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2018年12月17日 (月)

Clinical 歯科医師のがん対応能力の向上 ②

続き:
1. 日本における口腔癌の現状
1) 口腔癌は年々増加している
 我が国では、現在のところ口腔癌を希少がんとして位置づけている。国立がんセンターでは、主要ながんの現状を把握するため、がん情報サービスのホームページを設置し登録・統計データを一般公開している。そこでは、我が国における主要ながんの罹患率、死亡率、生存率を閲覧することができる。
 我が国では、統計上「口腔がん」と「咽頭がん」を併せて登録しているため、口腔癌単独のデータでは示されていない。1975~2013年までの口腔・咽頭がんの罹患率(全国推計値)がある。この結果を見ると、男性、女性ともに人口10万人当たりの罹患患者数が増加傾向にある。(グラフ-略) 。また、1958~2016年迄の口腔・咽頭がんの死亡率の年次推移をみると、男性、女性ともに右肩上がりに増加。この事から口腔・咽頭がんは、「増加傾向にあるがん」で、しかも「死亡率が高いがん」だ。口腔癌は高齢者に多くみられるがんであるため、今後もますます増加すると予想され、早期発見、早期治療の重要性は高まると考えられる。
2) 若年者の口腔癌も増加している
 口腔癌のリスクファクターは喫煙と飲酒だ、同じリスクファクターを持つ下咽頭がんや食道がん、肺がんとの重複がんが多いこと知られている。これは、多くの疫学調査で証明されたことで、このため口腔癌は高齢者や男性に多いがんであると言われてきた。
 しかしその一方で、近年世界中で若年者の口腔癌患者の割合が増加していることが明らかになってきた。イギリスで、世界各国の様々な口腔癌の疫学研究をメタ解析した論文が報告された。その結果、喫煙歴、飲酒歴を持たない40歳未満の若年層の口腔癌患者が増加していることが判明した。
 また、アメリカでの調査においても、18~44歳の白人女性の口腔癌患者が増加していると報告された。
 我が国においても、単施設の調査であるが東京歯科大学千葉病院で、1987~2012年の25年間に治療を行った口腔癌患者758例の初発年齢を分析した」結果、40歳以下の若年者の割合が1%から8%へと有意に上昇していた。(グラフ-略)。
 近年厚労省は、15~40歳未満の思春期 (Adolescents) と、若年成人 (Young adults) を併せた AYA 世代のがん患者の支援体制強化を重点項目の一つに挙げている。喫煙、飲酒との関連性が低い若年者がなぜ口腔癌を発症するのか、今のところはっきりした因果関係を裏付ける報告はない。
 しかし、かかりつけ歯科医としてAYA 世代の患者の口腔管理を行っていく上で、口腔癌を発症する可能性があることを忘れてはならない。若年者でも口腔癌を発症することは決してまれではないことを常に念頭に置いて治療にあたる必要がある。
3) 口腔癌は早期発見が難しいのか
 東京歯科大学口腔がんセンターで、2011~2016年の5年間に受診した口腔癌患者の部位別及び進行度(Stage)別の集計結果がある(グラフ略) 部位別では舌が最多、次いで下顎歯肉、上顎歯肉と続いた。また舌と歯肉だけで82%を占めていた。このことから、過去の報告と同様に舌と歯肉は口腔癌の好発部位であり、特に注意して術者は観察する必要があると考えられた。また Stage 別にみると、Stage Ⅰ、Ⅱの受診者が116例あるのに対し、Stage Ⅲ、Ⅳ の受診者数は165例であった。したがっていまだに基幹病院に受診する口腔癌患者は進行癌の割合が高いということになる。
 口腔癌は肉眼で発見できるがんであり、他の臓器癌と比べ本来特別な機器や検査などを必要とせず発見が可能である。それにもかかわらず、現状において早期癌が数多く発見されていないということになる。
 早期癌と進行癌を部位別に見ると、StageⅠ、Ⅱの早期癌では舌が多いのに対して、StageⅢ、Ⅳの進行癌では舌よりも歯肉の割合が増加していることが分かる。
 この結果で考えられることは、舌癌は自覚症状により早い段階で異常に気付いたり、肉眼的に他の粘膜疾患との鑑別がつきやすいため、比較的早期に発見されやすいことが推察される。
 これに対し、歯肉癌は歯周病との鑑別が困難で自覚症状に乏しく、肉眼だけでは初期の病変に気付かない事が考えられる。
 歯肉を観察するうえで、表面の粗造感、鮮紅色の色調変化、プロービング時の異常出血など、より丁寧に局所の状態を観察する必要がある。
 また、歯周の状況を詳細に検査する立場にある歯科衛生士が、通常と異なる歯肉の微細な異常を発見するスキルを身につけることができれば、早期癌の診断精度が格段に向上する可能性がある。
 歯科医師、歯科衛生士双方による口腔がん検診の対応力向上により、口腔癌の更なる早期発見が期待できる。





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