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2018年4月19日 (木)

トランプのアメリカに住む パート3 ハーバードで教える ⑦

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 ハーバードでは、学期は始まったかと思うとあっという間に終わる。それが、実感だ。秋学期が始まるのが8月末で、最後の授業は11月末。そこから最終レポートの執筆期間に入る。春学期は1月下旬に始まり、4月下旬に最後の授業があり、その後は最終レポート執筆期間となる。いずれも実際の授業期間は3ヵ月で、この期間内は学生たちが毎週提出する小レポートを読んだり、英語授業の準備をしたり、オフィスアワーに学生の研究相談に乗ったり、大学側が催す様々なイベントに参加したり、とにかく忙しいが、それが3ヵ月を越えて長引くことはない。
 学生たちは、最終レポートを提出してしまうと、故郷に帰ったり旅に出たり、まったく自由の身となる。教師陣も日本の大学のような膨大な入試業務は存在しない。大学執行部はもちろん忙しさが続くだろうが、一般の教授の場合、日本の大学のように無数の委員会業務がそこに入り込んでくることはない。
 もう1つ、大学キャンパスに毎日車で通う身になって気づいたことは、多くの教職員が朝9時前にはしっかり職場に来ているのだが、午後は遅くとも5時前には帰宅することである。朝9時半頃、吉見が大学に着く時間にはほぼ満車だった学内の大型駐車場が、午後5時頃にはガラガラになっている。しかも育児や諸々の理由で多くの教職員が午後3時くらいには帰宅を始めるから(他の組織でも同様なのだろうか)、周辺の道路は午後4時頃には渋滞が始まる。
 この渋滞は6時頃までつづくが、午後7時過ぎには誰しも家に帰ってしまっているので終わっている。たとえ忙しい時期でも、日本のように教職員が夜8時、9時まで残業することはあり得ない。
 要するに、アメリカの大学生活は、日本よりはるかにメリハリが利いている。働くときは集中して働き、学ときは真摯に学ぶが、時間が過ぎるときっぱりそこから離れる。もちろん日本人だって、多くの人はそのほうが望ましいと思っているに違いない。
 しかし、日本の大学では決められるべきことが延々と決まらず、多くの教職員が手続きや調整、意志決定に膨大な時間を使い、結果として業務が果てしなく続く。教員も職員も、先の見えない非効率な長時間労働でやがては疲弊していくのが現実である。なぜ、ハーバードでごく自然に実現できていることが、日本のとりわけ国立大学ではまったく実現しないのか――。
 その最大原因は、大学の諸機能の専門分化が進んでいないこと。吉見が渡米してハーバード大学で諸々の手続きを始めたのは2017年8月のことだった。最初の2週間、吉見はライシャワー研究所の優秀なスタッフに助けられながら多くの手続きをした。
 おそらく日本の大学ならば、この種の手続きは所属学部の総務課あたりに書類が揃っていて、その係員に助けられながらその場で書類に記入していくだろう。その際、決定権は職員にはないので、諸委員会を経て、1ヵ月くらい後に諸々の権利が与えられることになる。
 ところがハーバードでは、吉見はあちこちの専門職員のオフィスに連れていかれ、それぞれ質問に答え、提示される書類にサインした。それ自体は面倒だが、その職員の承諾が得られると、その場で吉見に関するすべての事項が決定されていった。
 ちょうど入国ビザが、大使館の係官の面接によって決定・受給されるのと同じである。それぞれの専門職員は、自分の職掌の事項では直接、最終決定権を持つのだ。
 ハーバードでは、各分野で決定権を持った職員がおり、その人自身の判断で相当なところまで決裁出来る。より上位の誰かに確認したり、委員会に諮ったりといった手続きは行わない。このように意思決定の専門家と分業化ができていることが、ハーバードという巨大組織運営を効率化している。
 ところが日本のとりわけ国立大学では、意思決定を過剰に合議制に委ねているため、職員が決定権を持つ範囲が狭く、そもそも職員の専門化が進んでいない。その結果、職員が教授陣の了解なしに物事を決めるのを避け、何でも教授陣の委員会で決定してもらおうとしがちになる。教授たちも、誰も専門家はいないから、誰かが一人で決定することは忌避され、無数の委員会が開かれ合議で決めた形をとる。そうした業務がどんどん膨らみ、非効率な長時間労働状態が蔓延していく。しかも、決定の責任は曖昧だ。
 これはまるで、近代的官僚組織のムラの寄り合いの集合体の差である。専門的な訓練を受けた職員が、その職掌について誰と合議することもなく決定できるのは、当人にその決定権が与えられているからだが、同時に多くの業務が学部と大学を越えて標準化されているからでもある。
 だからこそこの種の専門職員は、それぞれのキャリアを地方の小規模大学の職員から始め、有能ならば徐々に規模の大きい、より中心的な大学に移っていく。大学教授だけでなく、大学職員も各専門で組織を越えて異動するのである。





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