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2019年2月22日 (金)

遺体科学の挑戦 (3) ―②

続き:
 時を経て、遠藤はオオアリクイを解剖するチャンスを得た。幼少期と異なり理論武装には事欠かないが、それでも目の前の死体が返してくる返事はあまりにも奇妙なものだ。
 オオアリクイの口がろくに開かないのは、ひとつには口の側面が筋肉でふさがれていて、開こうにも開けないからだ。しかし、それを越えて遠藤を悩ませたのは、箸のような下顎骨の「動き」である。
 そもそも口が開かない以上は下顎骨は退化して無くなってしまっても構わない、ともいえる。だが、指先を使って死体の下顎骨に圧力を加えると、下顎骨はくるりと回転する。その回転というのが、他のあらゆる動物が口を開くための回転軸とは90度異なった軸を使って、回転するのである。
 死体に目と指先で謎を問うのが遺体科学だ。
 物言わぬ死体の答えを聴き出すのが解剖というものだ。
 だが時に、死体が語る、悠久の時を抱えた歴史物語に圧倒されることがある。オオアリクイの顎が遠藤の指先に語り始めたのは、まさに身体が隠しもつ壮大深遠なヒストリーだった。
 オオアリクイの頭部の三次元断層像(図 略)。
 死体を破壊せずに動物の下顎骨を可動する範囲内で人為的に動かして、角度を変えながら CT で三次元複構像を得る。生きているときの動物の骨の動きを、死体でシミュレーションするのだ。それが上のオオアリクイの頭部の像だ。
 オオアリクイは、実は立派に顎を「開閉」しているではないか。この動物の顎は、実は左右がバラバラに分かれている。先端部正中で合体せず、左右が一対に分離したままである。そしてその左右に分かれた2つの顎を、筋肉で開閉する。開閉の回転軸は、遠藤の指先で感じた通り、90度傾いている。つまり、オオアリクイの下顎は正面から見て「ハの字」に開くのである。





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