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2019年2月21日 (木)

遺体科学の挑戦 (3) ―①

遠藤秀紀(東京大学総合研究博物館教授)さんは「人間と科学」第296回で述べている。コピーペー:
 遺体科学は、動物の死体を無制限無目的的に収集する。何らコントロールを受けない莫大な死体の集積があってこそ初めて、何千万年何億年という身体の歴史を多方面の見方から語ることができ、説得力のある歴史のストーリーを綴ることができる。
 今日は地球の裏側、南半球に暮らす異形の主を取り上げてみたい。長さ 400mm のまるで海苔巻のような頭、強靭な爪のあるごつい前肢の持ち主、オオアリクイである。
 かって貧歯類という名で呼ばれる一群だった。学問的に理由があって貧歯類という名前は捨てられたが、このグループ名が示す内容は明瞭で、歯をもたない動物なのである。
 長さ 400mm の頭蓋骨には、長い箸のような下顎骨がしっかりと付帯していて、トンネル然とした口腔を両脇から囲っている。異様なまでに長く伸びてしまった顔には、同等に長く伸びた下顎が備わっているのだ。これだけの口の縁に長い距離をもった顎があるのなら、ホオジロザメやティラノサウルスのような鋭い歯が並んでいてもいいものだろうに、歯は一本も存在しない。
 突然だが、話題を巻き戻したいと思う。1972~73年の、場所は上野動物園。高度成長日本の象徴的光景、即ち、田中角栄に周恩来が贈ってきたジャイアントパンダのカンカン、ランランだ。あまりに多くの来園者を迎えた上野動物園は混乱の極みにあった。
 台東区下谷に生まれ育った筆者(遠藤)は、上野動物園を我が庭のように思っていたのだが、あの人ごみだけはまっぴら御免だ。何時間も並んだ挙句2分しか見ることのできない空前絶後の人気者に、興味はない。何時間でも独占できる自分だけの動物が欲しかった。
 それこそオオアリクイだったのだ。
 何百万人もの来場者とその目指す先に居るパンダをよそに、遠藤はオオアリクイに夢中になった。そしてふと気づいた大発見は、この動物が「口を開けない」ということだった。サギやペリカンやら口が長く伸びた動物は他に何種類もいるだろうが、どれも当然口は開く。
 ところがオオアリクイは、まったくもって顎が開かない。舌はチョロチョロ出し入れするのだが、口を少しでも開閉した試しはない。8歳の時の遠藤は大きな画用紙にオオアリクイの絵を描きながら、開かずの口を一日中見つめていた。





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