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2019年2月13日 (水)

ゲノム編集した子の誕生報道 ③

続き:

 ● 重い倫理問題と法的規制への言及を避ける

 同様の印象を受けるのは、『朝日新聞』の2018/12/02、社説だ。それは、「生まれてくる子どもを実験の道具にしたとしか思えない行いだ。断じて許されない」と書き起こされていて、まずはそこにこそ倫理問題があると捉えていることがわかる。

 そのすこし後に、「人の手が加えられた遺伝子が、そ の子本人や子孫の世代にどんな影響を及ぼすのかは予測不能だ。どんな場合であれば認めて良いか、社会全体は勿論、科学者の間でも合意は形づくられていない」とあるから、人類社会に影響が及ぶような倫理問題を全く意識していないわけではないようだ。

 だが、先の方では、ゲノム編集を施した受精卵を着床させ出産させるのを容認するような記述も見られる。

 米科学アカデミーは2017年、重い遺伝子性疾患が子に伝わるのを防ぐ場合に限り、有効

 性や安全性が確認されるなどの条件を満たせば臨床応用を認めるとする報告書をまと

 めた。

 今回の副教授の行為は、この条件を満たしておらず、容姿などに関する遺伝子を親の望

 むように変える「デザイナーベビー」の発想に近い。

 これはややわかりにくい見解である。賀建奎氏が行なったとされるゲノム編集の出産は、「容姿などに関する遺伝子を親の望むように変える「デザイナーベビー」の発想」とはだいぶ異なる。むしろ米科学アカデミーが容認しようとしている「重い遺伝性疾患が子に伝わるのを防ぐ場合」に近いと捉えることもできるからだ。

 では、そのような遺伝性疾患を防ぐためのゲノム編集を認めた場合、その許容範囲をどこで止めることができるのか。どこかで線引きができなければ、いずれは「容姿などに関する遺伝子を親の望むように変える「デザイナーベビー」の発想」にまで至ってしまうのではないか。ここにこそ困難な重い問題があるはずである。

 日本医師会・日本医学会の共同声明と『朝日新聞』の社説は、どちらも法律による規制や国際規制の必要性に触れていない。

 これは現在、日本の総合科学技術イノベーション会議の生命倫理専門調査会で進められているようにガイドライン(指針)による「ルールづくり」で行くのが好ましいという考え方を背後に宿しているように感じられる。

● 倫理問題を重んじた共同声明

 他方、ゲノム編集による子の出産の広がりが将来の社会に及ぼす影響により多くの考慮を払いその倫理的論点を重視した意見表明も行われている。2018/12/25、に公表された日本哲学会・日本倫理学会・日本宗教学会(各理事会・評議員会)の共同声明はその一つだ。

 そこでは、現時点でのゲノム編集の安全性という観点、また生まれてくる子どもの福利という観点からの懸念も表明されている。

 出産が事実であるとすれば、出生する子どもへの予期せぬ副作用や人権問題など、

 医学的・倫理学的にみて重大な懸念があることが指摘されています。また、HIV 感染

 の予防であれば他にも方法があったのに、このような方法を用いたことにも批判が

 なされています。生まれてきた子どもに害が及ぶ可能性があり、どのように親の同意

 を得たのかにも疑問が投げかけられています。

 しかし、この声明では「一段と重い倫理的問題」が主題とされている。

 これらも重い倫理的問題であり、こうした臨床研究と医療行為が許容しがたいことの

 理由として十分かもしれません。しかし、この臨床研究と医療行為が投げかけたさらに

 一段と重い倫理的問題があります。それは、遺伝子改変が世代を超えて不可逆的に

 子孫に伝わり、人類という種をゲノムのレベルで変えていくことの始まりになりかねな

 いという点です。このことの是非は医学者・科学者や特定疾患の患者や関係者だけに

 関わるのではなく、人類全体の未来に関わる極めて重い倫理的問題です。

 これは、第一回「ヒト遺伝子編集国際サミット」で取り上げられた (1)~(6) の問題のうち、科学的に安全性の問題がクリアされたとしても、さらに残る (3)~(6) の倫理的問題の重要性を指摘するものだ。

 2018年11月のゲノム編集を施した子の出産の報道は、こうした長期的に問題であり続けるであろう倫理的問題を露わにしたと捉えている。

 こうした臨床応用が進められて、「デザイナーベビーというような事態が展開すれば、人類の育種、あるいは優生学的な改変につながります」との倫理的懸念を表明する。そして、国内における法的規制と国際規制についても本格的に検討すべきことを求めている。

 以上のような重大な懸念があるのですから、人間へのゲノム編集の適用、とりわけ生殖系列細胞への適用、さらには受胎についての法的規制について本格的に検討する必要があります。

 また、国際規制の可能性についても検討を始めるべきです。何故なら、特定の国で規制されないということになれば、他の国々が倫理的配慮を重んじてもグローバル社会としてくいとめることはできなくなってしまうからです。




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