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2019年1月16日 (水)

EU の事例から ②

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 リーマンショック、ユーロ危機、ヨーロッパへの大量の難民流入やテロ事件、この10年間で欧米諸国を襲った事件は、スマートフォンの一般普及の時期と重なっている。フェイスブックやツイッターが日常的に手元で操作できるようになり、身近なデジタルデバイスやソーシャル・メディアに政治メッセージを送られることは珍しくなくなった。
 単純な言葉でメッセージを大量に拡散させ、瞬時に送ることが出来る。しかもソーシャル・メディアやネットには、偽情報が溢れている。
 ソーシャル・メディアは、人々をつなげ、相互間の理解を深めたのかもしれないが、必ずしも「善」ばかりでないことが、ここ数年、いろいろなケースで判明している。人間の性であるのか、怒りを増長させるような極端な意見や悪いニュースは、クリック数を増幅させる「起爆剤」となっている。
 そして、単純な言葉で複雑な問題の解決方法を訴える「強いリーダー」たちは、デジタル対策チームを組織して、ソーシャル・メディアをプロパガンダの拡散器として利用している。
 イタリアの「同盟」の党首、サルヴィーニ内務大臣は、イタリアの南北独立を主張していた「北部同盟」から、「北部」を削除した「同盟」に党名変更し、反EUおよび反難民を主張するようになってから急激に支持者を増やした。最近は公約としてはEU脱退をとり下げ、EUが加盟国に課している緊縮財政策や安定協定を打破し、EUを内部から改革すると約束している。
 かたや、トランプ大統領の選挙キャンペーン戦略の中心的な役割を担い、短期間のうちに主席戦略官の役職を更迭された「世論操作のマスター」とも呼ばれるスティーブ・バノンは、最近、ブリュッセルに「ザ・ムーブメント」という財団を設立し、ヨーロッパへ進出しようともくろんでいる。バノンはイタリアに次の運動の根拠地をみつけ、サルヴィーニ副首相兼内務大臣と連携して、2019年5月に予定されているEU議会選挙でのポピュリスト勢力の得票率増大を目指し、ヨーロッパをより「右寄り」にすると宣言している。
 「ザ・ムーブメント」という言葉は、ナチスが使った Bewegung (運動)の英語訳で、どの言語にも訳し易い。単純なスローガンに訴えるポピュリズムには、うってつけの言葉だ。プロパガンダや偽ニュースを巧妙に利用し、メディアを統制したしたナチスの手口を模倣しようとするバノンの考えが現れているのであろう。
 バノンが目標とするのは、既存のメディアへの信頼を低下させ、最終的に淘汰することである。ナチス時代に比べ、現代は、ソーシャル・メディアの影響力で、「「メッセージ」はより迅速に、広範囲に伝わるようになった。プロパガンダ、陰謀説や偽ニュースも少数の限られた範囲でシェアされていくうちに、いつのまにかメジャーな情報となり、急拡散される。
 そしてソーシャル・メディアでは、書き込みやシェアに対して、肯定か否定かの二者択一が先行し、感情のおもむくままに白黒が決められがちだ。
 このような状況の中、欧州委員会も無策でいるわけでは無い。EU の「政府」の役割を担うこの欧州委員会は、2015年に「ヘイトスピーチに対する一般政策勧告」を採択し、半年後には、この委員会のガイドラインに従ってヘイトスピーチの書き込みを削除するための合意を、フェイスブック、ツイッター、ユーチューブ(グーグル)などと結んでいる。
 ソーシャル・メディア上のヘイトスピーチに関する書き込みを24時間以内に削除することを促すものだが、罰則も法的拘束力も無い取り決めだった。
 IT 各社の対応はばらばらだったが、2017年6月には、フェイスブックとユーチューブは書き込みの約66%を、ツイッターは37%を削除あるいはブロックした。2018年1月の欧州委員会の発表では、削除率は約70%以上に向上している。
 そしてこの委員会は2019年の EU 議会選挙を半年後に控えた2018年10月に「オンライン偽情報に関する規定」を、フェイスブック、グーグル、ツイッター、モジラなど50社以上の IT 企業やメディア機関と結んだ。
 18ヵ国の選挙には、2016年の、EU 離脱の是非を問うたイギリス国民投票と、アメリカ大統領選も含まれる。EU圏の市民の意識調査を行う「ユーロバロメーター」でも、EU 市民の83%が「偽ニュースは民主主義にとって脅威である」と受け止めている。
 「オンライン偽情報に関する規定」には、ネット上に提示される政治広告を明白にし、ファクトチェカーが事実関係をチェックしやすいようにする、偽情報に対しては企業側が自発的に消去しないかぎり罰則を設ける、などと明記されている。
 しかし、これは法律ではないため民間企業側の協力を得て偽情報へ厳しい目を向けると言う点で、2015年の勧告の延長にすぎないのかもしれない。
 ただ、欧州委員会は「ネット上が無法地帯ではなく、なにを記入してもいいわけではない」というシグナルを世界に発信している。この委員会は約2年の成果を踏まえ、今後、より厳しい姿勢でネットを監視していく方針である。





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