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2018年12月 5日 (水)

Science 口腔潜在的悪性疾患→概念、口腔がんの予防 ⑥

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6) がん化学予防 (Cancer chemoprevention)
 Petoが1981年Natureに、「がんのリスクは血清中のレチノール(ビタミンA)レベルとβカロテン摂取量に反比例する」と報告して以来、フィトケミカル(植物性化学物質)が脚光を浴びて、さまざまな物質を用いたがん化学予防介入が行なわれてきた。
 一方で、βカロテンの推奨量以上の長期投与レジメンで有害事象(肺がん)の発症が増加したことは有名である。
(1)-抗酸化剤 (1986年~)
  口腔白板症は、直視下で観察し易く、組織試料の採取も容易なため、がんリスクと治療効果に対する分子生物学的マーカーの研究にとして優れたモデルとして化学予防の研究では早くから化学予防の対象疾患とされてきた。
  米国のMDアンダーソンがんセンターのグループなどは早くからこれに着目して、抗酸化剤であるレチノイド、カロテノイド(βカロテン、リコピン、βクリプトキサンチン等)を中心として臨床試験を進めてきた。
  抗酸化剤とは、いわば体のサビ、老化のもととなる活性酸素を分解してくれる物質で、がん予防に効果があるといわれている。実際の臨床研究ではRCTによる検証が必須であり、治療の一次アウトカムは病変の縮小、二次アウトカムはがん化学予防だ。
  治療効果については、臨床的な病変の縮小率と病理組織型に加え、LOH、p53、cyclynD1、EGFR、Retinoid receptors、DNA content、proliferation antigen (PCNA、Ki67) などさまざまなバイオマーカーが用いられてきた。
  RCTでは上皮性異形成の程度で層別化割り付けを行うのが一般的で、介入群(治療群)と、非介入群(非治療群)もしくはプラセボ群に分けられ、投与は多くが内服による全身投与で、投与期間は3~12か月間で行われてきた。我々も口腔白板症を対象として低容量βカロテン、ビタミンCの1年間投与のRCTを行った経験がある。結果は、病変の縮小率、がん化予防効果について有意差はなく、有害事象もなかった。
  自然食品から摂取した微量栄養素と頭頸部がん発症との関係の関する後ろ向きの研究のメタ解析では、βカロテン、のリスク低減は口腔がんでは46%(95%信頼区間 : 20~63%)で、食物でのカロテノイド摂取は頭頸部がん発症予防効果があるとしている。
  一方、RCTを対象としたさまざまな化学予防剤のメタ解析では、その効果は、14%で、リスク比は1.14(95%信頼区間 : 0.72~1.81)であったと報告しているが、有意差は認められていない。今後、野菜や果物を丸ごと長期間摂取した際の口腔がんの発症を調べる臨床研究を行ってみる必要がある。
(2) シクロオキシナーゼ-2 (COX-2) インヒビター (1997年~)
  COX-2は、炎症巣のほかにがん細胞や、ポリープ等の前がん病変に高濃度に発現することが認められ、1990年代に米国で選択的COX-2阻害薬(NSAIDs) によるがん予防効果について多くの臨床研究が行なわれた。
  口腔領域でも扁平上皮がん、OPMDに対してセレコキシブを用いた実験研究が行なわれた。その後 NIH (米国国立衛生研究所)が臨床試験で重篤な心血管系障害リスクを認めたことから、その後の臨床研究に影響を及ぼした。頭頸部がんに対するメタ解析ではその有効性は認められていない。
(3) 分子標的薬 (2002年~)
  MDアンダーソンがんセンターのグループは、がん抑制遺伝子の機能消失(ヘテロ接合性消失)LOH in 3p and /or 9p を認め、がん化しやすい特徴を有する口腔白板症を対象として、がんの分子標的治療薬である上皮成長因子受容体 (EGFR) 経路を標的とするエルロチニブで、口腔がん未発症生存率をエンドポイントとする研究を行った。
  結果は、3年後の口腔がん未発症生存率から、介入群の治療の便益性は認められなかった。と報告している。同じグループは頭頸部がんの化学予防における問題として、高リスク患者を同定する協力体制が確立されていないこと、非がん患者における長期化学療法の忍容性が低いこと、化学予防の有効性を示すバイオマーカーの研究が十分でないことを挙げている。
7) 口腔がん予防の今後の展望
 OPMDに対するがん化予防については、がんの初期の生物学的変化を個別にいかに早く、正確に捉えることができるかにかかっており、その意味では今後個別医療が進む領域と思われる。
 がんのリスク軽減のために禁煙支援、食事指導、口腔衛生指導など、歯科医師、歯科衛生士が臨床現場で介入できることは多い。超高齢社会の中、歯科医療界は口腔がんの早期発見、予防に今後一層取り組んでいく必要がある。
  





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