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2018年5月27日 (日)

どうなる!「働き方改革」 ②

続き:
 労働基準法改正案の議論を複雑にしているのが、高度プロフェッショナル制度(高プロ)の導入と、裁量労働制の対象業務の拡大が盛り込まれた点にある。いずれも今の労働時間規制が大きく緩和される制度だ。
 高プロは専門職で年収が高い人を労働時間規制から外す制度のこと。2007年に第1次安倍政権が導入を断念したホワイトカラーエグゼンプションに似た制度だ。
 裁量労働制は実際に働いた時間ではなく、あらかじめ労使で決めた時間だけ働いたとみなす制度の事。例えば、労使で1日9時間と決めたとしよう。その場合、実際に10時間働いたとしても、法定時間を超える時間外労働は1時間とされ、1時間分の割増賃金しか支払われない。
 裁量労働制には専門業務型と企画業務型という2つのタイプがある。専門業務型は新聞記者や弁護士などを対象にしており、企画業務型は経営の中枢で企画や調査の仕事にあたる人々を対象にしている。今回の改正案では、企画業務型の対象業務を広げる内容が入る予定だった。
 2つの規制緩和は、もともと2015年4月に閣議決定された労働基準法改正案に盛り込まれていた。この時の改正案には、そのほか、時間外労働が月60時間を超えた場合の割増率を中小企業についても大企業並みにすることや、年次有給休暇を取得させることを企業に義務付けることなどが含まれていた。
 2015年改正案は国会に提出されたものの、2年以上審議されずに店晒しにになったいた。高プロも裁量労働制拡大に野党の反発が強く、審議の難航が予想された上、その後、働き方改革の議論がスタートしたことなどが背景にある。連合も2つの規制緩和には反対姿勢だった。
 高プロも裁量労働制も実現会議では主要な議題になったことはないが、経済界の強い要請を反映する形で実行計画では「早期成立をはかる」とされた。厚労省はその後、実行計画に基づく改正案と2015年改正案を一本化する方針を打ち出し、労政審では労働側委員の反対を押し切った。
 2017年秋の衆議院解散で2015年改正案自体は廃案となっているが、内容はそのまま働き方改革関連法案に一本化されることになった。
 野党は、高プロも裁量労働制の拡大も長時間労働に繋がるとして反対する姿勢をとっていた。通常国会では、関連法案の閣議決定前から予算委員会で議論の対象になった。
 議論の流れを大きく変えたのが、裁量労働制を巡るデータ問題だ。
 発端は、1月29日の衆議院予算委員会。立憲民主党の長妻昭議員と安倍首相のやりとりだ。
 この日、長妻議員は裁量労働制の危険性を指摘し、「岩盤規制にドリルで穴を空けるという考え方を改めて頂きたい」と安倍首相に迫った。安倍首相は「岩盤規制に穴を空けるには内閣総理大臣が先頭に立たなければならない」と応じ、裁量労働制について「厚労省の調査によれば、裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べれば、一般労働者よりも短いというデータもある」と続けた。
 安倍首相が言及した、裁量労働制の方が労働時間は短くなるという根拠は何か。その詳細が明らかになったのは、1月31日の参議院予算委員会における加藤勝信厚労相の答弁だ。
 加藤厚労相は、データの根拠として、「平成25年度労働時間等総合実態調査」を上げ、平均的な一般労働者の労働時間が9時間37分であるのに対し、企画業務型裁量労働制で働く労働者の労働時間が9時間16分と短いことを紹介した。
 総合実態調査は2013年10月の労政審労働条件分科会で報告されている。ちょうど裁量労働制の拡大が議論され始めた時期だ。
 この問題に早くから注目し、問題提起をしたのが上西充子・法政大学キャリアデザイン学部教授だ。
 上西教授は総合実態調査を確認し、安倍首相や加藤厚労相が示した一般労働者と企画業務型裁量労働制のデータが、「平均的な者」のみを取り出して比較したことである事を指摘した。「平均的な者」とは、多くの人が属する層のことを示しており、全体の平均値では無かった。
 そもそも総合実態調査には、一般労働者のデータは存在しなかった。― 9時間37分という数字の根拠が明らかになったのは、2月9日の衆議院予算委員会だ。加藤厚労相一日の時間外労働の平均値である1時間37分に法定労働時間の8時間を加算したものであると説明した。
 裁量労働制と計算方法が異なる上、法定の8時間を下回る時間しか働いていない労働者を含む可能性がある事が明白になった。
 その後もデータに異常値がある事が次々に明らかになり、調査の信用性が揺らぐ。
 加藤厚労相の答弁も徐々に不安定になり、データの精査を約束する事態に追い込まれた。2月14日には安倍首相が1月29日の答弁撤回して、謝罪。安倍首相が国会で発言撤回するのは極めて異例の事だ。
 それでも問題は収束しない。
 厚労省は2月19日、衆議院予算委員会の理事会に実態調査を精査した結果を報告した。そこでは、一般労働者には「最長」の時間外労働を尋ねる一方、裁量労働制の適用労働者には単に労働時間を尋ねていたことが明白となった。
 質問の仕方自体が、一般の労働者の労働時間が長くなる聞き出し方をしていた。これでは、初めから比較すること自体不適切だったのだ。
 調査の杜撰さが次々と明らかになり、裁量労働制を巡る議論は収拾がつかない状況になった。メディアの世論調査でも裁量労働制の拡大に懸念を示すデータが出るようになる。
 こうした状況を受けて、安倍首相は2月28日夜、与党幹部と会談して、働き方改革関連法案から裁量労働制の拡大に関する部分を削除することを決定。
 3月1日の未明には、この方針を記者団に表明している。



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