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2018年5月22日 (火)

裁量労働制について ④

続き:
 「ねつ造データ」の追及ののなかで野党がたびたび言及したのは、労働政策研究・研修機構(JILPT)による裁量労働制の労働者調査結果だった。それによれば専門業務型も企業業務型も、裁量労働制の下で働く労働者は、通常の労働時間制の下で働く労働者よりも、長時間労働者の割合が高く、実労働時間の平均を見ても長い結果だった。
 この調査結果の内、労働時間に関する部分が、法改正に向けた審議を行う労働政策審議会労働条件分科会に、あえて提供されなかった疑いが濃いのだが、その点を詳述する紙面のスペースが無い。
 ともかく、このJILPTの調査結果をもとに野党が追及を深めていくと、安倍首相はJILPT調査を逆に利用し、JILPT調査では裁量労働制のもとで働く労働者の満足度は高いという結果に積極的に言及し始め、それを裁量労働制の拡大に向けた論拠であるかのように答弁し始めた。
 「データ問題」でかなり追い込まれた状況に陥っていた2018/02/26、の衆議院予算委員会では、希望の党の玉木雄一郎議員の質疑に対し、安倍首相は企画業務型裁量労働制の労働者では「やや満足」も合せれば8割の方が満足しているという結果を示し、「自由な働き方をしたいという方がおられるのは事実」「そういう要請もあります。そういう要請にこたえていくことも大切」「そういう要請があるということは、これ、厳然たる事実でございまして」と答弁していた。
 しかしこの答弁は、不適切である。まず、この調査は設計上、満足度が高くなっても不思議ではないものだった。調査は企画業務型裁量労働制の決議届または定期報告がある事業場に対し、企画業務型の労働者2名に人事担当者から調査票を配布して、労働者本人が回答して直接郵送で返信する形で実施されていた。
 回収率は労働者調査全体で2割弱だ、問題を抱えた事業場はこの回答に協力無し、の可能性が大である。また、配布対象者2名を人事担当者が選ぶ際にも、長時間労働になっている者や不満を抱えている者では無い者を選んで調査票が渡されていた可能性があった。
 従って、「満足」36.4%、「やや満足」41.5%を合わせて8割が満足しているといっても、回答者の偏りを考える必要がある。
 また不満の者の理由を無視するわけにはいかない。「やや不満」15.5%「不満」4.6%と、合せて2割が不満を抱いているが、不満な点(複数回答)は、「労働時間(在社時間)がながい」(45.1%)、「業務量が過大」(40.0%)、「給与が低い」(31.1%)と、まさに裁量労働制が抱える構造的な問題が浮き彫りになっている。
 過大な業務量を課されるのに、「みなし労働時間」分だけの給与で長時間労働を強いられる、そのことに対する不満なのだ。
 このJILPT調査では、裁量労働制に対する意見・要望も自由記述で尋ねている。結果は、調査報告書には無収録だが、立憲民主党の長妻昭議員がJILPTに対しその自由記述のデータの提出を求め、現在、厚労省抽出分の企画業務型裁量労働制の労働者の自由記述が提出されている。
 それによれば、満足度が低い者(「やや不満」、「不満」、および満足度無回答の者)では、「会社側が残業代を合法的に抑制するため単なるツールとなっている」「残業代が抑制されているだけ」「会社が違法残業を合法化する手段として導入しているように感じる」など、残業代の抑制に裁量労働制が使われていることへの不満が強く表れている。
 「年収が減った上に、会社から求められる要求の量、レベルが上がった」「業務量が多くなり、労働時間も増え、裁量の範囲を超えている」など、業務量がさらに増えたとする記述も沢山見られる。
 「定額働かせ放題」なることがもたらした弊害だ。「みなし残業20時間/月に対し、実際の裁量労働制対象社員の直近の平均残業は月に40時間を超えている」という声がある。「現行制度は残業代の抑制に資するのみであり、労働者にとってのメリットは皆無と言って良い」という声は、無視できないものであろう。
 また、「満足」と回答した者の自由記述にも、「個人への業務の割り振りがポイントになる(過重労働について)。その意味でも上司の管理能力の向上が必須と思う」などの書き込みみられ、業務型の調節が適切に出来てはじめて機能する仕組みであることがうかがわれる。
 適切に運用されているところでは満足できる働き方である場合もあるのだろうが、「定額働かせ放題」への誘因が強く働く仕組みである為、労働組合が強力に関与できるような条件がなければ、適正な運用を続けていくことは構造的に困難な仕組みだろう。
 安倍首相は答弁で、不満な者が2割を占めることに対し、健康確保措置を取ることと、みなし労働時間と実労働時間の乖離に対する指導できる根拠規定を設けることで対処できるかのように答弁しているが、健康確保措置は選択制で健康診断の実施でもよいとされているものだ。指導についても、適正な労働条件の確保のための指針を定め、裁量労働制に関する決議を行う各事業場の労使委員会の委員に対して必要な助言指導を行えるための根拠規定を新たに設けるとしているに過ぎず、その指導助言に従わなくても何の罰則も無い。
 さらに、現在、企画業務型裁量労働制が適用されている者の満足度が高いとしても、これから拡大する対象者がそれを望んでいることを意味するわけではないし、その対象者の満足度が高くなることが保証されているわけでもないのである。
 先に紹介した答弁で安倍首相は、満足度が高いというアンケート結果を示して、「そういう要請があるということは、これ、厳然たる事実でございまして」と語っているが、これは全く的外れな答弁だ。拡大が予定されていた対象者は、裁量のある働き方がより困難な者である 前記の自由記述に見たような不満が、対象拡大した場合にはさらに顕在化する可能性は高い。
 したがって、現在の適用対象者の満足度がアンケート結果では高いとしても、そのことは対象を拡大すべき論拠にはならない。





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