ゲノム・オミックスと歯科
小玉 剛(公益社団法人日本歯科医師会常務理事)さんの「M ESSAGE」をコピー・ペーする。
ホモ・サピエンスは20万年前に東アフリカに出現し、長い年月の間にそれぞれの集団の中で遺伝子を変化させて環境に適応した。2003年のヒトゲノム計画完了以降、急速に進化した DNA 解読技術は、数万年前の人類のゲノムも抽出・分析できるようになった。
この痕跡が、歯も骨も発見されていない未知の人類の歴史が、今を生きる我々の遺伝子に刻まれているという。
「ゲノムが語る人類全史(アダム・ラザフォード著。垂水雄二訳、文芸春秋、2017年)」は、ゲノム・オミックスを知る上で興味深い科学書であり歴史書である。
人のゲノム(遺伝子の全体)は30億個の塩基対が並んでおり、これまで生きた1070億人の人類の誰とも異なる。
この解読の結果、DNA 配列の個人差は分かったが、形質や病気との紐づけは、体質や健康状態、生活環境との突合が必要である。
細胞内では、遺伝子が設計図となり特定の部位が転写されて mRNA が作られる。これからタンパク質が生成され、細胞が代謝して毛髪の色や身長などの形質を表現する。
それぞれを分子レベルで区切った一定の集合をオーム(総体)、それらをまとめてオミックスといい、ネットワーク制御された生命活動を反映する。更に生来のゲノム情報とオミックス情報の組み合わせを、ゲノム・オミックス(網羅的分子)情報という。
これと従来の医療情報を統合したビッグデータを、AI による学習アルゴリズムにより処理すると、DNA配列の個人差から病気の原因となる箇所がどこか、その規則性や法則性が解析される。
将来は、「病気」が症状となる前に介入して防ぐ、いわゆる「先制医療」が可能となるであろう。
2018年3月、東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)と国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AM ED )は、長期の大規模(三世代コホート)調査の一環として、2013年~2017年に総計33037人の口腔内検査を行い、94.1%に問題ありと報告した。
これらを岩手、宮城両県の約15万人のゲノム・オミックス情報等と突合すると将来、その人の歯科口腔疾患リスク、咬合状態や顎骨の成長、8020達成の可能性はの予測だけでなく、「先制歯科医療」の実現も夢ではなかろう。
この5月、国の「次世代医療基盤法」が施行され、情報の悪用や漏洩を防ぐためのデータ収集や管理、提供体制が整備されつつある。
これから全身と口腔との関連についても、より多くのエビデンスがもたらされるだろう。さらに全身と口腔の疾患を区別なく、同時に予防し治療する新たなパラダイムが開かれるかもしれない。健やかなる人生100年時代の達成へ向けて。
と。
|
||
(こう |
« 命を作る科学技術の制御という課題 ⑩ | トップページ | 「口腔機能低下症」 ① »
「日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事
- Science 脱分化脂肪細胞の臨床応用化――取り組み ①(2019.02.16)
- Science 脱分化脂肪細胞の臨床応用化――取り組み ②(2019.02.17)
- ゲノム編集した子の誕生報道 ⑤(2019.02.15)
- ゲノム編集した子の誕生報道 ④(2019.02.14)
- ゲノム編集した子の誕生報道 ③(2019.02.13)
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/413185/73934897
この記事へのトラックバック一覧です: ゲノム・オミックスと歯科: