言する学生に引っ張られ、しかも知的に深いというよりも世間的にわかり易い理解に向かいがちになる。そうではない。みんなが自明と信じていることをもっと疑わなければならない。

 常識に従うのではなく、学問的な議論に従って考えよう。そうしたメッセージを教師側から介入的にしていくことは必要なこと。しかしそれが過剰になると、議論の構造が多核心的ではなく、教師を中心とする放射的な構造になってしまう。― 微妙なバランスが必要なのだ。.

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