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2018年4月 2日 (月)

追い出しと雇用不安に直面する「賃貸世代」―― ロンドン ①

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 『アメリカの住宅政策』(2015年)の著者であるアレックス・シュワルツは、「不幸にも、低所得者への住宅扶助は、持家への税控除のようにエンタイトルメント(当該者全員に権利が生じる)ではない。このため住宅問題は継続することになる。低所得の借家人の大部分は、政府の助成を受けておらず、ホームレスとなっている」と指摘。一方イギリスの住宅手当は、低所得者層に対し家族数に応じた居住水準を確保すべく、家賃の一部を補償するエンタイトル・プログラムだ。
 ただし、中間層の収縮に伴う持家の減退による民間賃貸の需要拡大、ジェントリフィケーションに伴う家賃上昇がコントロールされず、他方で、サービス経済に伴う労働市場の規制緩和により低賃金化が進行する状況下では、家賃と所得の差を補填する住宅手当は財政を大きく圧迫し、政府はその支出抑制しようとする。
 その結果、住宅手当利用者は、家賃のより低廉な都市の周縁に追いやられ、時には代替住宅さえ充当されず、ホームレス問題に直面することになった。
 イギリスの国家監査局(NAO)が、2017./09に、公表したホームレス調査によれば、2017/03、おいて一時的な居住施設を利用しているのは77240世帯(2011/03~60%の増加)、そのうち子どもは120,540人を占めていた。また、野宿者は、2016年の秋期で4,134人(2010年~134%の増加)という状況にあった。
 調査レポートは、ホームレスが急増した要因として、保守党政権のもとで民間賃貸に適用される地域住宅手当(LHA)の支出が抑制され、上昇する家賃に対応できないこと、保守党は借家人を保護するために総選挙(2017/06)のマニフェストで賃貸借契約の長期化を掲げていたが履行していないこと、をあげている。サッチャーは1988年住宅法により、新たな契約について市場家賃と保証短期賃貸借契約(AST、最短で6カ月ごとの契約更新が可能)を適用、これにより家賃の更新と追い出しが可能になっていた。
 ロンドン市長(サディック・カーン、労働党)は、2017年の9月に「ロンドンの住宅戦略」(草稿)を発表。そのベースとなった「データ集」によると、労働党政権のもとで下降していたロンドンのホームレス数は、キャメロンが政権に就いた2010年以降、上昇に転じている。主な要因はASTの終了にあり、2016年には8060件(要因全体の41%)に上っていた。
 ホームレスと認定された人々に、自治体は公的住宅を優先的に割り当てる義務がある。しかし現状では劣悪な民間の居住施設を利用している状況。
 以上の背景には、公営住宅のストックの減少だ。1980年にサッチャーが導入した公営住宅購入権(RTB)により、その30年間にわたる行使(イングランドでは、現在も作動)により、250万戸(持家ストックの10%に該当)の公営住宅がディスカウントされた価格で売却され、ロンドンの場合、社会住宅(公営、非営利の住宅協会)のストックは、1981年の35%から2016年の23%にまで縮小。
 他方、ローン支払い中の持家は、2000年の38%から2016年の28%まで下降、同じ期間に民間賃貸は、15%~28%へ増加。民間賃貸の特性を他のテニュア(持家か借家かといった財産保有状況)と比較すると、子どもをもつ民間賃貸世帯は2004年の20%から2016年の35%に拡大し、ローン支払い中の持家(49%、2016年)、社会住宅(42%、2016年)に近接しつつある。世帯主の経済活動に着目すると、就労世帯は社会住宅が42%(2015年度)にとどまっているのに対して、ローン支払い中の持家(81%)、民間賃貸(73%)という状況。
 但し、2004年度~14年度にかけて民間賃貸の貧困世帯(450万人、14年度、中位所得の60%)は、他のテニュア(社会住宅460万人、ローン支払い中の持家450万人)と比較して急速に上昇、その要因は、ワーキングプアの拡大(民間賃貸で100万人~280万人)にあった。
 この点、ローントリー財団(貧困問題を調査している非営利団体)が公表したUK全国レベルのレポートは、「民間賃貸の貧困地帯はこの10年で二倍なり、かれらの多くは社会住宅(ないし持家に住む人と比較して、働いていながら貧困の状態にある」と指摘している。
 





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