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2018年5月23日 (水)

裁量労働制について ⑤

続き:
 最後に、濫用へに対処が出来るのか、という問題を取り上げる。2017/12/25、に厚労省東京労働局が野村不動産に対し、裁量労働制の違法適用があったとして特別指導を行った事が、大々的に報道された。
 朝日新聞の2017/12/27、の記事によれば、裁量労働制の適用が認められないマンションの個人向け営業等の業務に就く社員に対し、全社的に制度を適用していたという。全社員1900人のうち、課長代理クラスと課長クラスの社員計約600人に裁量労働制を適用していた。
 この事例は野党によって、濫用の事例として言及されたが、答弁では厳正な対処を行った実績であるかのように答弁していた。
 たとえば2018/01/29、の衆議院予算委員会では、希望の党の大西健介議員に対し、安倍首相は野村不動産への特別指導の実施とその公表に言及したうえで、「政府としては、制度が適正に運用されるよう、今後とも指導を徹底してまいります」と答弁している。
 しかし2018/03/04、の朝日新聞は、この特別指導の背後に裁量労働制を違法適用された男性社員の過労自殺と労災認定があった事を報道している。新宿労働基準監督署が把握した男性の残業時間は、1ヵ月で180時間超にも及んだという。労災認定の日は野村不動産の特別指導の翌日の2017/12/26、であり、特別指導を行った事を厚労省東京労働局が記者発表をしたのと同日のことであったことも判明。
 この報道を受けて、現在、国会で野党が追及しているが、政府は過労自殺とその労災認定について、個人情報にかかわることとしてその事実を認める事を拒否しているのだ。しかし、この特別指導には不可解な点が多い。―― <詳しくは筆者(上西充子 ヤフー記事「野村不動産における裁量労働制の違法適用に対する特別指導―隠されていた労災認定と、特別指導の不透明さ」(2018/03/22)を参照。>
 特別指導の名のもとに労働局長が社長を呼び出し指導したのは この例が最初であり、特別指導には根拠規定が無いことも明白になった。特別指導の前に加藤大臣には3回の報告がされているのだが、特別指導そのものは、答弁書によれば決裁書も無く行われたというのだ。
 世間に知られていなかった野村不動産における裁量労働制の濫用に対し、わざわざ企業名を公表して異例の特別指導を行い、その結果を記者発表して報道を大々的にさせたのは何故か。
 もし遺族が労災認定の記者会見を行えば、電通の高橋まつりさんの労災認定の記者発表が長時間労働への社会的な問題意識を大きく高めたように、裁量労働制の濫用が社会問題として注目され、――― 裁量労働制を拡大しようとする政府方針への大きな逆風になる。
 だから先手を打って異例の特別指導を行ったのではないか、という疑いがある。
 過労死が起きて遺族が労災を申請したのちに初めて裁量労働制の濫用が明らかになったのであれば、これは裁量労働制の濫用に適切に指導できた事例ではなく、取り返しのつかない事態を招いて初めて問題が表面化した事例と見なければならない。
 企画業務型裁量労働制は対象業務の範囲が曖昧であるし、労働時間管理が疎かになりがちであるため、労働者が濫用を問題にすることは、通常の労働時間管理の下での残業代の不払いの場合以上に難しいだろう。
 今でもこうやって大手有名企業で大規模に濫用が行われており、それが過労死という悲劇を経なければ表面化してこなかった事を考えれば、大幅な対象拡大が行われたときに適切な指導を期待するのは無理だ。
 労働基準監督官の大幅な増員が計画されているわけでも無い。濫用には適切に指導を出来るかのようにした国会答弁は、その論拠が崩れていると言わざるをえない。
 以下、企画業務型裁量労働制の拡大をめざした安倍政権の論拠がいかに策略に満ちたもの、根拠が脆弱なものであるかを見てきた。働き方改革が働く人の視点に立ったものでは無い事は、裁量労働制の拡大を強行しようとした国会審議から明らかになってきている。高度プロフェッショナル制度はさらに、それを正当化する論拠を欠くものだ。一括法案を数の力(与党だけ)で強行採決することは、認められない。
 






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