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2019年2月15日 (金)

ゲノム編集した子の誕生報道 ⑤

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 もっとも文系色が濃い生命倫理の議論でも、臨床応用の推進に好意的な見解が無いわけではない。2018/12/08~09、京都府立医科大学での日本生命倫理学会の年次大会では、学会企画シンポジウム「ヒト生殖細胞系ゲノム編集をめぐる倫理――その論点と公的議論のあり方」が宗教学者の安藤泰至氏と倫理学者の香川知晶氏の司会の下で行われた。

 生命倫理を専門とする石井哲也氏(北海道大学)、憲法学の建石真公子氏(法政大学)と島薗が報告し、基礎医学と生命倫理学の双方に通じている美馬達哉氏が指定討論者の役を務めた。

 私(島薗)が準備した200枚のレジュメでは足りないほどの人が集まった。この種のシンポジウムとしては異例と言えるほど、メディア関係者も多かった。

 「ゲノム編集を行った子どもの誕生」に歯止めをかけなくてはならないのでないか。そうであるとすれば、どのような根拠でどこで歯止めをかけるのか。そのための合意をどう構成し、どのような制度にするのか。

 今回の中国での「ゲノム編集を行なった子どもの誕生」の報告によって、以上のような諸問題が露わになった。元来、このパネルは、もう少し広い話題を取り上げる予定で組み立てられていたが、島薗を含め各論者はおのずから「ゲノム編集を行なった子どもの誕生」問題を意識することになったので、そこが議論の焦点のようになった。

 島薗はヨーロッパ諸国のような胚の扱いを巡る広い法制度を世界各国が定めることは容易でないので、まずはゲノム編集を行なった受精卵の着床を禁止するという点を基軸に、各国での法制度がととのえられ、国際規制も行なわれる必要があると論じた。

 会場からの質問を二つ紹介しよう。

 一つは、特定の難病の人からゲノム編集で難病の遺伝を避けることへの期待が高いが、それも禁止するのかというものだった。島薗は原則禁止として、限られた特定の難病の遺伝を防ぐための適用を認めるといった制度枠組みも可能ではないかと答えた。

 二つ目は、たとえ広くゲノム編集が行なわれていくようになっても(たとえば一千万人に対して行なわれても)、数十億人の人類から見ればごく一部であり、通婚も行なわれるのだから人類の差別や分断といったことを危惧するのは考えすぎではないかというものだった。

 この問いは重要であるが、ゲノム編集が広く行なわれた場合、人類社会に何が起こるかという問いへの一つの応答を前提にした問いである。このような許容的な見方が妥当なのか、島薗のように規制を求める見方が妥当なのか、簡単には答えが出ないだろう。

 だが、我々はこうした問いに向き合さざるをえないところに来ているのだ。島薗はこの学会でそのように応じた。

 短い討議時間だったが、島薗にとっては今、考えなくてはならない重要な問いが投げかけられたと感じた。将来世代に対する責任という観点からも、市民社会がじっくり真剣に取り組むべき問題なのだ。

 学術分野としても、主に医学者・生命科学者に課せられたものとは言えない。倫理学者や法学者も取り組まなくてはならない。否、人文学、社会科学の諸分野を含めて、広範囲の知識が求められる問題領域が生じているのだ。

 2018年の11月は、そのような問題領域の重要性が強く認識されるようになった転機の一つとして記憶されるようになるかもしれない。



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