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2018年4月 6日 (金)

日本への示唆

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 以上、アメリカとイギリスの「賃貸世代」の問題解決を巡る政治的な傾向は異なっているけれども、その方向性が、持家に傾斜していく住宅政策のデュアリスト・モデル(アングロサクソン諸国と日本)からの脱却を模索していることは共通しており、特にイギリスは、社会住宅である原価賃貸と民間賃貸とが競合して、それぞれの居住水準と家賃レベルを平準化させているユニタリー・モデル(北欧とドイツ、オランダ、フランスなど)への転換を目指している。
 イギリスにおける先導的・進歩的なシンクタンク・公共政策研究機構(IPPR)が公表した「住宅への新たな戦略」(2012)という注目するようなレポートでは、住宅市場の改革にむけて、とくに民間賃貸と社会住宅との居住条件のギャップを無くし、2つのテニュア間を入居者が移動できるようにするために、「民間賃貸での安心と社会住宅でのフレクシビリティ」が強調。
 同じくIPPRによるレポートは「ドイツからの教訓:賃貸市場におけるテナント・パワー」(2017)では、イギリスの借家人の活動に対し、以下の3点からなる勧告を出している。
 (1)労働組合は、住宅支援団体、TMOs (公的住宅の借家人組織)とともに民間賃貸の借家人のサポートに、より積極的に役割を果たすべきである。
 (2)長期的には、ドイツ・モデルのように地区と全国レベルの借家人ユニオンを立ち上げるべきだ。
 (3)家主と対抗する借家人を擁護すべく、借家人保険により法的な費用をカバーすべき。
 ちなみにドイツの借家人組合は、320の地区組織を代表し、300万の借家人からなる約130万世帯に対して、メンバーから拠出される会費と引き替えに、法的な支援とアドバイスを実施。またベルリンなどの大都市ではジェントリフィケーションに伴う家賃の上昇に借家人グループが対抗、グラスルーツの運動が拡大することで、市当局は、家賃上限の設定、民泊の部分的規制、開発禁止ゾーン、社会住宅への補助金の拡大を実施。
 こうした活動について、ベルリン借家人組合の副代表であるヴィブケ・ヴェルダーは「ますます多くの借家人が自分たちを組織化しつつある」と語っている(「ニューヨーク・タイムズ」2017/03/18付)。
 ところで日本では、「改正住宅セーフティネット法」が2017年10月から動き出し、「既存の空き家・空室を改修して登録住宅とする場合には家賃補助には一戸(室)当たり最高100万円を補助。さらに低所得者が入居する場合には家賃補助も実施する」という「準公営住宅」の供給が開始されている。―― 意図は、「我が国の住宅政策は、これまでは持家重視だったが、高齢化や若年世帯の格差拡大などを背景に良質な賃貸住宅を社会インフラとして整備する方向に大きく舵を取り始めた」と説明されている(住宅新報、2017/06/27)。
 一見するとこの「改正法」により、日本の住宅政策は、デュアリスト・モデルからユニタリーモデルへと、部分的にではあれ転換したようにみえる。しかしこの施策の対象は、住宅確保要配慮者(低額所得者、被災者、高齢者、子どもを育成する家庭、その他住宅の確保に特に配慮を要する者)として「救済に値する者」と明記され、最低賃金の上昇を求める非正規のワーキングプア等は、住宅確保の主体として浮かび上がってきていない。
 他方、配慮者の入居をサポートする居住支援協議会には、不動産関係団体、地方公共団体(住宅部局・福祉部局)、NPO・社会福祉法人等(見守り、生活相談・緊急時対応・コミュニティ活動)が含まれ、労働組合はもちろんのこと借家人当事者の姿は見えない。
 日本のデュアリスト・モデルは、企業主義社会と深い相関関係をもっていたが、企業別組合の下で正社員、年功賃金を前提とした持家への「渇望」は、いまだ根強いものがある。しかしながら、「準公営住宅」の登場は、そうした「渇望」を相対化し、「賃貸世代」が都市社会運動を繰り広げる契機となる可能性を孕んでいる。





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