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2018年9月 9日 (日)

Clinical 病因論・時間軸~→歯周治療 ③

続き:
2. 規格性のある資料採取とデータ管理
 地域の歯科医院・クリニックは患者と長くお付き合いすることになる。そのとき規格化された資料を採取し、データ管理しておくことが非常に役立つ。自院の来院患者の歯周炎の罹患傾向を知ることも役立つし、個々の患者の経過を長い時間軸で見ることにより、歯周治療の有効性、リスクファクターの重み付けなどできる。
 今から30年前後、メインテナンスしている歯周炎の患者を見て見ると、1例は見るからに歯肉の炎症の強い歯周炎で、プラークコントロールも不良で中程度の歯周炎だった。当時は成人性歯周炎と分類されていたが現在は慢性歯周炎とされる。
 一方、2例目は対照的に肉眼的に炎症は見られないが、部分的には重度に進行した歯周炎だった。当時は急速進行性歯周炎と呼ばれていたが、現在は侵襲性歯周炎と分類されている。幸いなことに初診時に抜去した歯を除けば、27年間喪失歯はなく経過良好だ。
 このように経時的に検討できるのも規格化された資料を残しながら臨床を続けてきたからだ。
 診査としては、問診、口腔内写真、デンタルX線10枚法、歯周チャートで、問診としては、喫煙歴、糖尿病の有無、服薬のチェックが欠かせない。
 これらを、筆者(岡)は、画像管理とデータ検索ができるウィテリア Pro (日本ヘルスケア歯科学会販売)というデータベースを使い管理している。
 診査資料は経時的に比較することによりさらに価値が増す。1回だけの診査では判断が下しにくい歯周炎である。比較するためには規格化が重要になる。
 歯周炎は感染症だが生活習慣、ホームケア、リスクファクター、罹病性などが複雑に関わって発症し進行する。そこで臨床現場では、多数の要因がどのように関わり合っていてどのように指導や治療を進めていくのか、もつれた糸を解きほぐすようにして判断していく必要がある。咬合が得意な臨床歯科医は咬合から理解しようと試みるし、ブラッシングや食事に興味のある臨床家はその方面から考えようとする。治癒に興味のある人は組織の再生から歯周治療を見る。それぞれ大切だが、規格化された診査資料を蓄積し、長期に比較することにより、先入観なく歯周炎を見ることができるのが規格化する最大のメリットである。
3. 病因論と歯周治療の考え方の変遷
◆ 1950年代 (歯石の時代)
 歯石が原因と考えられた時代で、治療としては歯槽骨外科手術が行われていた。この時代以前は進行した歯周病の治療は抜歯であった。確かに多くの歯がこの処置で救われたが、骨を整形切除したから助かったのではなく、根面のスケーリング、骨欠損内の感染性不良肉芽組織除去が奏功したのだと現在では考えられている。
◆ 1960年代 (非特異的プラーク仮説の時代)
 この時代になり、プラークが歯肉炎を起こすことが示された。歯石ではなく、プラークが原因でありプラークの量が重要と考えられた。しかし2例目のようにプラークの少ない歯肉炎もあることから、非特異的プラーク仮説だけでは説明がつかない。
◆ 1970年代 (特異的プラーク仮説の時代)
 この時代に嫌気培養技術が進歩し、口腔内からさまざまな偏性嫌気性菌が検出された。その結果、歯周病原性のある細菌が検出され、プラークの量では無く質が問題と考えられるようになった。特定の細菌によって歯周炎が発症すると考えられ、コレラやチフスのように外因性細菌による感染が疑われた。そのため、通常の治療に応答の悪い歯周炎に抗菌剤の使用が試みられることもあった。しかし、この方法は主流になることなく、21 c,になり外因性感染は否定されてきている。
◆ 1980年代 (宿主と細菌の時代)
 歯周炎の発症と進行には、特定の細菌が大きく関与するがこの時代には宿主の免疫応答が重要な役割を演じるということが分かってきた。組織破壊経路の解明が進み、さまざまな全身疾患に関連した歯周炎も報告された。臨床面では、根面を平滑にするルートプレーニングという言葉が使われるようになり、再生療法が発表された時代である。
◆ 1990年代 (宿主と疾患修飾因子の時代)
 病因論は進歩し、細菌の攻撃、宿主制御、組織破壊、リスクファクターの関係がより明確になってきた。特に喫煙が歯周炎の最大のリスクファクターであることが示された。同じように処置をしても経過良好のものと、どんどん悪くなっていくものがあることが以前から臨床研究で示されていたが、その大きな原因の一つが喫煙であることが分かった。
◆ 2000年以降 (バイオフィルムによる内因性感染の時代)
 歯周病原細菌は一般的な感染症とは異なり、歯根表面に付着した凝集菌塊・デンタルバイオフィルムとして存在するために、免疫系の働きでこれらを完全に駆逐することは困難であることが示された。
 さらに、これまで歯周病原細菌とされてきたred complex (Porphyromonas gingivalis, Tannerella forsythia, Treponema denticola) を常在菌としてとらえる考え方も出てきた。私たちの多くは歯周病原細菌を持っているが、必ずしも歯周炎を発症するわけではない。
 また、個々の病原細菌だけでなく、ヒトのもつ微生物全体(マイクロバイオーム)を視野に入れた考え方も重要になってきている。
 う蝕や歯周炎は感染症だがコッホの法則が当てはまるわけでは無い。生活習慣やホームケア、罹病性、リスクファクターが要因となって発症するために臨床判断は容易ではない。局所から感染を軽減除去し続けることが基本であり根本的なことだ。
 このような病因論の進歩から「歯周治療=細菌の攻撃と生体防御の均衡の回復と維持」と考えるのが臨床的に理解し易い。
 




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