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2019年1月17日 (木)

Clinical その痛みの原因は? ②

続き:
2. 二つのシステムと認知バイアス
 「当該患者の疾病を明らかにし、解決しようとする際の思考過程や内容」は「臨床推論」と定義され、この臨床推論の過程を説明する理論として「二重システム理論」がある。この考え方は病気を診断する際の医療従事者特有のものではなく、ヒトが日常活動を送るのに普段から行っている思考パターンである。
 ヒトが物事を決定するには、すぐに決めることと、よく考えて決めることの二つのシステムがあり、各々を直感的思考と分析的思考という。分かりやすくいうと感情と理性である。
 ヒトの思考における既定の設定は、前者の直観的思考であり、素早く、自動的で、意識的な努力を必要とせずに物事を決めることができる。一方、後者の分析的思考は意識的に物事を冷静に深く考え、直感的思考の衝動を抑えコントロールしているが、その分、時間や労力が必要となる。
 そのため日常生活では、まず直感的思考で物事を考え多くはそれでことが足りてしまうので、ヒトは直感的思考を信頼する傾向にある。
 しかし直感的思考だけに頼ると判断ミスが起こりやすくなり、合理的な推論からかけ離れたミスをしてしまうおとがある。その原因として注目されているのが「認知バイアス」だ。これはヒトが物事を判断するときに周囲の影響を受けたり、自分の信念や希望を優先し無意識のうちに事実を歪めて捉えてしまう「根拠のない偏って考え方」である。
 自分に都合の悪い情報は無視したり、変化するのを避けて今のままでいいと考えがちになったりするなど、認知バイアスは非常に多くの種類があり、ヒトの行動はたいてい認知バイアスの影響を受けているといえる。
 つまり日常臨床における意思決定にも、なんらかのバイアスがかかっている可能性は否めない。特に臨床での診断エラーの多くは直感的思考による診断の途中で病名が一度想起されると、以降の作業をやめてしまう早期閉鎖が起こり分析的思考が行なわれないことなど、時間的な制約などから直感的思考に頼った診断を下してしまう傾向が高い。
 しかし直感的思考は認知バイアスの影響を受け易く、臨床における思考過程に影響を及ぼす主要な認知バイアスについて、群星沖縄臨床研修センター長徳田安春先生は以下の6つを挙げている。
①アバイラビリティ・バイアス(有効性バイアス)
 記憶から呼び出しやすい、もしくは手に入れやすい情報を基に意思決定する。講習会や文献で学んだことに引きずられてしまい、目の前の症例と簡単に結び付けて考えてしまうこと。
②オーバーコンフィデンス・バイアス(過信)
 自分自身に対して自信過剰になったり、院長や上級医の意見や指示に対し盲目的に従ってしまうこと。
③アンカーリング・バイアス(投錨効果)
 初期に収集した情報がアンカーとなり、後からの情報を冷静に判断できない。最初に思い付いた仮説・診断に固執してしまうこと。
④コンファーメーション・バイアス(確証バイアス)
 自分の想定した診断に都合の良い情報だけを集め、他は無視してしまう。自分の考えを否定するような根拠より支持する確証的な根拠を探してしまうこと。
⑤ハッスル・バイアス
 自分が最も楽に処理できる安易な方向の診断をしてしまう。無意識のうちに面倒なことを避けたいと思う心理が働いてしまうこと。
⑥ルール・バイアス
 通常は正しいが絶対的に正しいわけではない医学的ルールや、エビデンスが立証されていたり有名な教科書に載っていたルールに対して、それがすべてではないことを理解はしていても、ついそのルールに従ってしまうこと。
 以上のような認知バイアスは単独で診断に影響を及ぼすこともあるが、臨床では複数のバイアスが絡み合い必要以上に直感的思考における診断が歪められてしまう。
 すなわち直感的思考に頼り分析的思考を行なわない診断はエラーが生じやすい。





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