« Clinical 歯科医師のがん対応能力の向上 ④ | トップページ | 歯科医療人材育成・歯科医療の管理(Ⅰ)―① »

2018年12月20日 (木)

Clinical 歯科医師のがん対応能力の向上 ⑤

続き:
5) ITを活用した「バーチャル検診センター」システムの構築
 口腔がん検診行う最大の目的は、国民の健康に寄与できることにある。地域包括ケアシステムのフレームワークの中で、次世代型の口腔がん検診と新たな病診連携システムを確立することは、これからの歯科治療の需要である高齢者型、すなわち口腔機能の回復に根差した歯科医療の一つの理想形になるかもしれない。
 前にも述べたが、微細な口腔粘膜の変化は臨床的に診断に苦慮することが多い。このため、口腔がん検診を一般歯科診療所だけで担うことは負担が大きい。従来、口腔粘膜病変を発見した際は、地域基幹病院の口腔外科専門医に紹介して確定診断を仰いでいた。
 しかし、そこには患者が紹介状を持ち専門機関に受診するという時間的制約と確定診断までに長い日数がかかっていた。もし、テェアーサイドで撮影した画像や情報がインターネットを介して基幹病院に送信され、短時間で口腔外科専門医のアドバイスが得られるシステムがあれば、より的確で効率の良い口腔がん検診が実施できる。(図-略)
 口腔粘膜疾患は、がんと鑑別が困難なまぎらわしい良性疾患も多く認められるため、口腔外科専門医と垣根なく意見交換ができる環境整備が構築されれば、検診者の業務負担も軽減できる。すなわち、IT環境を用いて一般歯科診療所と基幹病院をつなぐシステムが構築されれば新たな病診連携を築くことが可能になる。
 このような市町村単位におけるネットワークを通じた病診連携の構築や新たな検査法の開発は、地域完結型医療の実現にも合致する。
 現在、東京歯科大学口腔顎顔面外科学講座(主任:柴原孝彦)が中心となり、一般歯科診療室で撮影した画像を、遠隔地からセキュリティを介したインターネット上で閲覧し、専門性の高い口腔外科専門医がコメントを発信して診断補助を行うナビゲーションシステムの開発を進めている。(図-略)
 ITを活用した歯科医療への応用が、口腔がんの診断精度の向上、検診レベルの均てん化につながることが期待される。ただし、このような次世代型口腔がん検診を全国規模で実現するためには、行政や企業、あるいは学術団体の賛同が必要不可欠である。超高齢社会を迎えた我が国において、口腔がん検診は将来歯科医療が果たすべき重要な業務になると期待されるため、関係各位の共通認識が強く望まれる。
 ~歯科医師はがん対応能力の向上を図るべきである~
 口腔がん検診は、口腔粘膜全般を広く歯科医師がチェックするシステムである。当然口腔がん検診が定着すれば、良性悪性を問わず歯科医師による口腔粘膜疾患の診断能力は格段に高まる。さらに歯科医師は、口腔癌の基本知識を修得するだけでなく、口腔癌を通して全身のがんについても理解を深めることができる。
 近年、がん患者における周術期口腔機能管理の重要性が認識され、医科から一般歯科医師に依頼される機会が増えている。がん患者が増加し続けている我が国では、各臓器がんの分子生物学的特性が明らかになるとともに治療の多様化が進んでいる。
 例えば、がん細胞の増殖や転移に関わる特定の分子を阻害する分子標的薬ががん治療に導入されている。さらに、がん化学療法や放射線療法が外来通院で行われるようになり、日常生活を送りながら治療を受けている患者が増加している。
 現在1年間にがんに罹患する患者数は約100万人、治療中のがん患者総数は約150万人、完治したがん経験者を合せると我が国のがんサバイバーは500万人以上と推定される。
 がん化学療法や放射線療法を行うと、高率に口腔粘膜炎を発生することが知られている。また、治療中に免疫機能が低下するとカンジダ症や単純ヘルペス、帯状疱疹といった口腔粘膜疾患が発症する。
 さらにドライマウスや味覚障害がみられることもあり、今後一般歯科診療所においてこれらの口腔粘膜疾患の診断や治療の機会が増えてくることが予想される。
 日本歯科医師会は、がんの基本的知識を備えた歯科医師の人材育成を目的として、国立がん研究センターとともに全国共通テキストを用いた「全国共通がん医科歯科連携講習会」を2013年より開始した。現在、がん診療連携登録歯科医のさらなる増加を目指している。
 今後歯科治療を必要とするがん患者に対し、安心して歯科治療を提供できる体制作りが必要となるため、このような取り組みはますます重要になる。
 口腔癌の早期発見とがん患者の口腔機能管理は、一見別の話題に思われるかもしれないが、がんという疾病構造の理解、口腔粘膜疾患を鑑別するという点で共通の知識が必要であり、これらを両軸として均てん化を進めていくことで歯科医師のがん対応能力が向上すると野村は期待している。





« Clinical 歯科医師のがん対応能力の向上 ④ | トップページ | 歯科医療人材育成・歯科医療の管理(Ⅰ)―① »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: Clinical 歯科医師のがん対応能力の向上 ⑤:

« Clinical 歯科医師のがん対応能力の向上 ④ | トップページ | 歯科医療人材育成・歯科医療の管理(Ⅰ)―① »