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2018年4月28日 (土)

Science タバコ煙の歯周組織への影響 ③

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 消化器や呼吸器、生殖器は上皮細胞を介して外界と接している。上皮細胞は外界との物理的バリアとして外来異物の侵入を防ぐ役割を果たしているのみならず、病原体の構成成分である病原体関連分子パターン(Pathogen-Associated Molecular Patterns : PAMPs)を認識することにより炎症性サイトカイン、ケモカインの分泌や細胞損傷に関連した分子群を放出することで炎症反応、免疫応答の制御に関与していることが明らかになっている。
 PAMPsとは微生物特有の分子構造であり、PAMPsを認識するパターン認識受容体の代表的なものとしてToll様受容体(Toll-like receptors : TLRs)があげられる。
 さて、喫煙時に於いて、歯周組織中の歯肉上皮細胞は他の細胞に先駆けてタバコ煙等の外来刺激因子に曝露される。我々を含めた複数の研究グループでは、ニコチンあるいはCSEの単独刺激、もしくはPorphyromonas gingivalis(P.gingivalis)のLSEとの共刺激が歯肉上皮細胞、口腔上皮細胞にいかなる炎症反応を惹起するのかの検討を行った。
 その結果、ニコチン・CSEの単独刺激で炎症性ケモカイン IL-8の発現が誘導され、LPSとの共刺激でIL-8の発現はさらに増強した。また、ニコチンによるIL-8発現増強効果はnAChR特異的阻害薬存在下で抑制された。
 一般に外来異物侵入によって上皮細胞から産生される炎症性サイトカイン・ケモカインは免疫担当細胞を動員して、外来異物の排除、血管新生を経て、最終的に創傷治癒へ向かう。
 しかし、喫煙者においてニコチンによる血管収縮のため歯周組織における末梢微小循環血流量の減少により免疫担当細胞の遊走および血管新生が誘導されにくく、歯肉上皮細胞下の粘膜固有層を構成する細胞群が炎症性サイトカイン・ケモカインに曝露され、そのストレスによって細胞老化を誘導するのではないかと我々は考察している。
 歯肉上皮細胞の増殖や遊走は、創傷治癒や組織再生の場において重要。歯肉上皮細胞にCSC単独の刺激を加えると、細胞形態や細胞骨格に変化を認め、CSC低濃度では細胞遊走能を促進して、高濃度では抑制する。
 低濃度CSC存在下での細胞遊走能の亢進には、インテグリンα3発現の関与が考えられる。
 同一条件下で、P.gingivalisの感染を加えると細胞遊走能は全体的かつCSC濃度依存的に抑制され、インテグリンα3の発現も抑制された。さらに、低濃度CSC存在下で歯肉上皮細胞へのP.gingivalisの侵入率が高かったことから、CSCによる細胞骨格の変化やインテグリンの発現制御がP.gingivalisの細胞内侵入に関与していることが示唆された。
 慢性歯周炎の原因はあくまで細菌感染であり、喫煙は修飾因子である。歯肉上皮細胞はその両者に直接暴露される細胞群である。そのため、歯肉上皮細胞を試料として喫煙と歯周病の関わりを検討する際、タバコ煙そのものの影響と、タバコ煙と細胞因子の両方の影響を区別して考える必要があると思われる。
 上皮細胞は外界と生体との境界、バリア機能を有するが、外界からの物理的・化学的刺激あるいはストレスにより壊死に至る場合もある。組織の壊死に伴い大量の細胞死が生じると、その細胞の内因性起炎物質(自己細胞の細胞質や核内分子)であるダメージ関連分子パターン(Damage-Associated Molecular Patterns : DAMPs)が放出され、これらが周囲の細胞内外の受容体に認識され炎症反応を惹起すると考えられている。
 DAMPsには自己DNA・RNA、ミトコンドリアDNA、核内タンパク質 HMGB 1などがあげられる。タバコ煙は肺胞上皮細胞内で酸化ストレスを発生させ細胞を損傷し、細胞死や壊死を誘導する。
 タバコ煙により壊死した歯肉上皮細胞から放出されるDAMPsが、正常な細胞に何らかの為害性を示すという報告はいまだない。
 しかしながら我々は以前、細胞壊死の誘導方法は異なるものの、凍結融解を繰り返すことで歯肉上皮細胞を壊死させて細胞外に放出されたDAMPsが、歯肉上皮細胞や歯肉線維芽細胞に及ぼす影響について検討している。
 歯肉上皮細胞を培養液に懸濁して5回凍結融解を繰り返した後、遠心分離法により得られた培養上清を壊死歯肉上皮細胞から放出されたDAMPsを含む necrsis cell supernatant(NCS)として実験に用いた。
 歯肉上皮細胞や歯肉線維芽細胞をこのNCS存在下で培養すると、NCS濃度依存的にIL-6、IL-8産生を認めた。NCSによって惹起される炎症反応はTLRsの1つであるTLR 3を介し、NCSを RNase 処理することで大部分が抑制された。 RNase はRNA を分解する酵素であり、Rnase 処理によって炎症反応が抑制されることからNCSに含まれる内因性起炎物質の大部分は核酸(RNA)であることが明らかになった。
 興味深いことに、NCS刺激を受けた歯肉上皮細胞はP. gingivalisの LPSや腺毛タンパクを認識するTLR 2の発現を誘導した。
 NCS刺激後にP. gingivalis のLPSで歯肉上皮細胞を追加刺激するとIL-6、IL-8の産生量はさらに増大した。すなわち感染、ストレス、障害など何らかの原因で壊死した細胞が内因性核酸物質を放出することで、同壊死細胞周囲の歯肉上皮細胞に発現するTLR 3を刺激し、その刺激によりTLR 2発現が上昇して P. gingivalis LPS誘導性炎症性サイトカインの産生増加、ひいては歯周炎の発症や増悪につながる可能性が示唆された。
 タバコ煙による刺激と、凍結融解による細胞壊死とそれに伴うDAMPsの放出が必ずしも同じ研究結果を導くか否かは今後の検討課題である。
 しかし、タバコ煙による歯肉上皮細胞の壊死も歯周炎発症の一因となりうるのではないかと我々は考えている。




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