命を作る科学技術の制御という課題 ④
続き:
欧米の科学者らの動きについて、日本の生命倫理学者による鋭い考察が、2017年初頭に発表されている。香川知晶氏の「ヒト生殖系列細胞の遺伝子改変と『尊厳』概念」と題された論文である。香川の論考にそって、まずは中国中山大学のヒト受精卵へのゲノム編集研究について紹介し、続いてそれを受けての海外の動きについて見ていこう。
第1世代のゲノム編集技術、ZFN が報告されたのは1996年だが、CRISPR-Cas 9 によるゲノム編集技術が報告されたのは2012年である。これはゲノム編集技術の第3世代と言われる。第1世代、第2世代と異なり、特別な知識や技能を必要とせず、しかも安価に使用できる。このためまずは動植物に対して、あるいはヒト幹細胞に対して用いられ、爆発的な勢いで世界の生命科学者の間で広がっている。そして、ヒト受精胚に対する使用もあっという間になされてしまった。
中山大学の研究では、体外受精で得られた受精卵のうち、たとえ子宮に入れても受胎することはないはずのものが用いられた。単一の卵子に複数の精子が受精したもので、胚盤胞の形成まで進むこともあるが、正常な発達はしないとされる。受精卵にゲノム編集を行なう研究を進めたのは、遺伝病であるβサラセミアの治療の可能性を探るためとされる。サラセミアというのは、ヘモグロビンを構成するグロビン遺伝子の異常により貧血を起こす病気でαサラセミアとβサラセミアの2種がある。
研究は病因となるグロビン遺伝子をターゲットとしてゲノム編集を行ない、まずは病因の遺伝子を切断し、次いで正常な遺伝子をそこに挿入するというものだ。86個の受精卵にゲノム編集を行ない、病因遺伝子の切断まで行なったものが28個、病気を起こさない遺伝子の挿入に成功したものが4個だった。また、関係のない他の遺伝子まで切断してしまう「オフターゲット」も多く、修復された細胞と修復されない細胞が混在する「モザイク」も認められた。
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