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2019年2月 9日 (土)

Clinical 非歯原性歯痛 パート3 ⑥

続き:
7. 突発性歯痛
 「突発性」とは「原因不明」を意味する医学用語である。歯科でよく見られるのは、起きている間中持続する、じんじん・じわじわと表現される疼痛が特徴の本疾患である。
 耐え難い痛みであることが多いが、摂食時や何かに気を取られているとき、睡眠中には痛みは消失する。有病率は不明だが、稀な疾患ではない。
 平均受診年齢は55歳で、90%が女性である。70%が歯科治療が契機で発症する。正しく診断されるまでに平均4~5年かかっており、患者は痛みの診断を求めて、歯科を始め耳鼻科、内科、脳外科などを転々とする。
● 突発性歯痛の特徴  
 ◍歯または抜歯した後の部位に起こる痛みで、臨床的にも画像上でも器質的な異常
  は全く認められない
 ◍疼痛は一歯に限局するもの、多数歯に同時に起こるもの、顔面痛に拡大など様々
 ◍有病率は高い
 ◍どの年齢にも起こるが、閉経後の女性に多い(子供は除く)、受診年齢55歳(平均)
 ◍大・小臼歯が好発部位(下顎<上顎)
 ◍70%が歯科治療が発症の契機
 ◍正しく診断されるまで平均4~5年
 ◍摂食時には痛みは改善する
 抜髄や抜歯が契機になる事が多いが、最近ではインプラント治療後に発症するものをよく診かける。大規模な咬合再構成など口腔内の感覚が大変化する処置のみならず、ささいな咬合調整、インプラント上部構造体のスクリュー締結などの、非侵襲的な処置を契機に起こることもしばしばある。患者の30~40%はうつ病が不安障害の既往があるという報告も出ている。
 病態生理はいまだ不明であるが、近年の機能的脳画像研究の進歩により、侵害刺激(組織損傷)がなくても、不快な刺激や心理状態などによって、痛みの情報を処理する脳のネットワークが活動し始めることが証明されている。
 そして現在では、原因不明の慢性疼痛は、「非器質性疼痛」または「中枢機能障害性疼痛(central dysfunctional pain)」と呼び、中枢性の疼痛だと認識されるようになっている。
 筆者(井川)も、歯科治療が原因の場合は、治療中の不安や恐怖が痛み関連腦領域を暴走させて慢性疼痛に陥るのではないかと推測する。
 治療は、薬物療法と認知行動療法の併用が推奨されている。薬物療法の第一選択は、下行性疼痛抑制系(痛みを抑える神経)や痛み関連腦領域の興奮を抑制すると考えられている抗うつ薬である。
 抗うつ薬には、三環系抗うつ薬(TCA)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、などがあるが、TCA のアミトリプチリン(トリプタノール)や SNRI が第一選択である。
 アミトリプチリンは、2016年に神経障害性疼痛の治療薬として公知申請が通り、歯科医師でも処方できるようになったが、副作用としての口渇、便秘、頻脈、立ちくらみ、また、突然死をきたす致命的な不整脈が生じることがあり、処方に際しては、専門的なトレーニングを受ける必要がある。
 医師に処方を依頼するという方法もあるが、この疾患の患者は「歯が痛い」と自覚しているため、歯科医師の診察を強く希望する。また、患者の多くに精神疾患の既往があることからも、理想的には、本疾患は歯科医師と精神科医が同席しているリエゾン外来で扱うべきであると考えている。
症例6
  患 者 : 53歳、女性(病悩期間 3年)
  主 訴 : 左上顎臼歯部~上顎全体・側頭部にかけての持続性疼痛
        (VAS 70/100)
 左上下智歯抜歯後、上顎の抜歯窩の痛みが遷延し、時間とともに左顔面全体に拡大した。隣接歯の抜髄、抜去、上顎洞根本術、骨髄掻把を行うも痛みは改善しなかった。アミトリプチリン 50mg/日の服用を開始し、4ヵ月後に疼痛消失。
症例7
  患 者 : 82歳、女性(病悩期間 6か月)
  主 訴 : 左側上顎中切歯の激痛 (VAS 100/100)と極度の体調不良
  X年12月上顎左右にインプラントを計6本埋入した直後より、上記の痛みと口中の違和感、寒気、震え、不眠、極度な体調不良が生じた。1か月後に全部のインプラントを除去したが、症状は改善せず、次第に寝込むことが多くなった。
  アミトリプチリン20mg/日を2週間服用したところ、疼痛は消失した。
  5年後まで経過観察し、再発は無い。



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