« EU の事例から ④ | トップページ | EUの事例から ⑤ »

2019年1月21日 (月)

Clinical その痛みの原因は? ④

続き:
● 症例3 34歳、女性
   紹介理由 : 左上小臼歯部位の腫瘤病変の治療
   主   訴 : 左上の歯ぐきの根元を押すと痛い
   現   病   歴: 1年前から左上の奥歯の根元に圧痛を認める。自発性疼痛は認めないため放置していたが、徐々に圧痛が強くなった気がする。紹介元でX線検査にて歯が原因の痛みではないと診断され紹介来院。
   医科的・歯科的既往歴 : 特記事項なし
   診  断 : 左上第一小臼歯フェネストレーション
 症例3でも視覚情報にて病的所見を認めないことによる投錨効果(アンカーリング・バイアス)が働いたと考えられる。特に症例3では、当該部位の歯が単に病的所見を認めないだけでなく、全くの未処置歯いわゆる「健全歯」であったこと、さらに歯髄の生活反応を認めらことは、歯原性歯痛ではないという投錨効果をより頑固なものとする。
 このため歯原性歯痛に関する診査は確証バイアス(コンファーメーション・バイアス)により行われなくなり早期閉鎖となってしまい、診断を確定してしまう。
 フェネストレーションは歯槽骨壁の欠損による歯根尖部歯槽骨の開窓のことで、発現頻度上顎犬歯で約29%、第一大臼歯で約16%、第一小臼歯で約14%とされているが下顎歯にも認める。診断に苦慮する歯原性歯痛の原因の一つで、根管治療後に発現する可能性が高いとの報告もあり、根尖部が歯槽骨の外にあることから歯髄の失活をイメージしやすいが、この症例のように生活歯においてもフェネストレーションは生じる。
 診断は単純X線検査では困難で、医科用CTもしくは歯科用コーンビームCTが必要。
● 症例4 51歳、女性
   紹介理由 : 左下臼歯部の疼痛の精査
   主   訴 : 左下の奥歯が痛い
   現 病 歴: 2ヵ月前に紹介元を受診。その際、スケーリング処置を行った後から左下の奥歯に拍動痛を認めるようになった。抗生剤を処方されるも症状に変化なく経過。その後も痛みが持続するも、歯の痛みでないと診断されて紹介来院。
   医科的・歯科的既往歴 : 特記事項なし
   診   断 : 左下第一大臼歯急性化膿性歯髄炎(部分壊死)
 症例4では、視診にてインレー処置が行われ実質欠損は認めず、X線検査にて病的所見を認めないことによる視覚情報の投錨効果とともに、患者の訴える歯に生活反応を認めたことが歯髄疾患ではない、すなわち歯原性歯痛ではないという考えに対する確証バイアスとなり投錨効果を高めたと考えられる。
 なお症例4では、無麻酔にて切削、露髄を認め、根管治療で近心根管はファイル挿入にて痛みを訴えなかったが、遠心根管からは出血とファイル挿入による痛みを訴えたことにより、歯冠部及び近心根歯髄が壊死した状態である。
 またフェネストレーションにより根部歯髄のみが壊死する場合もある。部分壊死は、壊死していない歯髄が存在するため電気歯髄診断にて生活反応を示し、X線検査にても根尖部に透過像を認めないことから歯髄失活への診断を想起しにくい。
 報告は極めて少ないが、歯冠部から歯髄が壊死している範囲で部分壊死を分類する報告がされ、筆者(内田)も臨床でしばしば遭遇している。





« EU の事例から ④ | トップページ | EUの事例から ⑤ »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: Clinical その痛みの原因は? ④:

« EU の事例から ④ | トップページ | EUの事例から ⑤ »